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幕間09.最悪の再会

残酷な描写があります。

苦手な方は注意してください。

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※注 この回以降あらすじに書かれています注意事項がより鮮明に描かれていきます。

読者様につきましてはそちらの旨、予めご理解・ご協力の程よろしくお願い申し上げます。

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5000字超え。やや長めです。

 盗賊達は自分達のツキに打ち震えていた。

 マウリの町から測ってキビエの村まで残り1/3といった場所。

 そこでやたら小綺麗な馬車を見かけ最初はどうするか悩んだものの仲間の1人が馬車に乗るやたら美人な森守人(エルフ)の女性を見たと言い出し、男所帯で女に飢えている盗賊達はこれ幸いと悩むのをやめて馬車に襲いかかった。抵抗は何故か無かった。冒険者風の恰好をした者もいたが盗賊達を見ると武器を捨てて盗賊達の言うがまま大人しく投降した。

 仲間の1人、鹵獲のキッカケを作った男が"ひゅう"と口笛を吹く。

 彼がつい、そんな行動をしてしまう理由が仲間達もよく分かる。

 この馬車。客の殆どが女性。しかもやけに上玉な女性達ばかり。

 特に目をつくのは中性的な顔立ちに銀髪な獣人族(セルリア)の女性だろうか。

 次いで子供っぽくはあるが一目でいいところのお嬢様だと分かる身なりの森守人(エルフ)の女性。

 見るからに生娘に違いないと全員が思う。好みは人それぞれ。何人かが第三者が見ると顔を背けたくなるような醜悪で下卑た笑みを零す。


「ぐへへっ、ついてるぜ」

「ああ、今日は宴だな」


 麻縄で縛り上げた女性達。

 彼女達を引き連れて盗賊達はアジトに向かう。

 今夜は久しぶりに楽しい宴を開くことが出来るだろう。

 残念ながら食料はあまり積まれていなかったが捕まえた女性達はそれを補って余りある。

 盗賊達は愉快な気分に満たされる。歩きながら妄想する。普段は嫌っている神に感謝する。


 こんないい思いをさせてくれてありがとうございます。――――と。




 まぁ実際は私達を捕獲したことは不幸そのものなんだけどね。

 アジトに到着して手作りらしき石牢に全員で入れられた私達は顔を顰めていた。

 先客が2名程無造作に石畳の上に寝かされているのを見てしまったからだ。


「ユーリの言う通りだったね」

 

 アメリアが今にも零れそうになる殺気を抑えながら呟く。

 それを受けて黙って頷く私と[[大地の息吹]]の面々。他の乗客。

 実はこうやって捕まることは私が休憩所を出発して走り出した馬車の中で提案していた。

 その際捕まるのは戦闘能力のある女性だけ。

 男性とその力を持たない女性の乗客は光魔法を使って光を屈折させて盗賊からは実際はそこにいるのに見えないようにすると話して実際にそのように行動した。

 自分達がさっさと出て行けば盗賊達はわざわざ家探しのような真似をしたりはしないだろうと確信があったから。それならば他の乗客は見つかることは無い。

 ちょっとナルシストっぽいこと言うけど私、美少女だからさ。

 他の面々もアメリアを筆頭に美女に美少女ばかりだからさ。

 こんな可愛い女性がさくっと降りて行けばそちらに目を奪われて他のことは気にならなくなるだろうってそう思ったんだよ。当たってたよね。盗賊達はかる~く馬車内を見渡したらそれで終わりにして私達を縄で縛り始めた。その際にこそっとボディタッチしてきた奴の顔はしっかり覚えてる。あいつは死ぬよりも辛い地獄を見せてあげようと思うよ。うん。


「さて・・・」


 わざわざアジトまで連れてきてくれたおかげで一網打尽に出来る。

 それとそのおかげで先客を救い出すことが出来る。

 多分いるだろうことが分かっていたからあの場で殲滅させずこういう作戦を執ったのだ。

 心のケアは出来ないけど、体の傷なんかは癒してあげられる。

 風魔法を使用してまずは私とアンナさんの縄を切る。

 その後2人で先客の女性達の怪我を調べる・・・。


「ユーリさん、お気持ちは分かりますが落ち着いてください」


 小声でアンナさんが私のことを窘める。

 いけない。殺意が漏れてたか。「すー・・はー、すー・・・はー・・」深呼吸。


「アンナさん、彼女達の代償ですが私の魔力で支払うので上級の治癒魔法をお願いします。一度に治してしまいましょう」

「大丈夫なのですか?」

「私の魔力は人よりも大分多いので平気です」

「それなら、分かりました」

「ちょっと待ってくださいね」


 魔力操作。両手に集めて彼女達に放出。寝袋のように全身を包む。顔はパックみたいな感じで。


「これで大丈夫です。お願いします。私もやりますので」

「うん」


 傷のない綺麗な肌部分をしっかり見て元々はそうだったのだということを考える。

 腫れも傷もない。綺麗な体。イメージ。内臓もやられてるかもしれない。正常に働くことをイメージ。

 私は医学には詳しくないけど、近代日本に生きていただけに学校の教科書やらそうでなくてもネットの画像とか動画とかでそれなりの知識はある。内臓の見た目とか働きとかそれくらいは分かるよ。

 さぁ、これで大丈夫。でも時間は戻してあげられないんだ、ごめんね。見た目だけだけど。


最上級治癒魔法(グレーターヒール)

上級治癒魔法(ハイヒール)


 私とアンナさんの魔法が発動して女性達の傷を癒していく。

 腫れなども収まり、元の可愛らしい顔を女性達が取り戻したところで今の今まで気を失っていた彼女達が目覚める。


「う・・・ん」

「あれ? 私達」

「・・・・・!! お姉ちゃん、傷が治ってるよ」

「え? あ!! 貴女も」

「「あ・・・あぁ・・・」」


 ここで女性達が私達に気付く。

 

「良かったですね」


 笑いかけると彼女達は何が起こったのか理解したのだろう。

 2人で抱き合って泣き始める。


「ありがとう。ありがとう・・・うっうぅぅ」

「ありがとうございます・・・ひくっ・・うぅ」


 見ているともらい泣きしてしまいそう。

 だけど今はまだそのときじゃない。

 アメリアのところへ行って「風刃(カマイタチ)」縄を切る。

 続いてリゼさんとラナさんの縄も切って後は協力して残った皆の縄を解く。

 臨戦態勢完了。石牢の鉄格子ならぬ石格子に魔法発動。


風刃(カマイタチ)


 上と下を同時に切ることで石格子は重力に誘われて地面に落ちる。

"ズズーーーンッ"割と大きな音。何事かとこちらにやってくる盗賊達。


「何事だ!!」

「なっ!! お前達どうやって。あの縄は魔力封じの効果がある筈!!」


 魔力封じねぇ。それなら私の魔力がそれを上回っていたんだろう。それだけのことだ。

 例えば250ミリリットル専用のカップに2リットルの水を灌いだら溢れるに決まってる。


「くそっ。お前らそこから動くな!!」

「そうだ! 大人しくしてたら優しくしてや・・・」


「・・・・・」


 煩いので魔力弾を腹にぶつける。

 盗賊達が蹲るのを合図にするように私達は一斉に走り、彼らを無力化していく。

 

「ぐえっ」

「ぎゃっ」

「うわっ」


 弱い。信じられないくらいに弱い。

 私とアメリアとリゼさんだけで充分っぽい。

 無力化した盗賊達は放置。

 彼らはラナさんとアンナさんを始めとした残った女性達がせっせと縄で縛り上げていく。


「自分達が用意した縄で縛られるのってどんな気分? ねぇ、どんな気分?」


 私の性格がもう少し悪かったらそんなこと聞いてたかも。それだけ滑稽だ。


「いててててて。もうちょっと優しく縛れよ」

「煩い」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああ」


 ラナさん達。牢に最初からいた子の惨状を見たせいか滅茶苦茶機嫌悪いみたい。

 縛り方がこう・・・。血の巡り考えてない縛り方だよ。あれは長時間放置されると壊死するね。助けないけどさ。そもそもこの後拷問するつもりだし、まぁそうなるの早いか遅いかの違いでしょ。

 ん? 人道的じゃない? じゃあ私達は黙って犯されれば良かったの?

 殺すことも別に躊躇わないよ。この世界は近代日本と違って命は安いんだ。

 それにもしかしたら私や私の大切な人が犠牲者になってたかもしれないんだ。

 たまに小説とかの主人公がそれで過ちを犯すよね。

 こういう輩に手心を加えたばかりに自分の大切な人を殺されたりして、そのせいで主人公は狂ってやがて復讐者になる。

 そういうの見るたびに私は思ってたかな。

 こんなクズ連中に下手に手心を加えたりするからだ。

 正直、甘っちょろい主人公にも問題がある! って。

 牙を剥いて来るなら徹底的に容赦なくへし折ってやればいいんだよ。


 数分でほぼ鎮圧。残ったのは親玉らしき人物とその側近。


「くっ・・・。貴様らただで済むと思うなよ」


 なんで三流な奴ってすぐそういうセリフ言うんだろうね。

 どう考えてもこの状況、逆転は絶望的なのにさ。

 まぁそんなことより・・・。


「山村君」


 私は側近の男に話しかける。

"はっ!"とした顔になり私を見るその男。


「まさか盗賊に墜ちてるなんて思わなかったよ。何が一体どうしてそうなったわけ?」

「なんで?」

「んっ?」

「なんで貴女は俺の名前を知ってるんだ? この世界では偽名を名乗ってるのに」


 ん? この人何言ってんだろ。僅かな期間で私のこと忘れたのかな? 鳥頭?


「何言ってんの? 青葉悠里。これで分かるでしょ?」

「青葉・・・さん? 貴女は青葉さんの知り合いなのか? 彼女は今何処に」

「えっ?」

「はっ?」


 んっ? んんん? なんか話が噛み合わないぞ。どういうことだこれ。何か、変。

 私が混乱している間に親玉らしき男が煩く喚く。


「おい。俺を置いて2人で話してんじゃねぇ。てめぇら知り合いなのか?」


 置いて喋るなって寂しがり屋か。あんた。

 無視。私は思考を再び開始する。


「だとしたらお前も俺達の仲間になれ。そうだ、なんなら俺の女にしてやってもいいぞ。可愛がってや・・・」


 全部を言い終わる前にそいつはアメリアの強襲を受けて吹き飛んでいった。

 地面を激しく二転、三転しているのが見える。

 生きてるかな。あれ。聞きたいことあるから生かしておいて欲しいんだけど。


「ボクのユーリを奪うって言うから許せなかった。でも手加減はしたから生きてるよ。多分」


 ボクの・・・ね。それ言われると近頃何故か胸が高鳴るから困るんだよね。なんでだろう。

 後、生きてるならいいか。死んでさえなければ治癒魔法(ヒール)でなんとか出来るし。


「ユーリ?」


 あ、山村が反応した。


「何呼び捨てにしてんの?」


 アメリア殺気凄い。私もちょっと怖いよ。

 ほら、山村死にそうな顔してるじゃん。

 女性達も怯えてるよ。


「アメリア、落ち着いて」

「でも、あいつユーリのこと呼び捨てに」

「落ち着いて。ね?」


 私はアメリアを抱き締める。

 それから耳元で「周りを見て」と小さく告げる。


「あっ・・・」


 盗賊達はどうでもいいとして。女性達が怯えているのに気付いたのだろう。

 アメリアはやっと殺気を収める。それから少し項垂れて。


「ごめんなさい」


 と謝った。うんうん、アメリア偉い。さすが私の大切な仲間。女性達もそれで納得してくれたみたい。良かったー。

 さて・・・。


 アメリアから離れて今一度山村と向きあう。

 じっと彼の目を見ながら。


「私が青葉悠里だけど」


 絶句してる。だからなんでだよ。


「もしかしてユーリ、最初に会った頃と違うから分からなかったんじゃないかな?」

「あ!」


 アメリアに言われて思い出した。

 地球にいた頃の私はさっき治癒した女性達と同じような状態だったし、目と髪は黒だったし、耳は今より短かった。これだけ変われば分かるわけないか。うっかりしてた。


「ほんとに青葉・・・さん?」

「うん」

「・・・青葉さん。俺を助けて欲しい」

「は?」

「俺は悪くない。悪いのはこの世界の奴らなんだ」

「いや、何言ってんのかちょっと分かんない」

「俺は・・・。俺は捨てられたんだ。勝手に()んでおいて。俺がろくな能力がないからってあいつらに」


 えっと・・・。なんか語り出したけどそんなこと今はどうでもいいかな。


「そんなことより山村は何で盗賊になったの?」


 いや、捨てられた子犬みたいな顔されても。あんたの前事情なんか知らないよ、私は。興味もない。

 結果の理由だけ教えてくれたらいいんだよ。知りたいのはそれだけだから。


「生きるためだよ」

「・・・生きるため、か」


 そっか。生きるためにこんな道選んじゃったんだ・・・。

 少し、悔しいな。


「そうだよ! そのために俺は盗賊になったんだ!」

「・・・女性達」

「何?」

「牢に女性が囚われてるの知ってたでしょ? まさか一緒に楽しんでたとかないよね。私が知る山村はそういうことしない奴だった記憶があるんだけど」

「楽しむわけないだろ!」

「でも助けてはあげなかったんだ?」

「・・・この世界の奴らがどうなろうと知ったことじゃないよ。もし君が襲われたら助けただろうけどね」

「それ、本気で言ってるの?」

「本気も本気さ。君だってそうだろう? 現に盗賊達(俺の仲間)を壊滅させてるじゃないか。それで違うなんて言い訳したりしないよね?」

「・・・・・・ハァ」


 あ~ぁ~・・・、幻滅した。こいつは正義感と偽善に溢れてて鬱陶しい奴で、私を苛めてる奴らにも注意とかして、そのせいで私は余計に苛められて。

 大嫌いだったけど、けど直接手を出してこないから実行犯連中より少しは好感度高かったんだけどなぁ。今、最低になったよ。


「青葉さん」

「私もさ。偽善者だよ。性格破綻者だとも思ってる。けどさ、何の罪もない人が傷つけばいいとは思わないな。私が大嫌いな奴は大いに傷つけばいいと思うけどね。世界中の誰も傷つかなければいいのにとは思わない。だって私、聖人君子じゃないもの」

「・・・青葉さん?」

「あー・・・。なんだっけ? 私、話纏めるの下手だなぁ」


 苦笑い。ちょっと俯いて右の頬を掻く。

 アメリアが右の肩に。リゼさんが左の肩にそれぞれ手を置いてくれる。

 ありがとう。決心ついたよ。


「兎に角」


 魔力操作で魔力を体に纏って身体能力強化。

 一歩踏み出して。駆けて、左足を軸に右足を前へ。右手も同時に。そして、打つ。

 山村の顔面にクリーンヒット。当たると同時に風魔法を乗せる。


「ぎゃぁぁっ!!!」


 地面に叩きつけた山村を見下ろしながら私は大きく息を吐いた。

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