喧嘩
八
「おめえ、どこ高だよ」
最年少と思しき男が匂坂にガンを飛ばしてきた。
声を掛けられてから、匂坂は周りを確認する。あたりは公園だった。都会の中にあるマンションの合間にはめこまれた小さなそれではない。悠々と散歩ができる、芝の公園。太陽から街灯へ明かりは切り替わり、芝の上にいるのは匂坂と高校生の三人だけだった。
「龍山高校」
「いや、聞いたことねえし。なんなのお前」
「おれたちさあ、今、ちょっと金がねえんだよ。貸してくんない」
二番目の男がニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。まだ言葉を発していないのはリーダーのようで、腕を組んだまま、匂坂をにらみつけている。
(いまだに、こんな絵に描いたようなヤンキーがいるのか)
匂坂はまじまじと、三人を見た。
金。
金。
金。
三人とも見事に頭が染め上げられていた。
色で同調を示しつつ、髪型では個性を発揮している。
坊主。
ツンツン。
ボブカット。
匂坂はまだ三人を見つめている。
「何とか言ったらどうなんだ」
沈黙にいら立ったボブカットが吠えた。
「卵だな」と匂坂は言った。
「あ?」
「お前のことだよ。ボブカット。坊主は丸、ツンツンは星。おまえたちのあだ名。『まるほしたまご』アイドルユニットみたいでかわいいだろ」
挑発はゴングになった。
まずは坊主頭(丸)が右フックを繰り出す。
しかし、それより先に、匂坂の左手が坊主頭の顔面を掴んでいた。匂坂はそのまま、坊主の頭を地面に叩きつける。
間髪入れずにボブカット(たまご)が、しゃがみこんだ匂坂の腹をサッカーボールのように蹴り上げた。匂坂は素早く腕をすべりこませ、ボブカットの足を掴むと、そのまま持ち上げ、地面に叩きつけた。
受け身も取れずに後頭部を打ちつけた二人は苦しそうに転がっている。
「芝生だから、許してくれよな」
リーダー格と思しきツンツン頭は様子をうかがっていた。
「あんたはやらないの。星君」
「お前……」
星は転がった二人には意を介せず、匂坂をにらんだ。
「何かやってんだろ」