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六つの神通  作者: 内田龍太郎
5/8

異変

 五


 山を下りてから、早速スマホで「一来」をググる。

 「いちらい」と読む。仏教用語で、あと一度生まれ変われば、阿羅漢になれる人のことを意味している。阿羅漢については色んな説明があってよくわからなかった。とにかく悟りを得たエライ人のことらしい。

(なんだ、尼だったのか。あんな、煩悩掻き立てるような恰好をしといて)

 ベッドに入って天井を見上げた。脳裏に朝妻の姿がよぎる。体育のプールにはあんな身体の女はいない。お目にかかれるとすれば、青年マンガのグラビアぐらいだ。細長い茶髪、少し肉のついた足、主張の激しい胸。そういえば、瞳の色も何だか、変わった色だった。

 名刺には電話番号とアドレスも載っていたが、連絡する勇気はなかった。朝妻がどんなに魅力的だったとしても、さすがに怪しすぎるし、何より電話番号とアドレスがネット検索で引っかからなかったのも不気味だった。

 何もなければ、連絡を取ることはなかった。わざわざ、書いてるってことは、何かが起こったということだ。

 翌日の月曜日。おれはいつもの如く、地元市立中学校へ向かう坂道を歩いていた。

「おーい、出口」

 後ろから自転車に乗った伊藤が声を掛けてくる。下り坂の勢いもそのままに、伊藤はおれの背中をリュック越しに叩いた。前につんのめりそうになるが、何とかこらえる。

 そこへ、第二撃がおれの尻を襲った。片山の仕業だった。おれはうつ伏せに倒れた。

「いえーい、おれの勝ち」

「ずりーぞ、竹刀使うなんて」

 そうか、この痛みは竹刀か。道理で痛むわけだ。

「学校着いたら、百円よこせよな」

 ケタケタと笑う片山の声が頭上で聞こえた。

 言っておくけど、これが起こったことではない。これくらいは日常茶飯事。言い忘れたけど、おれの身長は百八十五センチを超えてる。両親共に一般人と言ったけれど、ガタイの良さだけは一般離れしていた。

 弱くて小さいやつだけがいじめられる訳じゃない。標準を外れていれば、からかわれる。美人だっていじめられるんだ。デカいってのはからかいがいのある対象なんだろう。おれにはわからないけど。

 手を差し伸べられることもなく――別に期待もしていないけど――おれは立ち上がった。

 後ろから声が聞こえた。

「またやられてるよ」

 振り返ると、後輩の女子が歩いていた。こっちを見るでもなく、そのまま通り過ぎようとしている。

「また、って何だよ」

「え? 何ですか」

「何ですか、じゃないよ。先に声を掛けたのはそっちでしょ」

 おれはつとめて優しく声を掛けた。この図体のせいでちょっと言い方をキツくすると、すぐ脅しと勘違いされる。

「いや、何も言ってません」

 女子は、学校へ向けて坂を走って行った。

 これはまだ、ほんの序の口にすぎない。

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