幕間01.ユーリとアメリアの日常とフラグと
「ん・・・」
朝。一の鐘が高々に鳴り響いている最中、私はその音で目を覚ました。
今日もよく眠れた。快眠だ。頭がすっきりしてて軽い。
体を半身だけ起こし、私はまだ夢の中にいるらしい私の大切な仲間を見る。
真っ白なケモミミ、青みがかった私の髪と別で紫がかった銀色の髪。
長い睫毛。開くと黄金に輝く瞳は今は閉じられていて見えない。
白い肌。呼吸するたびに上下に揺れる胸はここのところずっと私の頭を包む緩衝材の役目も担っている。
「ふふっ」
可愛い寝顔。普段は中性的な顔立ちだけど、こうして寝ているとあどけない少女の顔そのもの。
手を伸ばしてそんな少女の髪に触れる。柔らかな触り心地。
ゆるゆる撫でていると耳がぴくぴく動いて口からは寝言。
「ユーリ・・・」
寝言でまで私の名前を呼ぶ。
それがなんだか堪らなくすぐったくて、嬉しくて、胸に温かな何かが広がる。
白くふさふさした尻尾が動いている。
じっと見ているとどうしても触れたくなって、頭に乗せていた手をそこから外して尻尾に伸ばそうとする。
・・・と"パチリ"と開く黄金の瞳。その瞳は私を捉えるや否や細くなる。まるで獲物を見つけた獣のように。
「ユーリ! おはよう」
「わっ!!」
首に手を回して抱き着かれ、その体に引き寄せられてその場で反転。
気が付くと私はベットに押し倒されたかのような恰好。
顔を引き攣らせる私に構わずそんな格好にさせた犯人・アメリアは私に頬擦りする。
「ユーリ~、ユーリ~」
「くすぐったい、くすぐったいってアメリア!!」
「ねぇ、ユーリ。久しぶりに魔力ちょうだい?」
私の返事を待たずにアメリアは食事を開始する。
抵抗は許さないとばかりに私の両手を頭の上に上げさせて片手で押さえ、もう片方の手は私の寝巻を少しだけ捲って鎖骨を露わにさせる。そこに口を寄せてアメリアは私の魔力を吸う。
「んっ・・・」
変な感じだ。体から力が抜ける。間違えてもアメリアは私が魔力不足に陥る程までは吸ってないのに、むしろ魔力にはまだまだ余裕があるのに、まるで魔力切れを起こしてしまったかのような感覚。
「アメリア」
力なく彼女の名を呼ぶとアメリアは鎖骨から口を離す。
その代わり私の唇にその唇を重ねる。
魔力が吸われる。鳥のように何度か唇を唇で啄まれる。
ファーストキスを奪われて以来、もう何度か経験してるから心が慌てるようなことはない。
でもドキドキはする。血流がよくなって鼓動が早鐘を打ち始めてまるでお風呂に長時間浸かっていたせいでのぼせたみたいになる。
「ユーリ、大好き」
その言葉。
嬉しいけど私にはよく分からない。
人を好きになるってどんな感じなんだろう?
友情と恋って何処から違うんだろう? 分からない。
だから私は素直にアメリアに伝える。
「ごめん。私、好きって気持ち分からなくて。好きってどんな感じなの?」
「ん・・・」
アメリアはその問いについて想像しているのだろう。
とても幸せそうな顔をしている。
羨ましい。私も知りたい。そんな顔してみたい。
「ボクが教えてあげる。ボクのこと考えるとユーリは笑顔になるようにしてあげる。だからユーリ」
また唇を重ねられる。今度は長い。段々息が続かなくなってくる。苦しい。抵抗も封じられているだけに何も出来ずただ苦しい。これは・・・キツい。
酸素が足りなくて頭が回らなくなってきた頃、漸くアメリアは唇を解放してくれた。
「ぷはっ」
「ハァハァハァハァ・・・・ハァ、ハァ・・・ふぅぅぅ」
「ごめんね、息するの忘れてた」
「ハァァァ、ちょっと・・・死ぬかと思った」
「ごめんなさい・・・」
「ううん、大丈夫だから、ね」
「うん」
ここで手が離される。
やらかしたことでちょっと元気を無くしたアメリアが私から離れようとする。
その姿に胸が"チクっ"と痛んで・・・。
「アメリア」
私は彼女に手を伸ばし、今度は私が彼女を私に引き寄せ、その唇に唇を重ねた。
「ユーリ!?」
「教えてくれるんでしょう? 好きの気持ち。なら一度ミスしたくらいで凹まないでよ」
「そんなこと言っていいの?」
「いいの!! 大体嫌じゃなかったし。苦しくても暴れようって気持ちしなかったし。早く好きの気持ち知りたいし。だから教えてよ、アメリア?」
「そっかぁ。そんなこと言うんだ? それならボク、もう手加減しないよ?」
「え? うん」
「ユーリ」
「うん?」
「今夜は眠れないと思ってね」
「は?」
「全部ユーリが悪い」
「えっ? えっ?」
アメリアの瞳が怪しく光り、口角が鋭く上がる。
もしかして私は何かやらかしてしまったのだろうか。
今夜寝れないってどういう意味だろ?
問うてもはぐらかされる。
えっ? 何? どういうことーーーーー?
-マウリの町-
2日程前にシンシア師匠の家を出て、現在はこの町の宿にお世話になっている。
滞在予定は今日を入れて後3日。それが過ぎれば次の町か村に行く予定だ。
行き先を正しく決めてないのは、別に急ぐ旅ってわけでもないから。
行き当たりばったりで決めてそこで数日滞在したらまだ次の場所へ。
そんな感じでとりあえずはイスミール王国の王都を目指そうと思ってる。
王都に行くのは決定事項。そこが気に入れば家を買おうかなとも思ってる。
家を買っても旅は続けるけどね。ならどうして家を買うかって? 拠点にしたいからだよ。
シンシア師匠の家? 親戚か祖母の家って感じだよね。自分達の家が欲しいんだよ。
私とアメリアとスノーとシエルと。もしかしたら今後増えるかもしれない仲間とのんびり過ごしたい。
落ち着いたらスローライフもいいかなって思ってる。
王都でお店を開くのもいいかもって。
飲食店。近代日本の料理はこっちの世界の人には馴染みがないから勝算はあると思うんだー。
あぁ、夢が広がるー。けどその為にはお金がいる。今の私達の持ち合わせだけじゃ全然足りない。
稼がないとなぁ。その為には・・・。
今朝のアメリアのセリフ。
結局意味を教えてくれなくて悶々としたまま。
私達は冒険者ギルドの前にやってきた。
看板に盾とその盾に斜めに剣が重なっているイラストが描かれている。その隣にエールジョッキ。
木造作りな建物。中からは「ガハハハハッ」って品のない笑い声。
地球・近代日本のよく小説なんかで見る冒険者ギルドの在り様そのままだ。
ってことは絡まれたりするのかなぁなんてフラグを立てながら私達は扉を開く。
一歩。中に入ると視線が一斉に私達に集中する。
値踏みされているようで不愉快になる。
実際、中には「ひゅー、いい女じゃねぇか」とか「男漁りに来たのか」とかそんな声が聞こえてくる。
帰りたい。人生プラン考え直したほうがいいだろうか。
お金稼ぐの冒険者が手っ取り早いかなって思ったからここに来たのだけど・・・。
だってほら、異世界転移とか転生とかした主人公ってほぼ100%ここにくるでしょ?
それで大金手に入れたりする主人公もいるでしょ?
だから私も真似して来たんだけど・・・。
やめといたほうが良かったかもしれない。
「ユーリ、どうするの?」
『『ここ気持ち悪い』』
アメリアもその顔を見ると不愉快そう。
スノーとシエルに関してはあからさまに嫌悪感丸出し。
うーん。帰ってもいいんだけど、もう中に入っちゃったしなぁ。
「登録、するよ」
「分かった」
『『ご主人様が言うならー』』
覚悟を決めて足を前へ。
受付カウンターらしきところへ行って中の女性に話しかける。
「あの、すいません」
「はい、ご依頼ですか?」
「いえ、冒険者登録したいんですが」
「えっ!?」
「えっ!?」
「あ、失礼しました。依頼ではなく登録ですか」
「はい」
「えっと、では・・・」
受付嬢さん? が石板を私達に。
シンシア師匠の家で見たのとはまた少しだけ違う感じの魔道具。
「これに必要事項をご記入お願いします」
ほぉ。ほんとにタブレットみたいななんだなぁ。
ペンも石板にタッチすることで文字が書けるようになってるし。
凄い。思わぬところで文明に出会った気がする。
「あ、渡しておいてなんですが文字は書けますか?」
「はい、大丈夫です」
私はペンを取る。
が、考えてみれば私って日本語と英語しか書けない。
言語理解で喋れるし、理解出来るし、読めるけど書くことに関しては想定されてないっぽい。
「アメリア・・・文字書ける?」
そっと石板を彼女へ。
書けるって言っておきながらこのざま。恥ずかしい。
「任せて」
アメリアが私達のデータを石板に記入し始める。
そんな時、フラグ回収の声がかかった。
「おっと、嬢ちゃん達ちょ~っと待ちな!」




