お誘い
明日はバイトが休みの日である。ひまだし、1人遠出でもしようか。たまには1人も楽しいものよ。
心の中でそんなことを思いながらも、誰か遊びに誘ってくれないかな、なんて考えている自分を感じてふふふと笑った。
「なーに、一人で笑っちゃって。気持ち悪いよ。」
頭の上から聞き覚えのある声がした。振り向くと、その声の主は千春であったことが判明した。
「いいじゃん、別に。笑っても誰にも害はない。」
ほおを少し膨らませて、怒って見せると、千春は口を大きく開けて笑った。ハハハ、というよりは、カカカに近い笑い声だった。
「ところでさぁ、青藍さん?少しお願いがあるのですがぁ」
妙な猫なで声で千春が私の顔を覗き込む。膨らませていたほおを元に戻して、
「なんですか?千春さん?」
と千春の声を真似て問い返した。
「明日なんですけどぉ、ちょっときてもらいところがあるんですけどぉ、いいですか?」
あいかわらずの声で千春が答えた。どうせ、アニメのイベントか何かだろう。
「いいよ、明日は暇だし。アニメのイベントでしょう。」
言いたいことを先読みして答えると、大きな目をさらに大きく、まんまるに見開いた千春の顔が見えた。
「なぜわかった?!」
「実は私、超能力使えちゃう感じ。」
「まじか」
「冗談だよ。」
そんなくだらない会話をしながら、明日の細かい予定を決めていった。すると、教室にまばらに残っていた同級生たちの一人が、こちらの方面へ歩いてきた。顔を見ると、変わった感じの子、として通っている、中宮葵和が机の前へ立っていた。
「ああ、中宮さん。」
「そのイベント、私もいってもいいかしら?」
あまりに衝撃的な発言に、しばらく返事ができなかった。ふと我に帰って千春の方をみると、私と同じくぽっかりと大きく口を開けて、中宮の方を見ていた。しばらくして、千春が口を開く。
「中宮さん、もしかしてオタクの方?」
「ええ。……少し、妹が好きだから……。」
少し困ったような表情の中宮をよそに、千春がグイグイと詰め寄った。
「そりゃぁもう!一緒に行こうよ。」
それ、さっき中宮さん言ってたけどね、なんて考えながら私は困る中宮さんと、詰め寄る千春の顔を見比べた。千春がふと私の顔を見て言った。
「ねぇ、青藍。いいでしょう?」
この時の表情が千春が多くの男を落とす笑顔なのだろう。もっとも、重度のヲタクっぷりを直せば、もっとモテると思うが。
「勿論。多い方が楽しいでしょうから。」