幕間05.魔物大行軍
残酷な描写があります。
苦手な方は注意してください。
朝。一の鐘が鳴るよりも少しだけ早い頃。
町は突如聞こえてきた重低音により騒然となっていた。
私とアメリアも飛び起き、宿の窓から町の様子を窺う。
「一体何!?」
「あれって土煙?」
町からはまだ遠い。
距離にして数km離れた場所に大きな土煙が舞っているのが見える。
それは徐々にこちらに近づいて来ている。
慌てふためく町の住人達。避難する者やそれを誘導する者。武器を持ち、来るべき備える者。等々。
冒険者ギルドのある建物の方角から魔法による照明弾が上がるのが見える。
色はオレンジ。冒険者全員緊急召集の色。滅多にないその合図に私達の間にも緊張が走る。
「これってもしかして・・・ううん、もしかしなくても」
「魔物大行軍だね。間違いなく」
この世界でそういうことがあると聞いたことはあった。
地球でそういう概念があると見たり、読んだりしたことはあった。
まさか現実で体験することになるなんて。
・・・・・・・怖い。
小さく息を飲んで恐怖に支配されそうになる私の体をアメリアが背後から"そっ"と抱き締めてくれる。
「大丈夫。ユーリはボクが守るから」
私を落ち着かせようとしてくれているのだろう。優しい声色。
先程から窓の淵に鎮座してじっと景色を見ていたスノーとシエルが振り返る。
スライムジェルを手の形にして"ぐっ"と親指を立てて私達に見せつける。
ああ、ほんとうに・・・さ。
私は仲間に恵まれてる。
仲間達を見ていると恐怖が薄れていく。
心の不安が融解していく。
「私も」
スライム達に笑顔を見せる。
私を抱き締めてくれているアメリアの手に手を重ねる。
「私も皆を守る!!」
「うん!!」
『『おー!』』
皆で頷きあって準備開始。
私は服を着替え、三角帽子を被り、杖をしっかり両手で握って準備完了。
アメリアは服を着替えるのに加えて胸当てやガントレットなどの防具をしっかり身に着ける。最後に剣を腰に下げて準備終了。
スライム達は鞄の中へ。私がその鞄を肩から腰へ斜めにかける。
アメリアと目と目で合図。部屋を飛び出し、ギルドへ駆けていく。
途中宿の人達に気を付けるよう心配してもらった。
町の人達も自分達のことで精いっぱいだろうに私達のことを心配してくれた。
優しい人達だ。そんな人達を私は守りたい――――。
町を走ってこれまでで最短の時間でギルドに到着。
中に入ると"ピリピリ"した空気。
でも皆の顔に焦燥感はない。
むしろやる気に満ちている。
皆、この町が好きなのだろう。
自分達がこの町を絶対に守ると口々に叫んでいる。
士気は高い。
違う意味でざわざわ騒がしい中、ギルドマスターが壇上に上がる。
「皆、静かに」
ギルドマスターのその言葉で場は静まり返る。
それに頷き、ギルドマスターは説明を始める。
「皆、もう感づいていると思うが町の近くで魔物の大行軍が起こった。
原因は分からん。もしかして得体のしれない何かに追われているのか、或いは瘴気が何かの拍子に活性化したか。いずれにしても我々は防衛に出る。すまないが冒険者の皆は強制参加だ。討伐の暁には全員に大銀貨3枚出そう。どれだけ討伐しても3枚だ。これがギルドの限界でな。申し訳ないと思うが理解して欲しい。皆、生き残れ。そして後で一杯やろう。それくらいは奢ってやるさ。以上だ。掃討作戦開始するぞ!!!」
「「「「「「「おおぉぉぉぉーーーーーーー」」」」」」」
ギルドマスターの演説終了後。冒険者達が叫ぶ。武器を持って建物から外へ。
雷鳴の如く皆の声と足音が轟く。
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」」」」
「「守ってやる。守ってやるさ」」
"ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ"
私達もそれに続く。
しかし圧倒される。
【真の戦闘】とはこんなにも迫力があるものなのかと。
「アメリア」
「ユーリ」
飲まれてしまわないようにお互いに手を握りあう。
今回ばかりは恋人繋ぎではなく普通の繋ぎ。
走って土煙の方角へ向かっていると横から私達に合流するかのように人影。
「よぉ、大変なことになっちまったね」
「リゼさん!」
「「私達もいます」」
「ラナさんにアンナさん!」
[[大地の息吹]]の面々。
ラナさんとアンナさんには多少緊張感が見て取れるが、リゼさんにはそれがない。
リラックスしていていつもと同じだ。こんなときなのに凄い。
「リゼさん、落ち着いてますね」
そのことに感心したので言ってみる。
アメリアも少し見直しているみたいだ。態度で分かる。今はリゼさんに敬意を払っている。
「これでもリーダーだからね。あたしまで緊張しちまったら他の2人が落ち着かないだろう? だからあたしはいつでもなるべくどっしり構えるようにしてるのさ」
「・・・・・」
鳩が豆鉄砲? 違うな。目を見開いて感動してしまった。恰好いい。なんだよリゼさん、パーティリーダーの鏡じゃん。
「「リーダー」」
ラナさんとアンナさんも感動してる。
それに気付いたのかリゼさんが顔を2人に綻ばせる。
「あたしがここまで頑張ってるんだ。あんた達リタイアなんてしたら絶対許さないよ!」
「「はい!」」
「ユーリとアメリアもだ!」
「「はい!!」」
「良し、いい返事だ。さぁ、そろそろ奴らと合流するよ」
「「「「おー!!!!」」」」
魔物大行軍の魔物と合流した私達は兎に角目についた魔物と戦っていた。
数が多すぎて目標を定めている場合じゃないのだ。そんなことをしていたら最悪逃げられて町に入られてしまう。それは避けないといけない。冒険者達の必死の攻防が続いている。
土魔法で数か所落とし穴を作って魔物達を落とす。落とした魔物は水魔法で水攻め。
上がってこれないように錬金術で大岩を作り出して蓋をする。等価交換は私の魔力で。
木魔法で何体か動きを封じ、封じた魔物は同じく木魔法で串刺しにする。
私の間を横切って逃げていこうとする魔物は風魔法の風刃で追撃。絶命させる。
魔法の出し惜しみはしない。持てる力のすべてを使って魔物と戦う。
アメリアが私の背中を守ってくれている。
彼女は魔力を刀身に付与してまるでバターを斬るかのように魔物を片付けている。
鞄の中からスライム達も大活躍。
酸を吐き出して溶かすという荒業。そんなこと出来たんだね。敵に回したくないな。
「ユーリ、アメリア。そっちは大丈夫かい?」
大斧をまるで羽のように扱いながらリゼさんが聞いてくる。
魔物の首が次々に飛んでいる。中には斧の威力によって四散する魔物もいる。
・・・グロい。あんまり見ないようにしないと。
「大丈夫です」
自分達の周りの魔物に集中するようにして返事をする。
決してグロさに耐えられなかったわけではない。ないったらないのだ。
「そうかい。危なくなったら離脱するんだよ。冒険者だって命あってのものだねさ、ね」
「「はい!」」
また数体片付ける。
僅かに間が空いたときにアメリアを見る。
私は魔導士だからその場からあまり動かない。
なので魔力は減っても体力は減らない。
それに対してアメリアは両方駆使しての戦い。
いかにアメリアでも結構辛いのではなかろうかと思って。
「大丈夫?」
一瞬目が合ったので聞くとアメリアは私に微笑む。
「後で思う存分キスさせて」
その願いと共に魔物が切り伏せられる。
まったく。こんなときに・・・。
「分かった。約束ね」
「えっ? ほんと? ほんとにいいの?」
「うん」
「やったーーー。ユーリいただきまーーーーす」
妙に元気になったアメリアが刀身から魔力の衝撃波を飛ばして魔物を撃破する。
ここに来てまさかの新技習得!? フェンリルの末裔。伊達じゃないわぁ。
負けてられない。私も張り切って魔物達を倒す。
数百の魔力球を弾丸の形にして宙に浮かべ、合図とともに魔物達に発射する。
「魔力球弾」
どれくらいの間戦い続けていたのだろう。
魔物の数が少しずつ少しずつ減ってきているような気がする。
"ふぅ"と息を吐く音が耳に届く。
その音がした方向を見るとラナさん。
「なんとかなりそうだね」
あ・・・。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
ダメです。それ絶対言ったらダメなやつです。
特にこういう場面で気を抜くとあいつが張り切ってしまうんです。
そう・・・あいつ。
フラグが――――――――!!
ラナさんの後ろから今までにない巨体。
いち早く気付いたリゼさんが珍しく顔を青くしながらその名を呟く。
「ベヒーモス・・・」
フラグ。仕事しやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!




