04.テイム
早くも予告を考えるのが面倒くさいと思い始めてきました(笑)
「知らない・・・ようで知ってる天井だ」
目覚めて朝一番に私が言ったことはそれだった。
昨日のことあまり記憶がない。
朧げに老婆・シンシアさんと言うらしい。人に助けられて、そのことについてひたすらお礼を言って、怪我を治してもらって、それから一緒に豚肉を食べたような気がする。
その後はそう、私を助けてくれた狼についてシンシアさんが話してくれた。
狼の種族はフェンリル。ただし、昨日出会った全ての狼がそうではなくて私を助けてくれた狼1匹だけがそういう種族らしい。他はガルムって言ってたかな。確かそう。
フェンリルはこの世界でたった3匹だけ。母親と父親とそして彼女。
女の子だったのか。ってちょっとびっくりした。
だってオークに立ち向かうところなんて勇ましかったから。
でも言われてみれば野生の世界。例え女の子であろうと勇ましのは当然といえば当然だ。
それに私は異世界に来たのだ。女騎士とか普通にいるだろう。昨日の出来事を思い返すとここはどうもそういう世界っぼいし。
というかダメだな。女だから。男だから。女なのだから。男なのだから。
偏見の目で見てしまっている。
これじゃあ私を取り巻いていた連中と同じだ。
そうはならないようにしよう!って幼き日に密かに誓ったのに。
ってあれ? 案外覚えてるな。
それに私、思ってたより元気だな。あんなことあったばかりなのに。
「感覚、麻痺してるのかな」
そんなことを呟いてみる。それから苦笑。
ふと"じ~~~"と私を見ている視線があることに気付く。
そちらを向くとフェンリル。
見るからに心配そうな顔をしている。
「もう大丈夫だよ」
微笑み、ベットに半身を起こし、体を回転させて足を地につけて立ち向がる。
そうして足元のフェンリルと顔を合わせるように屈むとそれまで座っていたフェンリルは地に伏せて尻尾をちぎれんばかりに振り始める。
《お姉ちゃん、遊ぼ。遊ぼ》
可愛いなぁ。
ひたすらもふもふ。
頭を撫でて、背中を撫でて、ひっくり返してお腹を撫でて。
弱点を晒させたのにフェンリルは文句を言わなかった。
むしろもっと撫でて欲しいときゃあきゃあ言っていた。可愛い。
もふもふもふもふもふもふ。
暫く撫で続けているとふと気付く。
「そういえば君の名前はなんて言うの?」
この時某有名な映画のタイトルが頭に浮かんだのはどうでもいいことだ。
閑話休題。
《名前? 名前。フェンリル》
「それは種族名でしょう? 個体名はないの?」
《ないよ。お姉ちゃん、つけて》
「ええ! そういうのは苦手なんだけど」
断ろうと思ったけど、フェンリルはキラキラした目で私を見ている。
こんな目をしたワンコの前で願いを断るなんて鬼畜なこと出来るだろうか。
私は出来ない。
結局折れることになった。
フェンリル、犬、大福…。
ダ、ダメ。やっぱり苦手。
ちらっ。
キラキラキラキラ。
うっ・・・・・・・・・・・・・・・・・。
フェンリル・・・女の子、姫様。あ!
「アメリア。アメリアってどうかな?」
《アメリア。ボクの名前はアメリア》
「うん! あ、君ってボクっ子だったんだ」
《私の方がいい?》
「ううん、どっちでもいいよ」
《えへへ。ボクはアメリア。お姉ちゃん、契約してくれてありがとう》
「どう致しまして」
あれ? 今何か聞き捨てならない言葉があったような?
なんかアメリア輝いてる? それに体が大きくなってるような気もする。
ん? ん~?
首を傾げている私に輝きが終わり、一回り大きくなったアメリアが私と同じように首を傾げる。
《どうしたの? お姉ちゃん》
「アメリア大きくなったね?」
《うん! お姉ちゃんがボクを主従契約したことでお姉ちゃんと繋がってお姉ちゃんの魔力がボクに流れ込で来たからね》
「へっ?主従契約? 魔力?」
《うん!お姉ちゃんの魔力、とっても心地よくて美味しかったよ》
は?
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
知らない間に何かやらかしたぁぁぁあ!!
アメリアに主従契約と魔力について詳しく聞くことにした。
主従契約とは対象の相手と文字通り主従の関係を結ぶこと。
フェンリルやユニコーン等と言った幻獣と呼ばれる種族。
又は一部の魔物と人族及び亜人族間での契約をそう呼ぶ。
種族について気になったけどそれはまた後で聞こうと思う。
人族・亜人族が幻獣の主人となる場合は幻獣に名を与える。
その逆の場合は血を与える。
これにより双方共にその意思があれば契約成立となり主従関係が結ばれる。
以降はどちらかが死ぬか主人が契約を破棄するまでその関係は保たれる。
でも私は契約をしようという意思はなかった。
なのに契約は成立した。
不思議に思いアメリアに「私はその意思はなかったんだけど」と聞くと《契約の最中に何かそれに準ずるようなこと考えてなかった?》と言われて思い返すと思い切り考えていたことに思い当たった。
大福のことだ・・・。
呆然とする私。
私の目にアメリアの何処か悲しそうな目が映る。
《嫌だったの?》目でそう聞かれているような気がして。
「そんなことないよ」
私はアメリアの首に手を回し、顔をその白い体毛に渦める。
ふかふかで温かい。もふもふ天国。
そうしているとなんだか細かいことはどうでも良くなって来て私は現状を全部受け入れることにした。
少し考えてみれば悩んだりすることなんて余り意味のないことなんだ。
世界が変われば常識が変わるのは当たり前。
だから私が知らずのうちに主従契約しちゃってても、明らかに私の耳が地球にいた頃よりも長くなっていても、私の体内に得体のしれない何かがあることを感じていても、それらはそんなに悩むことでもないのだ。うん。
まぁだからって常識知らずだと絶対色々良くないことが私の身に降りかかるだろうからアメリアやシンシアさんに教えてもらうつもりだけど。
「魔力って何?」
《魔力はね~》
この世界には魔法がある。
その魔法の元になるのが魔力。
魔力は人や幻獣達の体内に入るとそう呼ばれる。
それまでは魔素と呼び名が違う。
空気中にあるうちは魔素。
魔素は世界樹と呼ばれるこの世界最大の樹木とそれに準ずる聖霊樹が生み出している。
その魔素だが何かの拍子に瘴気に変わることがあるらしい。
何故そうなるのかは詳しいことは分かってない。
空気中にそういう成分があるのか、それとも地上に何かがあるのか。それ以外の理由なのか。
魔素が瘴気に変わると人や動物に悪影響を及ぼす。
幻獣には左程効果はないが人や動物が吸い込むと良くて重い病気、悪いと体が変質して邪族と呼ばれる基本的に理性のない狂戦士となり破壊行為や迷惑行為を繰り返すようになる。
邪族となった者を元に戻す方法はない。殺るか殺られるかそれだけ。
物騒だ。身が縮こまる思い。
軽く震えでもしていたのかな。
アメリアがこちらに優しく身を寄せてくれる。
「ありがとう。アメリアは優しいね」
《お姉ちゃんのこと好きだから》
可愛い。全身を撫でてもふもふする。
気持ちよさげに目を細めるアメリア。
「ああ、起きたかい」
シンシアさんが部屋に入ってきたのはそんなときだった。
悠里「オーク美味しかった」
シンシア「お前さんを襲おうとした奴なんじゃが、動じんのじゃな」
悠里「だって死んだら普通にお肉じゃないですか。割り切りは大切です」
シンシア「・・・そうか」
フェンリル「わかりみー」
シンシア「その言葉何処で覚えた」
フェンリル「お姉ちゃんが教えてくれた」
シンシア「おい」
悠里「てへっ」
悠里「次回 心の解放。私、美少女になります!」
シンシア「自分で言いおった」
悠里「いえーい」