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プロローグ

[0]

 少年がその夢を見るようになったのは何時の頃だっただろうか。気が付くと少年は全てが白で塗り潰された異質な空間に独り立っている。音も匂いも存在しない空間だが、全くの無という訳ではない。

 その異質な空間には、そんな異常性にお似合いの異質な存在が独り。それは少女だった。白磁の様な肌に綺麗な黄金の髪。当然、単なる少女ではない。まさしく神の如き美貌の少女だ。凡そ普通の人間の物差しでは推し量れないその美貌はまさしく異質。


 だが少女を異質たらしめているのは美貌だけではない。最も異質な点。少年の生きている文明化された平和な世界では、一生お目にかかれないだろう光景。少女は鈍色の鎖に磔にして繋がれていた。まるで厳重に封印でもされているかの如きその姿。

 大方、封印とは悪に施されるモノというイメージだろう。だがこの少女には悪という要素は全く以て見当たらなかった。むしろ少女を善悪の二択に当て嵌めるとしたら圧倒的なまでに善だ。


 慈悲深い女神の様な少女。陳腐な表現ながら、それが万人が少女に抱く印象だろう。少年もまたその様な印象を抱いていた。

 少年は何時の頃からかそんな少女と自分だけが存在している空間に立っている夢を見るようになっていたのである。少女は鎖に繋がれたまま微動だにしない。少年が声を掛けても無反応だ。


 いつもなら特に何かが起こる訳でもなく、時間と共に終わるこの夢。しかし少年が十五歳になる誕生日の夜は違った。閉じられたままの少女の目が開いたのである。だが異常はそれだけではない。

 どれだけ少年が声を掛けても何の反応もない少女が初めて言葉を発したのである。少女の開かれた目は少年を優しく見つめていて、その美貌に見合う美しい声は少年に向けて言葉を紡いだ。


 「■■■■……■■■■■■■」


 しかし肝心の内容は、少年には伝わらなかった。紡がれた言葉は靄がかかるようで。少女は自分に何を言ったのか、それが分からないまま、少女にそれを尋ねる間もなくこの夢は終わりを迎えた。

 目が覚めた少年は、暫くの間先刻見た夢について考えていた。この夢は一体何なのだろうか。初めて動きを見せたこの夢に対する謎は、少年にとってより一層深まるだけの結果となったのだ。


[1]

 地球とよく似ているが地球とは別の世界。違う点は多々あるが、この世界が地球とは決定的に違う点が存在する。それは異能の存在だ。

 異能とは端的に言ってしまえば才能の究極形。火を自在に操ったり、物理攻撃を跳ね返すバリアを貼るなどがその例だ。数千人に一人の割合でしか存在しない全ての法則を超越した超然的な力の事である。


 異能を持つ人間は異能者と呼ばれ、その扱いは国家によって変化する。しかし共通する点として、異能者は国家の重要な戦力として重要視されている。

 さて、マイノリティである異能者はその性質上、歴史的に悲惨な扱いを受けて来た。ある時は異端者であったりある時は戦争の為の奴隷であったり。そんな異能者の歴史が大きく転換したのが十九世紀の事だ。


 これまでの異能者の扱いに反発した強力な異能を持つ異能者が中心となって、異能者の組合を設立したのである。組合と呼ばれるそれは、異能者の立場を飛躍的に向上させる大きな役割を果たした。

 現在では異能者は組合の御旗の下、十分に保護されている。組合の立場は更に強固と言えるだろう。


 組合の下には組合の実働隊である使徒と呼ばれる団体が存在する。使徒の歴史は組合の設立と同時であり、決して深くはないものの世界的に有名である。使徒の行う事は多岐に渡るが、世界の為になる活動をするという点では共通している。

 さて、使徒になる為には組合に所属する異能者で、かつ厳しい試験に合格しなければならない。異能者といえどもピンキリだ。使徒になれるのは、異能者の中でも総合的に力のある者のみである。


 世界は大きく五つの大陸に分けられる。時計回りにリグナム・イグニス・ソリ・アウラム・アクアだ。その中のアクア大陸を治める国ーホンニでは、そんな使徒に新しくなる事が出来た少年が居た。

 少年の名はレイ・フジワラ。ホンニ人といえば黒髪黒目だが、レイは銀髪に青目というホンニ人らしくない顔立ちである。非常に整った容姿をしていて、元気で正義感の強い少年だ。


 そんなレイは現在人生の大きな転換点に居た。どういう事かというと、二千年四月の今日という日が、親元から独立する日だからである。

 使徒になる事が出来たレイは、使徒である事を示す為のライセンスを組合から貰う為に、組合設立の地にして組合の本部の位置するリギスイに向かう事が、新しく使徒になる者として義務づけられていた。


 行くだけの事たが、何故それが独立する事に繋がるのだろうか。リギスイはソリ大陸全土を支配する大きな国だ。地形的な問題で、ホンニからリギスイに行く為にはかなりの時間を要する。

 その為、レイはリギスイに行き、暫くの間そこで暮らそうと決めていたのだ。


 レイの両親は、銀髪青目のレイとは似ても似つかないホンニ人らしい顔立ちだ。何故子供と両親で似ていないのだと白い目で見られる事もあったが、レイと両親の仲は良好である。

 特に母は息子であるレイを溺愛していた。そんな母がまだ十五歳の息子が独立するとあれば、大いに悲しむ事は明白だと言えた。

 いよいよレイがリギスイへと向かうという時間。レイは家の玄関で両親と別れの挨拶をしていた。


 「本当に行くのね?」


 眉を寄せて如何にも心配であるという事を隠そうともしない母。息子の成長を喜びつつも本音としてはこの独立には反対していた。

 対する父は独立には賛成の立場だ。レイがこうして今日という日をこの様な形で迎えられたのも父による所が大きいと言えるだろう。

 レイはそんな母を苦笑しながらも、そこまで心配してくれる親の愛に感謝もしていた。


 「うん行くよ。将来は絶対に立派な使徒になる。暫くの間はホンニから遠いリギスイに居るけど、俺なら大丈夫だから心配しないで」


 それを聞いて頷く母。笑顔で送る父。三人の間にもう言葉は必要なかった。さあ未来に向けて一歩を踏み出そうではないか。レイは最後に今まで育ててくれた感謝を込めて満面の笑みでー


 「行ってきます!」


[2]

 そんな言葉とともに家を出たレイの背中を暫く見つめていたレイの両親。二人の胸中は複雑であったが、そこに負の感情はない。

 愛すべき息子がこうして独立したのだ。親として喜ぶべき事であるのは明白である。しかしながら、レイに関して特別な事情を抱えているこの両親にはその事に対する意味は特に大きいようだ。


 「あの子が立派に成長して本当に嬉しいわ。二人もきっと喜んでいるわよね」


 そんな母の言葉に頷く父。果たして母の言う二人とは誰なのだろうか。それはレイの出生に関わる事だ。レイには本人も知らない秘密が多く存在する。

レイの未来がどうなるのかどうかはレイ次第だと言えるだろう。


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