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六つの神通  作者: 内田龍太郎
7/8

新聞


 新聞の地域欄を読み漁ること、五年分。かかった時間は、三時間半。匂坂はようやく目当ての記事にたどり着いた。


「〇〇地区で不審火。住民三名が犠牲に」

「昨日に引き続き、火災。乾燥が原因か?」

「火の用心を強化。悲劇を教訓に」


 住所は、朝妻に案内された団地だった。

 匂坂は犠牲者の名前をメモ帳に控えていく。続けて、匂坂は郷土史のコーナーへ向かう。多摩市は戦後開発されたニュータウンの為、長い歴史があるとは言い難いが、それでも、週刊少年誌並みの厚さの市史があった。

 匂坂はためらうことなく、市史を開いた。匂坂は寺の子。分厚い仏教の経典に比べれば、現代語で書かれた本はそれこそマンガに等しい。ページをめくる音が、図書館の隅で重なっていった。匂坂は何を探しているのだろうか。

「あの、もう時間ですけど」

 声をかけてきたのは司書の女性だった。

「ここ、七時で閉館なんです。申し訳ないんですが、市史は禁帯なので……」

 匂坂は軽く会釈をして、本を閉じた。

「いいですよ。片づけますから」

 匂坂は会釈を重ねて、本を受け渡す。

「珍しいですね。市史を読むなんて。課題か何かですか?」

「まあ、そんなところです」

 匂坂は低い声で答えた。別に意識しているわけではない。単なる地声だが、司書には魅力的に響いた。

「明日も来るんですか?」

 司書の質問を無視し、匂坂は逃げるようにして、図書館を出た。

 匂坂は女が苦手だ。

 坊主の家に生まれた匂坂は、皮肉なことに美男だった。煩悩は悪と教わっているにも関わらず、当の本人が煩悩の発信源になっているという矛盾。根がいい加減であれば、教義を使い分けることもできただろう。しかし、匂坂は真面目だった。

 そして、何より彼の〝他心〟の能力が、女性に近づくことに困難を与えていた。

(まだ、何か言ってやがる)

 匂坂は頭に響く女の声を振り払うようにして、こめかみをたたいた。

 気が付くと、目の前に下校中の男子高校生が三人列をなしてやってきた。


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