2-05.新しい友達
その日の私達はハンターギルドにいた。
それというのもお小遣い稼ぎのため。
まだ学生の身分のため危険が伴う討伐任務は学園とギルドの両方から禁止されているのだけど、薬草の採集とかゴブリンにスライムの討伐程度なら学生のお小遣い稼ぎとして許されているのだ。
ということでクエストボードの前に行って採集にするかゴブリン討伐にするかを4人で決める。
どちらも不人気なためにいつでも残っている。
「どっちにする?」
「ボクはゴブリン行きたい」
「ではゴブリン討伐にしましょうか」
「いいの?」
「いいと思う。魔物との戦闘たまにしないと体が忘れそうだし」
クエストボードからゴブリン討伐の依頼書を取る。
一口にゴブリン討伐と言っても何種類かあり、今回私達が選んだのは王都から馬車で日帰り出来る距離にある村に出没するゴブリンの討伐。畑を荒らしまわっていてほとほと困っているらしい。
下手したら収穫が減って命に係わるために他のより微々たるものだけど報酬が高め。なのでこれを選んだ。嬉々として受付嬢さんのところに持っていこうとすると暫くぶりに見るその姿。向こうもこちらに気付いて手を振ってくれる。私達はその手の主のところへ走っていく。
「リゼさん!」
「よぉ、久しぶりじゃないかい。どうだい? 学園は楽しんでるかい?」
「はい、結構楽しんでます。リゼさんはハンター活動どうですか?」
「あたしも順調さ。Bランクまで上がったよ」
えっ! 早い。3ヶ月足らずでBランクってどう考えても早すぎる。
一体何したらそんな。私達は呆けていたのだろう。それを見たリゼさんが説明してくれる。
「実はね」
まだDランクだった頃、リゼさんは体長1mの兎の額にユニコーンのような角が生えた魔物ことホーンラビット討伐の依頼を受けてこれから私達が行こうとしてる村に行ったらしい。ところが突如ワイバーンの群れが村を強襲。それをリゼさん1人で全部倒したため、その功績が認められてついこの間Bランクに上がったとのこと。空の相手をどうやって? と聞いたら斧をぶん投げてと応えられて私達はまたしても呆けてしまった。だってそうでしょ? リゼさんの身長が多分170cm前後。ワイバーンはどのくらいの高さにいたのか分からないけど、そんな低いところにはいなかった筈。それを斧を投げて届かせて討伐とか頭おかしいよ。
あまりのことに「獣人族って皆そういうこと出来るの?」ってアメリアに聞いたらアメリアは勿論、アンナさんと他にたまたま話を聞いていたらしい獣人族のハンター皆が青い顔で首を横に振った。男性の獣人族ハンターも首振ってた。そっか。一般的に力が強いとされる男性より強いのか。リゼさん。恐ろしい人だわ。もう全部この人に任せておけばいいんじゃないかな。
「ユーリ、何考えてるんだい」
バレた。いや、だって・・ねぇ?
「ところであんた達はこれからゴブリン討伐だって?」
「あ、はい。偶然ですけど、目的地はリゼさんが行った村ですね」
話題を変えられた気がしなくもないけどまぁいいか。
「そうかい。あたしも一緒に行ってやりたいがこれから商人の護衛任務が入っててね。遠出しなくちゃいけないんだよ。・・・・とそろそろ行かなくちゃいけないね。じゃああたしは行くよ。あんた達が元気そうで良かったよ。帰ってきたら飯でも一緒に食べようじゃないかい。ね」
「「「「はい!」」」」
「そのときはリゼさんの奢りで」
「がははははっ。いいさ。それくらい奢ってやるよ」
「「「やった!」」」
「さて、じゃあ頑張んな」
「「「「はーい」」」」
私達はリゼさんを見送ってから受付嬢さんのところへ。
久しぶりに会えて嬉しかった。変わってなかったなぁ。リゼさん。
何かフラグっぽいって? そういうのほんとやめて。
「ああ。このゴブリン討伐の依頼ですね。誰も受けてくれなくて困ってたんですよ。助かります。すぐに受理しますので少々お待ちください」
そう言うと受付嬢さんはほんとにささっと承認処理をしてくれる。
依頼書に承認という文字がでかでかと書かれたハンコが"ポンッ"と押された。
これで受注完了。受付嬢さんの笑顔と共に私達はギルドを後にしようとして。
「っ!」
「あら、ごめんなさい」
アンナさんが人にぶつかった。
自然と立ち止まることになってその人を見る。
釣り目で強気な顔立ちな金髪ドリル。身長は私と変わらないくらい。何がとは言わないけどその部分は私の勝ち。やったね! ワインレッドな制服姿。地人族なクラスメイトの女子だ。
「ほんとにごめんなさい。不注意だったわ」
「いえ、こちらこそすいません。あの、失礼ですけどコーネリアさんですよね?」
「え、ええ。貴女はアンナさんね。それにユーリさんにアメリアさん、ラナさんも。皆さん本当に仲がよろしいのね」
そうだ。コーネリアさん。特別クラスの女子の中では唯一の貴族。だからかなんか浮いてて一人なことが多いんだよね。初めて話したけど、貴族にしては物腰柔らかくて良い子っぽい。
「コーネリアさんは依頼に? それともクエストですか?」
気になったので聞いてみる。
コーネリアさんは何か思うことでもあるのだろうか。数巡してから私の質問に応えてくれる。
「クエストを受けに・・・来ましたの。貴族なのにって思うかしら」
顔を僅かに背けながら言うその様子は庇護欲を掻き立てられる。
「貴族のくせに小遣い稼ぎとか」とかなんとか言われて笑われでもしたことがあるんだろうか。
あの糞貴族のせいで貴族は全員嫌いってなってた。視野が狭まってたなぁって反省。
貴族は貴族で大変なんだね。
「・・・・・」
私は皆の顔を見る。
それに頷いてくれる仲間達。
うん、決定だね。
それじゃあ・・・。
「あの、コーネリアさん。良かったら私達と一緒に行きませんか?」
「え?」
「その・・・平民と一緒なんて嫌かもしれませんけど、もし良かったら仲良くしていただけたらと」
えーっと私から決めておいてなんだけど大丈夫だよね。
平民の分際でーとか怒られたりしないよね。
少々恐々としつつコーネリアさんの返事を待つ。
コーネリアさんは目を見開いて。
「本当に? 本当によろしいんですの? 皆さんこそ貴族なんかと仲良くするのは嫌じゃありませんの?」
「いえ、そんなことないですよ。・・・あぁ、正直に言うとついさっきまで貴族ってあまり好きじゃありませんでした。でもコーネリアさんみたいな貴族もいるんだなぁって思って。その、反省してます」
「ふふっ、ユーリさんは正直ですのね」
あ! 笑った。笑顔結構可愛い。
これは是非とも友達になりたい。
よし、当たって砕けろ。で行こうー。
「コーネリアさん」
「はい?」
「友達になってください」
私は頭を軽く下げてそのまま手を差し出す。
するとアメリアとアンナさん、ラナさんもそれに倣った。
コーネリアさんの返事待ち。果たして返事は――――。
「よろしくお願いしますわ」
彼女はまず私。次にアメリア、アンナさん、ラナさんの順で手を取って友達になってくれた。
それと同時にこの日[[紅の絆]]にメンバーが1人加わった。
馬車に乗り村に辿り着いた私達。
早速村長さんに挨拶に行ったのだけど、待ちに待ったハンターがハンターでなく学生でしかも全員女性ってことであからさまにガッカリされてしまった。
話を聞いても面倒くさそうに依頼書にあった通りのことを説明するだけ。
詳しく教えて欲しいと伝えても無視。
殺意が芽生えたし、帰ろうかとも思ったけど、リゼさんの名前を出すと態度が一変した。
「貴女方は英雄様の関係者なのですか!?」
英雄様って。崇拝されてますよ? リゼさん。
しかしこうも態度を変えられると清々しいな。
さっきまで迷惑そうだったのに。
私は優しくないからその辺をつつく。
「随分変わり身が速いですね」
黙る村長。それを見て吹き出しそうになる私の仲間達。
コーネリアさんだけは私のそういうところを知らなかったようで驚いている。
これから知っていってね。
「それは・・・申し訳ございませんでしたじゃ。皆さんが女性であったでの。儂もつい」
「リゼさんにもそうだったんですか?」
「それは・・・・・・・」
ハァ・・・。やれやれ。男尊女卑か。いやだなぁ。
とは言え、これもお仕事。切り替え切り替え。
「まぁいいです。リゼさんの関係者だと分かったところで詳細を教えてくれますね?」
「は、はい」
それから私達は詳細を聞いてその場所へ向かった。
ゴブリンはいつも四の鐘が鳴る頃現れるという。
それまで後少し。待機。
「さっきは驚きましたわ」
「ん?」
「ユーリさんって」
「ユーリでいいよ。私も呼び捨てにしていい?」
「はい。ではユーリって意外と言いたいことを"ズバッ"と言うんですのね」
「幻滅した?」
「いいえ。"スカッ"としましたわ。わたくしもあの態度は気に入りませんでしたの」
「そっか。じゃあ良かった」
「ふふっ。改めて友達になれて良かったと思いましたわ。ユーリ、アメリア・・・さ」
「ボク達も呼び捨てでいいよ」
「うん、私達もね」
「ありがとう・・・ございます」
「あの。ユーリ、アメリア、アンナ、ラナ。仲良くしてくださいね」
「「「「勿論」」」」
話が纏まったところでラナさんが微笑む。
「それにしてもさ。ここって前にリーダーがワイバーンを退治した村と同じなんだよね? また何か起きたりしてね。ゴブリンキングがいるとかさ」
けらけら笑ってるけど・・・。
また、また・・・。ラナさんのアホーーーーーーーーーー!!




