コーヒー牛乳
前回の話で、「一葉」と出てきました。青藍の母のことです。
今日は大学には行かず、一日中バイトに行っていた。
美紅や涼介は今日はバイトがない日だったので、私1人だった。1人のロッカールームでエプロンをつけていた。すると、おばちゃんが静かに入ってきた。
「こんにちは。」
と挨拶をすると、おばさんは小さく返事を返して心配そうに言った。
「大丈夫なの?あの………涼介くんのこと。」
「えっ?」
おばさんはさらに心配そうに言った。
「なんか、いつでも敬語じゃない?美紅ちゃんも涼介くんのこと、好きみたいよ。」
確かに私たちはいつまででも堅苦しい。まだ小さなキスしかしたことはないし、何回か遊びに言ったことがある程度だ。美紅が涼介のことを好きなことだって、事実だろう。涼介がどう思っているのかは別として、やはり気になるものである。
だが、関係のないおばさんににまで心配をかけるわけには行かない。笑顔を作った。
「大丈夫です。」
「あら、そうなの?何かあったら言って頂戴ね。」
エプロンを着て、ホールへ出た。一見誰もいないように見えたが、ひとりお客さんがいた。
双葉だ。
「与謝野さん借りますね。」
双葉がおばちゃんに呼びかけた。おばちゃんは訳も分からないまま、
「っど、どうぞ。」
と言った。双葉が頼んだコーヒーを飲みながら、
「あのさ、私の従姉妹がね、美紅なの。」
と言った。私はおばちゃんからもらったコーヒー牛乳を軽く吹き出した。
「美紅ってあの?ここで働いてる?」
と聞いた。双葉は、当たり前のように言った。
「そうよ。加藤美紅。美紅ね、あんたの彼氏のこと、好きだってさ。」
知ってる。そんなこと知ってる。双葉は続けた。
「美紅はさ、あんなだけどちょっと前まではウブな子だったのよ。髪も私みたいにおさげで結っていて。」
双葉が自分の髪の毛の先を、少しつまんで言った。
「彼氏いない歴=年齢なの。あの子。」
双葉はそう言った。私は言った。
「つまり、何?私に何を伝えたいの?」
そんな私に双葉は答えた。
「何にも。美紅にも言ったのよ。人の男取るのはやめなさいって。でも譲らなかったのよね。」
私は双葉に問うた。
「あんたさ、普通に話してるけど私のこと許してくれたの?」
双葉は鼻で笑って、答えた。
「許す訳ないじゃん。一生恨めるわよ。」
コーヒーをまた一口飲んで、続けた。
「お望みならいつでも殺して差し上げるわよ。」