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幕間08.馬車酔いとタンの串焼き

下品な表現あり。もしお食事中の方などいらっしゃいましたら食べ終えてからお読みください。

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2019/08/31 投稿時、一部文章が抜けておりました。

読者様を混乱させてしまったこと深くお詫び申し上げます。

申し訳ありませんでした。

 私達は話し合い、ジュレー大陸に渡ることに決めた。

 そのためにはまずノルニア聖国に行く必要がある。

 船がそこから出ているから。



 マウリの町からノルニア聖国の首都に到着するまで間に村が2つと町が2つ。

 一番近いのはキビエという村でそこはトゥキビが名産品らしい。

 トゥキビ。その名前からしてきっとトウモロコシ。

 マウリの町に一度戻り、衣料店の店主から情報と服と下着を購入した私達は一路そのキビエの村を目指して馬車に揺られていた。

 徒歩で行くか馬車で行くか乗り込む直前まで悩んだ。

 私達は別に悪いことをしたりはしていないけど、化け物(・・・)が一緒だと知ると他の乗客が落ち着かないだろうから。それに万が一私の仲間のことをそんな風に言う者がいれば私は冷静さを保っていられるか自信がない。女であろうと子供であろうと場合によっては力で制圧するかもしれない。と自身に恐怖を覚えたから。

 そんな中で馬車に乗ろうって決めたのは[[大地の息吹]]の3人がその場に現れたからだ。

 あの後早々と回復して私達のことを探していたらしい。

[[大地の息吹]]メンバー内にアンナさんっていう優秀な治癒術士がいるのをすっかり忘れてしまっていた。

 だからその姿を見たときは目が点になったのは言うまでもない。

 続いて「私達と一緒にいたら皆さんまで奇異の目で見られてしまいますよ?」なんて口に出してしまって私はリゼさんから無言で拳骨を受けた。すっごい痛かった。意味が分からずに殴られた頭を両手で押さえて涙目で睨むとリゼさんはまるで子供を相手にするかのように私のことを叱ってくれた。


「アメリアのことは知ってるよ。だけどそれがなんだってんだい? そいつはユーリの大切な仲間だろう。それを他でもないユーリが腫れもの扱いしてアメリアがどう思うか分からないのかい? まぁ、色々言う奴は確かにいるだろうさ。フェンリルは一般的には(・・・・・)そういう種族だと思われてるからね。でも実際はそれだけじゃないってあたしは思ってるよ。現にアメリアは自分の中で一番大切なユーリを守るために戦った。全身血濡れになってもだよ。立派な戦士じゃないか。そうは思わないかい? ユーリ」


 私はその言葉を一言一句聞き逃すことなく全部聞いて、それから私の隣に立つアメリアの手を恋人握りで手に取った。


「はい、私の自慢の仲間です」


 このときのはにかんだ顔のアメリアの可愛さと言ったらもう、私はその顔を一生忘れることはないと思う。

 あまりに破壊力が凄くて比喩ではなく息をするのを忘れてしまうくらい隣の彼女に見惚れてしまったくらいだもん。

 スノーとシエルの『『2人の世界~。ラブラブ~』』とかいう揶揄いの言葉がなければいつまでも呆けていたと思う。スライム達の言葉は妙に恥ずかしかったけど、おかげで我に戻れた。感謝だ。

 話が飛んだけど、このことがキッカケで私は馬車の旅をすることに決めた。

 誰に何を言われても堂々としていればいい。何も気に病むことはない。

 だってアメリアは後ろ指、指されるようなことしてないし、そんな存在じゃないんだから。

 大体私自身、少し前にそう言って思ってた筈だ。それが蓋を開けてみれば実は自分が一番気にしてましたーなんて恥ずかしくて情けない。醜い心。凹む。

「ハァァ」と大きくため息をつくとアメリアが肩に手を回して自分の方へ引き寄せてくれる。


「アメリア?」

「ユーリ、怖い顔してるよ? どうかしたの?」

「んー・・・」


 懺悔したい。したいけどその前に私は言いたいことがある。

 馬車の他のお客さん達を見まわす。

[[大地の息吹]]の皆を含めてそれぞれ思い思いのことをやっている。

 その顔に悲壮感はない。ということはつまりこれが普通だということか。慣れてるのか。凄い。私、割と後悔してる。リゼさんに言われて決めたけど、先走ってしまった感が凄い。

 ・・・いい加減言いたいこと勿体ぶるのやめるね。

 何が言いたいかっていうとね。


「・・・お尻が痛い。後、揺れすぎ。酔いそう」


 なんだよ。凄いよこれ。ベアリングとかサスペンションとか諸々ないから揺れる揺れる。

 地面のでこぼこそのままダイレクトに拾って体にダメージ。

 異世界に行った主人公達が苦しむ理由がよく分かった。

 次の休憩時間に錬金術で馬車を改造させてもらおう。

 サスペンションとかつける。黄色スライム近くにいないかな。そしたら車輪にゴムつけて乗り心地よくなるのに。今? ついてないよ。ただ木が円状に加工された車輪がついてるだけだよ。お尻痛い。痛い。痛い。気持ち悪い。

 は、早く休憩地について。これ以上拷問に耐えられない。


「うぷっ」


 口に手を抑えて必死に吐き気を我慢。

 アメリアが慌ててシエルを私に差し出してくる。

 あ、うん。分かるよ。シエルなら吸収・分解してくれるもんね。

 でもなんというかシエルに吐くのは背徳感が。

 いや、お花積みにシエルを連れて行ってる時点ですでにあれなんだけど、さ。


「う・・・っ」


 あ・・・。ダメだ。


「シエル、ごめん。うぇぇぇぇっ」


 黒歴史。記憶から抹消しました。




「ほぉ。こいつはまたすっかり別物みたいになっちまったねぇ」

「このグネグネした部品ってなんですか?」

「はわぁ。お貴族様の馬車みたいになりましたねぇ」


[[大地の息吹]]の面々がすっかり様変わりした馬車を見て口々に感嘆の感想を漏らしている。

 他の乗客や御者も皆、感動の面持ち。

 ふっふっふっふぅ。凄いでしょ。凄いでしょ。サスペンションとか諸々つけたよ。車輪もスライムゴムで補強したよ。デザインもちょっと変えたよ。幌馬車だったのを箱式のにした。錬金術万歳。これでお尻の痛みからも酔いからも解放される。ここからはそこそこ快適な旅になる筈だ。キビエ村まで道中何も起こらなければだけれど。フラグ? あっはっはっ。心の中で思っただけではっきり言葉にしてないからまだ大丈夫。私はそんなヘマはしないよ。伊達にヲタクやってないよ。


「こんなに素敵な馬車になると盗賊が商人の馬車なんかと間違えて襲ってきそうだね」


 ラ、ラナさーーーーーーーーーーーーーーーん!!!

 また。また貴女言ってはならないことを。

 なんなの。フラグ設定者なの? そんなに奴に仕事させたいの? 面倒ごと好きなの?


「・・・・・」


 私は半開きな目でラナさんを睨む。

 当のラナさんは何故睨まれているのか分からないようで小首を横に傾げる。


「え? 何? なんでユーリは私を睨んでるの? なんかしちゃった?」

「ラナさんはフラグを作りました」

「フラグ? フラグって何?」

「フラグとは・・・」


 私が説明を始めようとすると御者から出発の合図が出される。

 乗り遅れるわけにもいかず結局ラナさんに説明出来ないまま私達は馬車へ。

 馬のひと鳴きと共に馬車は進みだす――――。




 快適。揺れを吸収してくれるサスペンション類とゴム付き車輪最高!!

 改造して良かった。乙女の諸々はこれで守られた。

 え? すでに一度崩壊したじゃないかって? なんのこと? ワタシシラナイ。


「ユーリ、今度は笑ってる」

「うん、揺れが無くなったから」

「そっか。良かったー」

「ありがと、アメリア」

「うん!!」


 私はスノーに頼んで牛の串焼きを2本出してもらう。

 アメリアが倒したベヒーモスの一部をいただいて加工などしてきていたのだ。

 休憩したあの場所を離れる早朝、一の鐘が鳴るより二刻程早い頃アメリアと2人でこそこそ現場に行ってお肉を回収。その後、即撤退した。

 ベヒーモスの遺体は結構損傷が激しかったけど、図体が図体だけにそれでもそこそこの量お肉が残ってた。

 タン、肩ロース、リブロース、サーロイン、ランプ、イチボといった美味しいとこが残ってたのは嬉しい限り。

 気分が盛り上がって天幕に戻って来てからの調理も鼻歌なんて歌いながら楽しく出来た。

 日が昇った頃にベヒーモスの亡骸をギルドに運ぼうとするであろう冒険者の人達は遺体がほぼ骨だけになってるの見てびっくりすることになるだろう。けど、私達は魔物大行軍(スタンピード)の討伐でもらえる予定だった大銀貨は受け取ることはないから代わりの報酬ってことで、ね?

 ・・・大銀貨3枚より圧倒的にこっちのほうが価値あるけどね。

 でもでも魔石は置いてきたから、それで赦して欲しい。

 魔石とはほぼすべての邪族の心臓にあたる。

 彼らは心臓がない代わりに魔石がその役目を果たしてる。

 魔石は邪族の討伐証明として使われたり、魔道具に使われたりする。

 あれだけの巨大な魔石なら魔道具の様々な用途に使える筈だ。

 そうでなくても例えば国に売却すれば相当な額の収入が得られるだろう。

 だから・・・。


 塩焼きにしたタンの串を齧る。

 弾力のある歯ごたえ。口いっぱいに広がる肉汁。塩が旨味を引き立ててとても美味しい。


「美味しい」

「美味しいねー」


 笑顔で串焼きを齧る私達を見て"ごくり"と唾を飲み込んだのは誰かな?

 美味しいものは共有するべきだよね。皆さんにもお裾分け。

 しようとすると馬車が止まる。


「と、盗賊だーーーーーーーーーーーーー!!」


 あちゃああああああ。やっぱりフラグ回収しちゃったよ。

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