02.エルフ?
どっちが上なのか、下なのか、右なのか、左なのか、前なのか、後ろなのか。
そもそも私は今現在どうなっているのか。
よく分からない空間を私は流れに任せて漂っている。
なんだか物凄く頭が痛い。
「ぐっ・・・ううっ・・・」
耐えられず呻くと頭の奥底から"メキッ"だか"ビキッ"だか聞こえたような気がする。
これってもしかしてもしかしなくてもまずい状況なんじゃないだろうか。
なんだかの物語、仮説などで人は空間転移に耐えられず肉体も魂も消滅するって聞いたことがあるような、ないような?
さっきの頭からの音がもしその前兆だとしたら間もなく私は・・・。
死ぬ? ああ、でもそれでもいいかな。
死にたい。生きたい。死にたい。生きたい。死にたい。死・・・。いやだ、生きていたい!
頭痛がより一層激しさを増す。体が痺れて感覚が無くなってくる。
ああ、私は死ぬんだ・・・。
ここで私の意識は途絶えた。
◆
世界樹―――。と呼ばれるこの世界に魔素を生み出している大樹。
その高さは凡そ250m 横幅は80mにも及ぶ。
そんな大樹の麓にポツンと佇む一軒家。
そこには黒の三角帽子に黒のローブ。いかにも魔女ないで立ちの老婆が1人。
「なんだか今日は世界樹が騒がしいのぅ」
世界樹を中心とした森。その森に群生する薬草を煎じて木のカップに湯を入れて混ぜたもの。
その緑茶とも青汁とも言える微妙な飲み物を椅子に座り飲んでいた老婆はぐっと一気に飲み干して重い腰をあげる。
「やれやれ、厄介ごとじゃなければいいがねぇ」
本当に。この世界樹のざわめきが厄介ごとではないことを祈りながら老婆は顔を顰める。
しかし予感? 第六感? というのだろうか。それが働き老婆は厄介事が舞い込んで来たことが分かっていた。
「かと言って見捨てるのも寝覚めが悪くなるしね。やれやれ、仕方ないねぇ」
全体的に木で出来たリビングから同じくそんな様相の廊下へ。
玄関に出て扉を開閉すると老婆は自身にも勝るとも劣らない強い魔力を感じる方向へ歩き出した。
◇
老婆がその家を出る少し前――――。
少女は夢を見ていた。
青空の下、心地よい風に吹かれながら青々と茂った芝生にその体を横たえている。
生きてきて15年間。その年月の中で恐らく一番と言える心地よい眠り。
余りに気持ちよくてこのままずっと眠っていたくなる。
目を開けたくない。なのに睡眠の邪魔をしてくる存在が1つ。
それは祖母宅の犬。1年に1度だけ会える癒しの存在。
「ちょ、ちょっと・・・。くすぐったい。もう、大福ったらっ!!!」
この眠りを妨げて欲しくなくて幾ら追い払おうと手を振ってみても犬・大福は諦めない。
少女の手の動きに合わせて一度は離れるがすぐにまた寄ってくる。
「あふ・・・。べたべたする・・・。分かった。分かったから!!! 起きるから」
目を開ける。飛び込んでくる光。
「えっ」
空がコバルトブルーじゃない。この色はエメラルドグリーン。でも雲はちゃんと白い。
「?」
なんだこれ。夢? にしては妙にリアルなような? なんか体が痛い。それと何か気配が・・・?
何気なく首を傾けると視界に飛び込んで来る獣の群れ。
5~6匹のどっからどう見ても狼達。
「ひっ!!!!?」
慌てて半身を起き上がらせて後ずさる
"ドンッ"最悪なことに木がすぐ後ろにあったらしい。
というか木の根を枕にして私は眠っていたらしい。
これ以上後ろに下がれない。
狼達はじっと私を見ている。
1匹は真っ白な毛並みで黄金の瞳。他は灰色で青い瞳。
怖い筈なのにその美しさに若干魅了されそうになる。
「わ、私を・・・食べるの?」
怯えながら狼達に聞いてみる。
目の前に餌があればすぐにでも飛び掛かってきそうなものなのに狼達はその様子を一切見せない。
じっと私から視線を外すことなく私を見つつ、その場に座って立ち止まっている。
なんだろうか。何がしたいんだろうか。
困惑に頭を悩ませていると突如頭の中に声が響く。
《ねぇ、お姉ちゃんは森守人?》
「えっ?」
頭の中に声が聞こえてきたのにも驚いたがそれよりも聞かれた内容。
森守人。蘇ってくる過去。
私はどういうわけか生まれつき人よりも若干耳が長いという特徴を持っていた。
普通は人間の耳は丸い。なのにそんな特徴。自分達と異質なものを気味悪がる連中の中でそんな特徴を持つ者が人並みに生きていけるわけがない。
なるべくして私は虐待・苛めの対象になった。
気味悪がられて陰口を叩かれる。耳を触られて「気持ち悪い」と罵られる。
「忌み子」と言われて暴力を振るわれる。
そんな毎日。家にも外にも私に居場所はない。
森守人。ファンタジーな物語に登場する亜人。
まさしくそんな特徴を持った私。
私にとって「森守人」は呪いで、だからだから・・・。
「違う。違うよ。私は人間だよ!!」
多少ヒステリックに叫んでしまった。
しかし狼達はまったくそれに動じることはない。
《でもその長い耳。どう見ても森守人だよ》
「違う。私は――――」
《お姉ちゃん、そこの泉で自分を見てみて?》
狼達がまるでアーチの道を作るように3.3に分かれる。
それから全員顔を左向きに。
私にとっては真正面。
促されるように見ると少し先に湖らしき水場が見える。
よろよろと立ち上がる。
妙に頭が痛い。体に力が入らない。
あっ・・・・・・。
《お姉ちゃん!!》
よろめく私を狼の中で一番体が大きい子・私に話しかけてくる子。が支えてくれる。
《大丈夫?》
「ごめんね、ありがとう・・・」
獣の匂い。でも臭くはない。温かい。狼をそう認識したとき、直近の記憶の奔流が巻き起こる。
青白い輝き、五芒星、消える体。得体のしれない空間――――。
「あっ・・・」
心を整理する時間はなかった。
"バキッ"と枯れ枝を踏む音が右列の狼達の後ろから聞こえ、一斉にそちらを振り向くと二足歩行の豚の化け物。
《オーク》
「ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
狼達が豚の化け物・オークに飛び掛かるのとオークが私を見かけて気持ち悪く口角を上げつつ棍棒を振り上げるのはほぼ同時だった。
悠里「なんだか体に違和感がある」
作者「その辺のことは後々明らかになるから今は内緒にね!」
悠里「明らかになる前に詰んだりしないよね。私。大丈夫? 今回最後の最後でオークとか出てきたけど」
作者「さてどうでしょう」
悠里「次回 ドナドナされる少女。・・・えっ、不穏」
作者「頑張れ。主人公」