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幕間2-03.大好きな恋人に

 私の話が終わった後、トアからも話を聞いた。

 (リリー)がいなくなった後どうなったのか。

 聞き終えた感想としては兄は当時から間違えても尊敬出来ない人だったけれど、ますますその思いが強くなったって感じ。トアに糾弾されて、領兵に捕まって当時の領主だった母の前に引きずり出されて、申し開きがあるか聞かれて兄は私が全部悪いって訴えたらしい。母は私を次期領主に据えるつもりでいた。

 それは私がトアっていうすべての精霊の頂点である偉大な大精霊と契約したっていうのもあるけど、私が兄みたいに他種族差別思想と同族においても権力者とそれ以外っていう権力絶対主義な思想に染まってなかったっていうのが大きい。私と兄の大喧嘩の原因もそれだった。結局最後まで私の訴えは通じなかったんだね。考えを改めてくれたら領主の座は譲るよって何度も何度も言ったのに。面倒くさいことしたくないって思ってたから。

 結局、兄は話が通じない。そう思ったらしい母は兄のことを見限ったという。

 廃嫡の上、人族に倣って重い罪を犯した権力者への罰として行われているという毒杯の飲用を兄に命じ、7日後にそれが実行された。母もこの責任を取って領主を辞任。その座には母の妹。私からすると叔母が就任した。そしてその一部始終を見届けた後、トアはこの森に引き篭もったらしい。それで話は終わり。


「うーん」


 呻る私にトアが笑う。

 彼女は私に手を差し出してきて当時した約束を果たして欲しいと私に告げる。


『リリー、あのときした約束を覚えてかしら?』

「うん!」


 忘れる筈がない。全部終わったら一緒に旅に出ようっていうあの約束。

 悪いことにフラグになっちゃって果たされないままになっていたけれど。


「トア、遅くなったけど一緒に行こう。世界はね、私達が話してたより広いよ」

『えぇ、リリー』


 私とトアは手と手を取り合う。

 この日、やっと長かった過去が終わった。




 その後集落に戻った私達はそれはもう大変な騒ぎに巻き込まれた。

 特に何も考えずトアを連れて戻ったせいで「リリー様の再来だ」とか集落のエルフ達は右に左に行ったり来たり。うん、再来じゃなくて本人なんだけどね。今の領主の元に招待されて、トアを連れていくことをそこで承認してもらって、宴が催されて私達は全員でそれに参加した。

 それは3日程続いた。うぷっ、もう暫く甘いものは食べたくない。見たくもない。

 この集落の名物が甘い物大好きな妖精達が作る蜂蜜団子だってこと忘れてた。

 彼女達とこの集落のエルフは契約を結んでて定期的にそれを仕入れてるんだ。

 宴でこれでもかって出てきた。それだけでもあれなのに妖精達に甘い物を次々口に放り込まれた。

 太った・・・かも? アメリアは全然変わってないって言うけど。


 そんな騒ぎも昨日まで。今日は出発の日。

 私達は一の鐘と同時に集落を出・・・ずに集落の一角。多少人が住む場所からは離れた位置ではあるけど人の営みが聞こえる程度の距離にある霊園にきている。

 母の墓参りのため。領主に聞いたらこの霊園の代々領主が眠る墓に母もいるって教えてもらった。

 ちなみに死体は無くても(リリー)もいるらしい。変な気分。私は今はユーリだけどここで生きてるからね。


「お母さん、ただいま。親不幸な娘でごめんね」


 私は(リリー)として花を供えて手を合わせる。

 仲間達も一緒に。

 奇しくも今日は母の命日らしい。

 あのとき、あの後、母は一体どんなことを考えていたのだろう。

 母は厳しくも優しい人だった。地球のユーリの両親と比べたらそれはもう雲泥の差だった。比べるのも失礼すぎるけど。


「お母さん、もう一度貴女に抱き締めて欲しかった」


 どうしてそんな言葉が出たのだろう。

 気が付けば出ていた。

 そんなとき、お墓の中から淡い光の球体が出てくる。出てきたように見えた。その光は人型を取り、私を抱き締めてくれて、暫くして魔素の中に溶けて行った。


「お母さ・・・」


 母は丁度こっちに帰って来ていたのだろうか。

 そして私を抱き締めてくれたんだろうか。

 

「うっ、ううっ・・・」


 涙が溢れる。次々に溢れて止まらない。


「お母さん、お母さん・・・うぅ・・・っ。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 膝を折りそうになる。


「「「「ユーリ(さん)!!」」」」

『リリー』


 皆が支えてくれた。


「アメリア、トア、コーネリア、アンナさん、ラナさん・・・ありがと・・・う」

「「「「・・・・・」」」」

『・・・・・』


「「「「ユーリ(さん)のお母さん(様)」」」」

『私達がリリーを。・・・ユーリを守ります。傍にいます。ですから安心して』

「「「「見守っていてください」」」」


「うぁ・・・」


 そんなの。そんなのってさぁ。ダメだよ。ますます止まらなくなるじゃん。


「うっ・・・うぐっ・・・ひっくっ」


 私はそれから皆に抱き着いて涙が枯れるまで泣き続けた。




 墓参りを終えて、集落のエルフにも挨拶をして改めて出発。

 森を歩き、相変わらず途中で私はへばって脱落。

 野営して翌日無事森を抜けた。

 



 更にそれから数日後。

 私達は懐かしい王都に帰ってきている。

 トアにこの街並みを見せてあげたかっていうのもある。

 見るもの聞くもの全部が珍しいって言うトアはそれはもうはしゃいで可愛いから。

 あの森から出たことないだけに楽しくて仕方ないらしい。

 アメリアでさえもトアのそんな様子を見て微笑ましそうに見るくらい可愛い。

 皆でトアをあちこち連れまわしてご飯はギルドで食べて大騒ぎ。

 他のハンターも巻き込んで話に花を咲かせて盛り上がる。


「ああ、あそこの集落ね。あそこの森守人(エルフ)達はきっとハイエルフじゃないからだと思うわ。私達はハイエルフに一度会ったことあるけど、それはもう高慢だったわよ。あ、そう言えば貴女もエルフね」

「そうなんですか? ハイエルフには会いたくないなぁ」

「会わないほうがいいわよ。世界は自分達を中心に回ってるって感じなんだから」

『まぁ一応原初の森守人(エルフ)なのは確かだけどね。だからって威張る意味なんてないのだけど』

「うちハイエルフは苦手」

「ユーリとラナは親しみやすいよ」

「私達はハイエルフじゃないけどね」

「それでもいいの」

「「あはは」」

「親しみやすいの分かるー」


 巻き込むのは女性ハンターだけね。

 男性ハンターも混ざりたそうに見てるけど混ぜてあげません。


「百合に混ざろうとする男はユニコーンに刺された後、蹴られて亡くなってしまえばいいのですわ」

「百合ってお花のことですよね?」

「女の子同士で付き合うことを百合というのだとユーリが言ってましたわ」

「へぇ、どうして百合なんだろう?」

「さあ? でもなんとなくピッタリな気がしませんこと?」

「確かに」

「そうですね」


 私達は大いに食べて、大いに飲んで、大いに笑って今を楽しむ。

 この日解散したのは五の鐘が鳴ってから五刻程過ぎてからだった。




 一の鐘が鳴り終わって半刻程が過ぎた頃。

 普段ならなんらかの行動をし始めている頃合いなのに今日の私はまだベットの中にいた。


「う~~~ん」


 昨日はしゃぎすぎて体が怠い。動きたくない。今日は働きたくない。

 掛け布団を頭まで被ってごろごろする。

 うつらうつらしてると頭上から聞こえてくる声。


「ユーリ、朝だよ。そんな風に朝寝坊するユーリも可愛いけど、ボクはユーリに起きて欲しいなぁ」

「アメリアぁ」

「なぁに?」

「キスして」


 とりあえず頭だけ布団から出して眠気眼で触れ合いを強請ってみる。

 それを聞いて笑うアメリア。キス魔だって思われてたりするかな? あってるよ。アメリア限定でキスするの、されるの大好き。

 ベットに腰を下ろして、それから私の体を支えるようにして半身を起こさせて、それからアメリアは私の要望に応えてキスしてくれる。


「「んっ・・・」」


 柔らかい。それがすぐ離れていこうとする。

 やだ。もっと。もっとアメリアを感じていたい。


「もっと」


 だから更に強請る。

 アメリアの首に手を回して引っ張ってベットに寝させる。


「ユーリ!」

「大好き」


 キス。苦しくなったら一度離れて微笑んでまたキス。

 アメリアが私と体を反転させる。

 その瞳には余裕が無くなってる?


「ユーリ、朝から誘惑しすぎ。可愛すぎてボク、ドキドキしてるんだけど?」


 えへへ。そっかぁ。成功成功。じゃあこのまま恋人に愛してもらおう。


「好き、大好き。いっぱい好き、沢山好き。世界で一番アメリアが大好き」


 体を密着して頬擦り。

 手をアメリアの服の中に入れる。


「ユーリ~~~」

「甘えたい。甘えさせて?」

「・・・ユーリがどうしようもなく可愛すぎるよ。ボクも甘えていい?」

「うん!」

「ユーリ」

「アメリア」


 私達はキスをして、お互いに服を脱がしあって、触れ合う。

 甘えて、甘えさせて、私達は幸せの中に溶けあう。

 

 

 結局その日は1日中大好きな恋人と2人きりで過ごした。



 翌日。とうとうトアからもバカップル呼ばわりされるように。少しくらいは反省してます。本当にごめんなさい。

 さぁ、気を取り直して今日からまた頑張ろうー!!

これにて幕間は完結となります。

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