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企画参加作品

红绿灯

作者: 柿原 凛

この曲をイメージして書きました。よかったら聞きながら読んでみて下さい。

広東語わからなくても、メロディーだけでも。

https://www.youtube.com/watch?v=EmXJjxYe410

 青は進め、赤は止まれ。点滅は早く渡らないと。赤信号、みんなで渡れば、怖くない。そんなこと無いけどね。信号は中国語で緑紅灯。緑か紅か。行くべきか行くべきではないか。分かりやすく二択で教えてくれる。

 信号は、道路を渡るときだけはこんなにわかりやすく行くべき時と行くべきではない時を教えてくれるのに、どうして他のときには教えてくれないんだろう。私は今、横断歩道を渡るべきか否かを決めかねている。

 小説や漫画、アニメに映画、どれもこれも恋愛描写が描かれているけど、今まではピンときていなかった。告白したいならすればいいじゃん、付き合いたいなら付き合えばいいじゃん、別れたいなら別れればいいじゃん、そう思っていた。でも今は違う。私は知ってしまったのだ。その登場人物たちが何を考えているのか、分かるようになってしまった。

 そうなってくると困るのは一切の動作がワンテンポ遅れてしまうことだった。こうしたらどう思うか、じゃあしなかったらどう思うのか。あれこれ考えているうちにチャンスは過ぎていく。もしも恋に信号があれば、そんなこと気にしなくても良いのに。誰かが決めてくれたら楽なのに。気持ちは赤信号でも体が青信号だと認識してしまうこともあれば、気持ちは青信号でも体が赤信号だと認識してしまうこともある。

 どうしてこうなってしまったのかというと、アイツが悪いのだ。アイツがいつも愛くるしい笑顔をしてきて、優しく助けてくれて、私のことをわかろうと、もっと知ろうとしてくれるのが悪いのだ。アイツがいなければこんなに悩みが増えることもなかったし、アイツのことばかり考えなくても良かったのに。アイツのせいで。アイツが悪いの!

 しかも日本の社会も悪い。告白は男がするものだから、女は待つの、って。待てないよ。今すぐ言いたいよ。最近はスマホでいつも恋愛指南のサイトを読み漁って、その中のアドバイスを頭にこすりつけるくらい頑張って覚えようとしている。するといろいろな情報でごちゃまぜになって訳がわからなくなる。そして思考を止めると、今日なんでアイツと目が合ったんだろうとか、なんでアイツがすれ違うときに体を避けるようにしたんだろうとか、そういう事ばかり考えてしまう。

 信号待ちをしていたが、自動車の方の信号は黄色になって、もうすぐ赤になりそう。そんなときだった。

「よ、お先に!」

 アイツだ。自転車に乗ったアイツが、部活カバンをぴょんぴょんさせながら、こっちに手を振ってもうすぐ青信号になる横断歩道を渡り始めた。

「え、あっ!」

 ここで何を思ったか、私は衝動にまかせて告白したいと思った。だが、結果と期待が違うことを心配して、傷つくことを恐れて、取り返しがつかなくなることを避けるようにじっとこらえた。アイツはさっさと先に行こうとしたが、信号無視の車と事故を起こしそうになって慌てて止まっている。

 今だ、今が声を掛けるチャンスだ。

 でもなぜか動けない。気持ちは青信号でも体は赤信号。本当の信号も、青になってしまった。

 アイツが自転車のペダルに足を置き、力強く踏み込んでいく。ここで大きな声で呼び止めれば振り返ってくれるだろうか。でも周りの目が気になる。急いで結果を求めて、早く道の向こうに着きたいと望んでしまう。別に告白しなくてもいい。話せるだけでもいい。でも、話しかけることすらできない。

 青が点滅する。早くしないと赤信号になってしまう。

 告白したい、でも告白できない。でもしたい。でも――。

 でもでもでもが重なって、ぐちゃぐちゃになって、歯を食いしばっていたら、赤信号になっていた。

 アイツはもうとっくにどこか遠くまで行ってしまった。


 私はまた、信号を待ちはじめることにした。良いタイミングが来るまで。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 出だしは何となく寂しげで儚い感じの曲調でしたが、歌が進むにつれて感情が爆発していくような曲調に変化し、一気に世界が広がっていくような感じかしました。最後は再び、寂しげな感じに戻り、綺麗な歌…
[良い点] 企画から参りました。初めまして。 まるで文そのものが歌のようだな、と思いました。 もどかしい思いそのままのリズムで。 広東語も綺麗ですね。 初めて聴きました。
[一言] もどかしい。でも恋ってそんなものですよね。 絶えず赤信号なのでは? と思ってしまいます。 交通事故は怖いですもんね。大ケガしたら大変。 しかし、渡らなきゃいけない交差点がある。
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