14.旅立ち前 その3
出発まで残り2日。
今日はそろそろ下着も出来た頃だろうということでマウリの町へお出掛け。
私は当然のように今回もアメリアにお姫様抱っこされていた。
出発前に一応「歩くよ?」とは言った。
けど聞こえなかったフリをされてすぐに抱きかかえられてしまった。
こうなったらもう我が儘は言わないよ。
大人しくアメリアに身を委ねて彼女の感触を楽しむことにする。
何がとは言わないけど、顔の位置に丁度当たっててね!
アメリアのはそこそこ大きいから気持ちいいんだ。
防具? そう言えば何故か付けてないね。ガントレットとグリーブはつけてるのに。わざとかな? 近頃アメリアが何考えてるかちょっと分からない。
ぐいぐい来るんだよね。ぐいぐい。
「ユーリ」
「何?」
「ユーリ、いい匂いがする」
「アメリアもいい匂いするよ」
2人共洗浄魔法バッチリだからね。
今日もフローラルな香りが漂ってるよ。控えめにね。
「そうじゃなくてユーリってね。森みたいな香りがするんだよ。魔力の質がそうなんだと思う。凄く好きな香り」
魔力の質? 魔力って香りあるの? ちょっとよく分からなくて自分の体を"クンクン"してみる。
それを見られて微笑ましい子を見ているかのような目で見られてしまった。
なんだよ、その顔。恥ずかしいよ。私が子供みたいじゃん。
「うぅ」
照れ臭くてアメリアのそこに更に顔を寄せる。
命の鼓動が聞こえる。走ってるからっていうのもあるのは分かるけど、それよりも少し鼓動が早い感じがするのは気のせいかな? もしかして体調悪い?
「アメリア、鼓動の乱れがこう・・・。ちょっと大きい気がするんだけど、もしかして何処か体悪いんじゃない? 無理しないで? 辛いなら引き返そう?」
見上げるアメリアの顔はやっぱり少し赤い。熱だろうか? 水魔法を使用して手に魔力を集め彼女の額に触れようとするとジト目で睨まれる。
「ユーリって鈍いよね」
「へっ?」
何が? 何の話? 行き場を失った手が空中を彷徨う。
このままだと間抜けな感じになってしまうのでとりあえずアメリアの頬に触れさせることにした。
「あ、気持ちいい」
「それは良かった」
ペタペタ触る。その度にアメリアの顔がますます赤くなってる気がする。
ほんとに大丈夫かな? 心配で何度も声かけるけどその度に「大丈夫だから!」って言われてしまってついに何も言えなくなる。
「そんな顔しないで。これは別に病気じゃないから」
「ほんとに?」
「うん! あれ、でもある意味では病気なのかな?」
「え? どっち?」
アメリアは私の質問に曖昧に笑うだけで応えてくれない。
む~、そんなに頼りないかなぁ。私。治癒魔法使えるよ? 何処か痛いなら教えてくれたらいいのに。
「ユーリ」
「・・・・・」
「ユーリ、ユーリーー? ユーリ」
「・・・・・」
「ユーリ!」
「わ! え? 何?」
「森抜けたよ」
「あ」
なんと! 悶々としている間にいつの間にか森を抜けていたらしい。
降ろしてもらってここからは手を握る。
やっぱり恋人握りなんだね! 嬉しそうな顔が可愛い。耳と尻尾が楽しそうにゆらゆら揺れてる。
癒されるなぁ。ケモミミ、尻尾最高です。
前に来た時と同じように門までの道をゆっくり歩く。
「下着出来てるかな」
何気なく口にすると「可愛いデザインのも出来てるといいよね」と返ってくる。
まさか女子トーク出来るの? 試してみる。
「可愛いデザインってどんな?」
「ワンポイントがついてるとか。機能に邪魔にならない程度のフリルつきとか。後、上手く言えないけど可愛いって思ってしまう色とかデザイン次第であるよね。ボク、ユーリがそういう可愛い下着つけてるの見たいなぁ」
アメリア、スペックどんどん高くなってるな。
私もアメリアが可愛いのみたい。
そう言えば獣人族って尻尾があるから下着にUの字で切れ込み入ってるんだよね。
それがこう。あ、うん。なんでもない。
「じゃあ帰ったら下着ファッションショーしようか?」
「ファッションショーって何?」
「えっとお互いに買った下着を次々着て見せ合うんだよ。可愛いのあればの話だけどね。シンプルなのばかりだったらそんなのしても面白くもなんともないし」
「ユーリの可愛い姿が見れるってこと?」
「可愛いかどうかは分からないけど」
「可愛いよ!ユーリは可愛い!」
「あ、はい」
興奮して言い切られてしまった。
確かにこの体は美少女だけど、中身残念少女なのがねぇ。
外見が良ければいいのかな? まぁアメリアが楽しそうだから余計なことは言わないでおこう、うん。
私は空気が読めるんだ。
「言っとくけど」
「うん?」
「ユーリは中身も可愛いから」
考えてること読まれた? エスパーか? エスパーなのか?
呆然とした目でアメリアを見る。
アメリアは柔らかく微笑んで。
「じゃあ行こっか」
イケメスよろしく私の手を引いて入町審査の列に並ぶのだった。
あれから数時間。
私は燃え尽きています。
結論から言うと下着は出来てました。
シンプルなのから可愛いの、果てはスポーツブラから勝負用下着までよりどりみどり出来あがってました。
いずれも地球産のよりは質がどうしても劣ってしまっているけど、だからと言って別に問題になる部分があるかと言えばない。この素材でここまで出来るならって太鼓判が押せる出来。
嬉しくて私の分とアメリアの分。買えるだけ買おうとしたら店員さんに捕まって何故か売り場の裏・スタッフルームに連れて行かれた末そこで下着を取っ替え引っ替えされてしまった。
帰ってから開催しようと思っていたファッションショーがここで。百歩譲ってそれはいいとしよう。思うところは正直あるけど、店員さんも自分達がデザインした下着をこれを提案した私達に着用させたかったんだろうしね。似合うかどうか見たかったんだよね? うん。その気持ちは分からなくもないよ。だけどね、何故に店員さんに着せ替え人形にさせられるのか。自分でって言っても拒否だし。幾ら同性同士って言っても、ね? 貴族の令嬢とかこれが当たり前なんだよね? よく耐えれるなぁ。私貴族に生まれなくて良かった。色んな意味で恥ずかしい。良かったことと言えば下着のつけ心地が思ったより良かったのと、隣で同じく着せ替え人形にされてたアメリアが可愛かったことくらいかな。ガン見してしまった。アメリアも私をガン見してたけど。しかし疲れた。何十着の下着を脱がされ、着用されたのか。気力も体力もごっそり持って行かれた。今の私、真っ白だよ。
「疲れた」
「眼福だったー」
アメリアはなんでこんなに元気なんだ? 私と同じだけ着せ替えにされてたよね? 貴女。
メンタル強い。私はもうダメだ。
アメリアに寄りかかってその腕にしがみつき、後のことは全部任せることにする。
周りの目? 正直気にしてる余裕ないです。疲労が凄いです。ベットに入りたい。
「ユーリ?」
「ごめん。後よろしく」
「うん!」
「あらあら」
私達が話している間に妙に艶々している店員さんがやってくる。
下着ファッションショーを終えて私達が購入すると決めた下着類沢山と服を数点持ち帰れるよう用意してくれていたのだ。
「それでは下着類が上下セットで銀貨4枚でそれが20点。服が4点で金貨1枚と銀貨3枚ですね。ですが良い思いをさせたいただいたので全部で大銀貨8枚でどうでしょうか?」
「ありがとう」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました。またよろしくお願いします」
大銀貨8枚。下着は銀貨4枚か。高いな。平民には手が出ないだろうな。そのうち平民も買えるくらいに安くなったら良いんだろうけど。
「うん、がんばろ」
「何を?」
「ん~、色々」
「そっかぁ。ユーリが頑張るならボクも頑張る」
「ありがと、アメリア」
店を出て私達は笑い合いながら道を行く。
そんなときだった。新種らしき白いスライムが私達の前を通りかかったのは。




