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幕間04.白昼の襲撃と大地の息吹

 タウルの町で冒険者活動を行うようになってから数日。

 青銅(ブロンズ)ランクを卒業して(アイアン)ランクになることになった。

 私的にはもう少し青銅(ブロンズ)ランクでも問題なかったのだけど・・・。

 依頼を受けて行く先々で最高評価か高評価ばかりを取ってくる私達をいつまでも青銅(ブロンズ)ランクのままにしておけないし、してしまっていたらギルドの信用問題に関わるってギルドマスターとサブマスターの2人から説得されたらさすがに、ね。でも考えてみればこれって認められたってことだ。私は思い直して素直にランクアップを受け入れることにした。


「それではギルドカードを提示してください」


 受付嬢さんから言われて首から外したものをカウンターにそっと置く。

 便宜上ギルドカードと言っているけど、本当にそう言っていいのかどうか微妙なところ。

 カード状の大きさ<地球で言うとキャッシュカードと同等の大きさ。確かこれって黄金比がどうとかなってるんだったよね? うろ覚えな知識だけど>のランクを表す金属に左右穴が開けられていて、そこから(シルバー)のチェーンが取り付けられている。

 冒険者はこれを首につけることで自身の身分とランクを周りに示すことが出来るようになっているのだ。ちなみにこのカードは魔道具。受け取りの際に血を一滴流すことで本人のみ利用可になるという機能を持つ他、依頼の後にこれを受付嬢さんに提示してギルドにある特殊な水晶<これも魔道具>に翳すことで本当にその人が依頼をこなしたのかどうかを調べる不正防止の機能まである。更にパーティを組むと半径1km以内にいる仲間にこのカードが反応。淡く光って仲間がその範囲内にちゃんといるかどうかを教えてくれる素敵機能まであるのだ。

 近くにいればいるだけ光は強くなるという優しいお知らせ機能付き。口に出して「オン・オフ」というだけで切り替え可能で普段はオフにしておいてダンジョンなんかでオン。仲間の安否を調べることが出来る。素晴らしいカード。シンシア師匠の発明品らしい。なんなのあの人。石板だけじゃなかったんだ。そりゃあ皆から尊敬されるわけだよね。私も尊敬だよ。大体そんなの発明したなんて聞いてなかったよ。シンシア師匠、改めて思います。貴女は私が知っている以上に凄い人だったんですね。


「はい、更新終わりました」


 受付嬢さんからカードを受け取る。

 青銅(ブロンズ)から(アイアン)になっている。

 首から下げると受付嬢さんからひと言。


「これからも期待していますね。[[紅の絆]]のお二方」


[[紅の絆]]は私とアメリアの2人パーティ名。

 血の色・紅。血の交わり。深い絆を持ったパーティなのだということを周りに示したかったらしい。

 名づけはアメリア。重い、重いよ。アメリア。パーティ名決めの際に何も意見を言わなかった私が言えることじゃないけど。


(アイアン)ランクになったねー」


 そのアメリアがカードを高々と掲げるように両手で持ちながら感慨深げにしみじみと。

 その様子がちょっと可愛くて私は小さく微笑む。


「そうだね」


 さり気なく寄り添ってアメリアと体を密着させる。

 アメリアはそれを受けてカードを首から下げると手を握り締めてくれる。

 相変わらずの恋人繋ぎで。


「依頼見る?」

「うん」


 2人クエストボードの前に移動。

 今日からは(アイアン)ランクのボードを見て場合によってはそこの依頼を受けることが出来る。

 ところで数人の冒険者から「バカップルかよ」って声が聞こえてきたけど、私達はカップルなのかな?

 私のアメリアに対する気持ちは【恋】なのかな? まだよく分からないんだよね。

 恋ってどうやってするものなの? 自分が自覚したらそれは恋なの? それとも第三者が見て恋してるって思ったら恋になるの? その辺がよく分からない。恋愛マニュアルとかないかなぁ。隅から隅まで熟読したいよ。知りたい。知れればもっとアメリアの気持ちが分かるのに。応えられるかもなのに。でも知って今の私の気持ちが恋ではないとか載ってたらって思うと怖くもある。

 アメリアを拒絶したくない。

 うーん、面倒だなぁ。私。


 ぼんやりと考えごとをしていたせいで背後の気配に気付かなかった。


「!」


 突然肩を掴まれ・・・たかと思うと数人の男達によってアメリアから引き離される。

 何? 何が起こったの? 我に返って状況を確認すると周りに下卑た笑みの男達。

 多分唐突に事が行われたのだろう。

 私を奪われたアメリアは呆然とした目でこちらを見ている。


「ゴンザレスが言ってたのってこいつのことだろ?」

「ああ、間違いねぇ」


 ゴンザレス。何処かで聞いたことがある。数秒して思い出す。あいつの仲間か――――。


「よぉ、嬢ちゃん。こないだは仲間が世話になったそうじゃねぇか。この借りはキッチリ」


 男達のうちの1人、モヒカン刈りの男にナイフを顔に当てられる。

 私は手と肩を数人がかりで押さえられている上、地面に座り込まされているため抵抗が出来ない。


「ひっ・・・」


 怖い。怖い怖い怖い。どうして私ぱっかりこんな目に合わないといけないの?

 そうだ。魔法。魔法使えば逃げられる。魔力を操作しようとするとナイフが私の頬を軽く滑った。


「おーっと、変な気は起こさないほうがいいな。可愛い顔が傷だらけになっちゃうぜぇ!」


 久しぶりの赤。頭から血の気が失せていく。

 白昼行われている人質事件。騒然としている冒険者ギルド。喧噪さえ遠くに感じるようになる。

 力を抜き、諦めそうになったところで聞こえてくるアメリアの冷たく、地の底から聞こえてきたかのような低い声。


「ユーリを放せ」


 これまで聞いたことのない声。

 もしこれが私に向けられたものであったなら様々な恐怖で身が竦んで私は二度と立ち上がれなくなっていただろう。


「ハァ?」

「これが最後だ。ユーリを放せ」


 男とアメリアのやり取りに色と音が急速に戻る。


「アメリア、助けて!!」


 叫ぶとアメリアは即座に反応してその場から消える。

 鞄の中からスノーとシエルも出てくる気配。

 冒険者達も動いたのが見て取れる。


「てめぇらこいつがどうなっても」


 そう叫ぶモヒカンの頬に重い金属が叩きつけられてそいつは歯を数本と血を床に撒き散らしながら飛んでいく。

 その様に他の仲間達が唖然としている間に私は何者かの手によって救い出される。

 こうなると後は早かった。

 あっという間に騒動を起こした連中は捕縛され事件は無事終息した。


 さて、私は私を助けてくれた人にお礼を言う。


「あの、ありがとうございます」


 それはアメリアではなくリゼという名前の女性冒険者さん。

 女性だけの冒険者パーティ[[大地の息吹]]のリーダーさんで女性にしては恰幅の良い人だ。

 年の頃は30代前半くらい。狼系の獣人族(セルリア)でアメリアと正反対の黒のケモミミと尻尾を持っている。

 顔はいかつく性格は豪快。青いざんばら髪と赤い軽鎧、自分の背丈と同じ程の大きな斧を軽々と肩に担いでいるのが特徴的。その性格から冒険者達に結構慕われている。


「がーはっはっはっ。無事で何よりだよ」


 大人と子供。それくらいの身長差。私の髪を"ぐわしぐわし"、本当にそんな感じの音がしそうな勢いでリゼさんは撫でまわす。

 ちょっとやめて欲しい。力が強すぎて首も一緒に回ってる。痛い。誰か止めて。

 願いが通じたのかリゼさんの仲間とアメリアが助けてくれた。


「リーダー、やりすぎです。自分の力を考えてください」

「そうです。今度はこちらが加害者になってしまいますよ」


「・・・ユーリを助けてくれたのには感謝するけど、傷つけるなら容赦しないよ?」


 敵意丸出しでアメリアが私を背に庇う。

 それを見てリゼさんのお仲間さん。ダークエルフの魔術師ラナさんは大きなため息。

 童顔でたれ目、泣きホクロが可愛い。えっと、・・・・大きい。腰まで届いている黒髪が綺麗。後、恰好がエッチ。

 上半身は見せるブラっぽい服。肘までの手袋、下半身は足首まで届くふんどしみたいな長い布。ブーツ、それと外套。見ようによっては何処かの国の民族衣装みたいに見える。

 もう一人、アンナさん。三毛猫獣人族(セルリア)。こちらも童顔。青い瞳と肩の辺りまで伸びた金髪が綺麗。治癒術士らしく白の聖衣を身に纏ってる。チャイナドレスみたいに太股が見えるようスリットが入っているのがよく似合ってる。


「がはははっ。そう警戒しなさんなって。悪かった」


 そうは言うものの顔色からしてリゼさんは反省しているようには見えない。

 アメリアの警戒心が更に上がる。ラナさんとアンナさんは盛大なため息。

 場がカオスになりかけた頃、私達は事情聴取のためギルドマスターに呼ばれる。

 この後説明のため一刻の間拘束された。


 ハァ・・・・。疲れた。



-事情聴取後-

「お疲れさん」

「あ、はい。リゼさんもお疲れ様です。後、ほんとにありがとうございました」

「おう、どう致しまして。そうだ。突然だが今度一緒に依頼受けないかい?」

「ああ、そうですね。考えておきます」

「おぅ」


 それはお互いに社交辞令のつもりだった。

 しかしこの先私達[[紅の絆]]と[[大地の息吹]]のメンバー達は何かと関わりあうようになる。

 そのことは今はまだ私達は誰も知らない。 

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