団地
三
団地が二人を囲んでいた。等間隔に並んだコンクリート仕立ての建物群は、匂坂に威圧感を与えてくる。
「人がいませんね」
「もう廃墟になってるからな。ニュータウン計画で70年代から親子連れが移り住んできたんだけど、子育てが終わってオサラバ。来月には取り壊しが始まる。知ってた? ここは当時『夢の町』って呼ばれてたんだってさ。言ってみれば、今の豊洲辺りに近いイメージかな」
「どっちかっていうと、悪夢を見そうですけど」
陽の落ちかけた団地は不気味さを増している。明かりの少ない建物はまだ見ていられるが、非常灯も付いていない建物は直視に堪えない。寝たきりの植物人間に似ている。死んでいるわけではない。かといって、生きているとも言えない。明かりのつくことのない住まいは、起き上がることのない人間と同じ。
「まあ、悪夢は間違いなく見るだろうね。感じるでしょ?」
朝妻の問いに匂坂は目を瞑って答えた。
「五……いや、七人……死因は……焼死?」
「そうだね。火事だ。ただし、人数は八人。赤ん坊が抜けてる」
匂坂は意識を集中させる。かすだが、赤ん坊の声が届く。
「すみません」
「いやいや、優秀、優秀。使ったのは〝天眼〟?」
「〝天耳〟です」
「なるほどね。まあ、これはほんの小手調べ。あんたにはこれから一週間、この町に留まり、この事件の犯人を取っ捕まえてもらう。無事、達成できたら合格。あんたは晴れて祓い師の仲間入り」
「捕まえるだけでいいんですか?」
「成仏させる気? できるならやれば? 言っとくけど、犠牲者にはあんたと同じく祓い師の見習いもいたんだからね」
匂坂はため息をついた。
「死ぬかもしれない試験ってのはマジだったのか」
「OJTだ、OJT。この程度の悪霊にやられるようじゃ、どっちみち見込みはないよ」
「分かりました」
匂坂は地面にあぐらをかいて座り込んだ。
「何してんの?」朝妻が尋ねた。
「『探す』んです」
「ごめん、集中する前にもう一つだけ。失格の条件だけど、一週間以内に見つけられなかったら、もちろん失敗ってのは言うまでもないんだけど、もう一個条件があるの」
「何ですか」
「この試験、実はもう一人参加者がいるんだよね。そいつに先越されてもアウトだから」
「……そいつの名前は?」