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幕間06.神殺しの神髄

残酷な描写があります。

苦手な方は注意してください。

 フラグ。仕事しやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


「ラナさん、右横に飛んで」


 その姿を見止めると同時に私は叫んでいた。

 

「間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」


 直線。ラナさんと少し離れた距離の反対側・左横まで全力で走って急停止。

 私の言葉の通りに右横に飛んだラナさんに人の体を吹き飛ばす程度の威力のある風の弾をその体にぶつける。


「きゃっ」


 突然の私の行動に驚き、なす術もなく飛ばされるラナさん。

 その先にあった木に体を強くぶつけて呻くのが見て取れる。

 あれは痛かっただろう。怪我もしちゃったかもしれない。

 ごめんなさいって思うけど、緊急事態だったから赦して欲しい。

 私がそうしなければラナさんは今頃・・・。


 さっきまでラナさんが立っていたところを見る。

 木々が何本も押し倒されて、まるで大きな嵐の後のよう。

 これをやったのがたった1体の魔物。

 控えめに言って"ぞっ"とする。

 

 杖を構えてそいつを見る。

 私の体の5倍はあろうかという大きさ。

 背を向けていたそいつは緩慢な動きで体を回転させてこちらを向く。

 耳の付け根辺りから左右1本ずつ鉈のような角度を持った太く長い角。筋肉粒々な真っ黒な体。

 血のように赤い目が私を捉える。鼻息荒く後ろ足を地面に何度か擦ってそいつは私を威嚇する。


 ベヒーモス。肉牛の魔物。けれどその巨体と威圧感は当然肉牛とは比べ物にならない。

 闘牛? これを相手にそんなこと出来るのは勇者か英雄だけだと思うよ。

 身が竦む。一瞬でも気を抜けば確実に死ぬ。

 

「ブモォォォォォォォォ」

「あ、鳴き声も牛なんだね。来るなら・・・来なさいよ。いや、やっぱり来ないで」


 来ないで。なんて願いが通じるわけがない。

 ベヒーモスは凡そ、その巨体に似合わず時速60kmくらい? な速度で突っ込んでくる。

 さっき振り返るときに見せてたあの緩慢な動きはなんだったんだ。詐欺だ。訴えてやる。


 咄嗟に自分に風魔法を使って横に飛び、かろうじて躱す。

 すぐさま攻撃に転じ、風刃(カマイタチ)を発動させるもベヒーモスの体は硬く薄皮一枚しか切れない。


「もっと魔力を乗せないとダメか」


 大技を使うとなると魔力を練るのに少し時間がかかる。仲間のサポートが必要。

 アメリアは? 目で追うと魔物の群れに阻まれて悪戦苦闘している。援軍は期待出来そうにない。

[[大地の息吹]]の人達は? ラナさんの元へアンナさん。リゼさんはこちらに走って来ていて援軍に入ろうとしてくれているのが目に映る。

 2人だけ。ちょっとキツいけど贅沢は言ってられない。

 リゼさんが来てくれるまで細々とした攻撃を繰り返す。


「待たせたね」

「ええ。待ちました。すいません、時間を稼いでもらえますか?」

「言うじゃないか。で、どれくらい稼げばいいんだい?」

「1分・・・。ううん、40秒でいいです」


 ほんとは1分欲しいよ。でもなんか誰かに「40秒で支度しな」って言われた気がして。

 頑張るよ。早速体の中の魔力を操って杖に集中させていく。


-リゼ-

 1人でベヒーモスを抑えろだとさ。

 無茶苦茶言うねえ。

 普段のあたしだったらその提案を鼻で笑ってから拒否してただろうね。

 けどそうしないのは、ユーリの実力は本物だってこの目で見ちまったから。

 魔物を赤子の手を捻るかのように次々倒すんだからねぇ。あり得ないよ。

 ユーリはまだ(アイアン)ランク。今回の魔物大行軍(スタンピード)の魔物は比較的弱い魔物。とは言えいずれも(シルバー)ランクの冒険者が数人がかりで倒せるか否かの魔物達ばかり。

 それを今にも鼻歌でも歌い出すんじゃないかって感じでユーリは倒すんだ。笑っちまうよ。

 あんなの見せつけられたら燃えちまうってもんだろ。

 冒険者の先輩としていいとこ見せたいじゃないか。

 真銀(ミスリル)ランクは伊達じゃないってこと教えてやるよ。

 さぁ、来な。デカブツ野郎。


 後少し。リゼさんのおかげで予定量の魔力をベヒーモスにぶつけられそう。

 それにしてもリゼさん凄い。あの突進を斧で受け止めるとかどういう身体能力!?

 もしかしてアメリアより強かったりする? 化け物だー。化け物ー。


 【事】が上手くいきそうな予感に私は、私達はすっかり油断していた。

 

 ベヒーモスの足元に魔法陣。

 赤く輝くそれは見ているだけで背筋が冷たくなるような感覚を受ける。

 本能が訴えてくる。

 

 ――――これは絶対にまともに浴びたらいけない。


「リゼさん、逃げて」


 私が告げた瞬間、ベヒーモスが微かに笑った気がした。






 シンと静まり返った(とき)

 その後すぐベヒーモスを中心に爆発が起きる。


「――――!!!」


 巻き起こる嵐。凄まじい風と熱。木も地面も空高く舞い上がり巨大なクレーターが出来あがる。

 私も木の葉のように吹き飛ばされてせっかく練った魔力は霧散。魔素中に溶けた。

 体中に石の礫を受けて全身怪我。例え小石でも竜巻風の中では銃弾と同じだ。

 風がやんで地面に叩きつけられる。なんとか踏ん張って意識を保って直前で結界を張ったが内臓がやられて骨も何本か折れた。


「げほっ、かはっ・・・」


 体の中の圧迫感。血反吐を吐きつつ両手を手に付けなんとか体を持ち上げる。

 目が霞む。状況はどうなっているのか。

 

 リゼさんは? ――――いた。手足が曲がったらいけない方向に曲がった状態で太い木の根元に倒れて気を失ってる。

 ラナさん達は? 折り重なって倒れてる。生きてる・・・よね?

 アメリアは? ・・・・・・私の体に手が触れる。良かった。私に負けず劣らずボロボロだけど生きててくれた。


「アメリア」


 私の中に残った魔力を全部捻り出す。

 アメリアに魔法を使う。


最上級治癒魔法(グレーターヒール)


 ごめん。後はお願い、ね。


-アメリア-

 守れなかった。

 今、ボクの手の中にユーリがいる。

 かろうじて息はしてるけど、虫の息。今にも止まってしまいそうな程呼吸が弱い。

 ボクは守れなかった。ボクはボクはボクはボクはボクは。


「あっ・・・、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 涙が零れる。止まらない。情けなくて仕方ない。

 何がユーリはボクが守るだ。全然守れてないじゃないか。

 こんな、こんな姿にしちゃて。ボクは。ボクは全然。

 

 ねぇ、ユーリ。なんでボクを治療したの? なんで自分に治癒魔法(ヒール)かけなかったの?

 ユーリのほうがボクより弱いんだから。自分に使うべきだったよ。ボクなんて放っておけば良かったんだ。

 ユーリ、嫌だよ。置いていかないで。ボクは1人じゃ生きていけないよ。

 ねぇ、ユーリ。ユーリ。ユー・・・。


「ユーリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


"ごそりっ"半径2km程度壊滅状態の中で動く者。

 ボクはそいつを睨みつける。

 ユーリの体を"そっ"と地面に横たえ、ボクは立ち上がって傍に刺さっていたボクの剣を抜こうとして、やめる。


「ふふふ」


 今のボクを見る人が見たらどう思うだろう。

 幽鬼とでも思うかな。

 そうだと思う。ユーリがいないボクは生きる屍だ。


「ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」


 煩いな。


「ブモブモォォォォォォォォォォォォォォォォォッ」


 それって勝利の雄たけびのつもり? 滑稽だね。


「ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン」

「お前は・・・殺すよ」


 ボクは人化を解く。

 ユーリに新しく買ったもらった服もシンシアに作ってもらった防具も全部散り散りになったけど今は別にどうでもいい。


 フェンリルに戻ったボクはベヒーモスとの間を一瞬で詰めて首に噛みつく。

 暴れて鬱陶しいけどこの拘束は離さない。

 牙に力を入れる。魔力を顎に集中させてボクはベヒーモスを地面に叩きつける。


"ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン"まさかそんなことされると思わなかったのか驚愕してるね。

 それより首の心配したほうがいいんじゃない? 当然ボクはまだ離してないからね。そろそろ首折れるよ?


 命の危機を感じたせいかベヒーモスの抵抗が強くなってきた。

 ボクは更に顎に力を入れる。ベヒーモスは泡を吹き始める。


"ゴギンッ"何かが折れる音がして命が消える気配がした。


 ねぇ、これで赦されると思った?



 

 赦さないよ。赦さない、赦さない、赦さない。

 ボクは死体の首を噛み千切った。

 後のことは覚えてない。

 気が付けばボクは真っ赤に体が染まっていた。




『・・・ユーリ』

 

 そいつを始末したボクはユーリの傍に行ってじっと"ピクリっ"とも動かない彼女を見つめていた。

 もうダメなんだろうか。楽しかった日々は戻ってこないんだろうか。約束果たしてもらってない。

 ずるいよ。ユーリ。手の届かないところに逃げるのはずるい。

 

 返してくれないかなぁ。神様。喧嘩出来るならボクは(あなた)を倒してユーリを奪い返すのに。

 父様がそうしたように。ボクもボクの大切な人のために(あなた)を殺すのに。


「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン」


 天に向かって威嚇するように吠える。

 と・・・。



洗浄魔法(クリーン)

「!?」


 ボクは目線をすぐ下げる。

 ボクの体に触れる小さな手。


「なんて顔してるの?」


 ユーリ!! 生きてた。生きてた。生きてた、生きてた。


『ユーリ』

「はい、ユーリですよ」

『大丈夫なの? ねぇ、ユーリ』

「大丈夫だけど休みたい。アメリア、私を安全なところに運んでくれないかな? お願い」

『うん、分かったぁ』


 ボクはユーリを優しく銜えて背に乗せる。

 僅かに感じる重さを愛しく思いながらボクは町とは反対の方向へ(・・・・・)走り出した。

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