朝、平日、アキバ。
恋をするのがお仕事です!
やって来ました聖地、アキバ! わたしは実は来たことが無いんだよね。でもでも、きっとここならアイドルやってます。だから、わたしと恋してください! なんて言えばバッチリだよね。
朝9時――
「あのあのっ、わたしアイドルなんです! わたしと恋人になってくれませんかっ?」
「急いでるんで」
「あのっ、恋を…」
「通行の邪魔だから、どいてくれる?」
あれ? 何かイメージと違う……。何だかみんな急いでるし、スーツ着てるし…アイドルがいても素通りしてるし…どうして? 朝はダメなの? 外に出てないから朝のアキバの状況が分からないよ…。
あっ、掃除のおじさん! 聞いてみよう。
「あのっ、すみません! わたし、アイドルを…」
「ん? あぁ、劇場ならここを真っ直ぐ行けばあるよ」
「劇場? よく分からないですけど、そうではなくてあのあのっ…わたしと恋人になってくれる人を探してます。知りませんか?」
「そういうのは道行くその辺の人に言ってはダメだよ。キミはまだ子供じゃないか。まずは養成所に入って、そうして売れてからセリフとして言いなさい」
掃除のおじさんは笑顔のまま、手を振ってここからいなくなってしまった。
「えー? もしかして朝はダメなの? 養成所というか事務所に入ってるんですけど~……」
……ということで、夕方になるまで観光? をしてみた。どうやら朝は仕事の人で忙しいらしく、別の場所では行列を作って何かを求めている人たちでいっぱいだった。つまり、わたしは誰にも相手にされなかった。夕方、朝とは違う雰囲気を感じて、辺りを歩いているとメイドさんが何かを配りながら声をかけていた。可愛い声だなぁ…もしかしてアイドル?
「あの~? もしかして…アイドルですか?」
「お帰りなさいませ~お嬢様っ! いいえ~わたしはメイドですよっ。よかったらここの建物の上階に来てね!」
「は、はぁ…そ、そうなんですね。あのあの、アキバで恋をするにはどうすればいいですかっ?」
「えーと…うーん……あ、あの人! 一人で歩いている男子に声をかけてみたらいかがでしょうか?」
「分かりましたっ! ありがとです~」
そっかそっか! 男子一人に照準を合わせればいいんだね。
「あのあのっ! お一人ですよね? わたし、アイドルなんですけど、恋人になってくれませんかっ?」
よしよし、これでお仕事完了ね。
「キミはどこのグループ? そして所属は? そもそも恋人になってくれとか言うアイドルは価値がないのと同義! アリエナイね。急ぐからどいて」
「ええっ!? わたしは一人だし所属はオールアバウト…誰も知らない?」
「はぁ? アイドルぅ? 恋人? ぼったくりかよ乙!」
あううう…嘘でしょ……どうして? みんなアイドルを恋したくないの?
「キミ、アイドルなんだね。うん、確かに可愛いし素質あるけど…足りないモノがあるね」
「えっとえっと、それは何ですか?」
「耳、そして、尻尾! もふもふがたまらなくイイ! 空も飛べたら最高だね。あぁ、それと君と恋人になる条件として、僕もどこかに転生させてよ。それなら恋愛してもいいよ」
「耳? 尻尾…それはネコとかそっち系ですか。空はさすがに…転生させる? それはわたしが判断できるわけではなく~……社長が…」
「何だ…キミは大して力がないのか。それならいいや。じゃあね」
はあぁ…アキバも駄目かぁ。そもそも転生って誰でも出来るの? わたしは社長の力で転生…じゃなくて、色々な世界を回ってるだけなのに。でもヒントはもらえた気がする…
「……アキバも駄目だったと? 瑠々子くんは人間なら恋が出来るんじゃなかったのか? どこまで落ちぶれているんだ。どこでなら仕事が出来るんだ……」
「えっと、わたし、ヒントをもらいました! ネコ耳とか、尻尾とか、あとあと、転生を繰り返せば恋が出来るみたいです!」
「転生か…ふむ。確かに、今の君の姿と能力ではアイドルにもなれないし、恋人も作れそうにないな。分かった…3日ほど、このスクエアで眠りなさい。目が覚めたら希望の姿になっていて、転生を完了しているはずだ。そしてその世界で暮らしてみなさい。それなら出来るだろう」
「ほっ、本当ですか!? 分かりました。ではでは、ここで失礼して寝させていただきますね。おやすみなさいです」
次こそ、わたしは恋をしてみせる! そしてアイドル道を――