プルスラ1
「いらっしゃーせーっ!!」
冒険者ギルドの長いカウンターの真ん中に座り、新たな客に声を掛ける。
人型をしているが、全体的に水色でプルプルしている。
その正体は、つい先日冒険者がギルドに持ち込まれた珍種の魔物で高い知能があると分かり保護指定された。
「よう、あんちゃん景気はどーでぇ?」
「…はぁまぁそれなりに」
「そーかいそーかい。人の世界は世知辛いね」
女児の人形用の服を着せられ、見た目可愛らしいお人形そのものにしか見えないのだが、悪い言葉から覚えていく。
「大した男だねぇ。オレのワケェ頃は、何もなくても草場で震えてたもんよ」
「はぁ、そうすか」
「クノイ、私が離れた隙に冒険者にちょっかいを出すのは止めなさい」
長い髪のエルフ女性が、カウンターにやって来てクノイの体を脇に寄せた。
「おっと、話し込んでたらアネさんに怒られちまった。邪魔したな若い衆」
「…ども」
「トムさん、クノイには構わなくて結構です。こちら買取の明細になります」
どこぞのベテランが吐きそうなセリフを残したクノイは、冒険者と受付嬢のやり取りが一段落した所で、トコトコとカウンターの隅に移動した。
そして膝を抱え、徐にプルプル震えだす。
「私が何かやらかしたみたいに見えるからそこで震えるのはやめて貰えませんか」
「悪いなアネさん。スライムは何するでもなく、プルプルしちゃうもんなのさ…」
「嘘付きなさい、震えない時の方が長いでしょう。それからアネさんじゃなくてアネッサです」
「そうか、そんな時代もあったかも知れねえな」
「いいからアナタは箱に入って静かにしてなさい」
「オレも仕事なんで、聞くわけにゃ行かねーな」
「次の方お待たせしましたーっ!」
●
オレの名前はクノイ。
種族は亜種のスライムで、クノイと言う名前はギルドが付けてくれたもんだ。
しばらく前からギルドの片隅で御厄介になっている列記とした魔物である。
今はカウンターの置物でしかないが、その内ギルドのカウンターをオレが独占してやろうと考え、受付嬢の仕事を見て盗み。
ついでに、冒険者の相手をしたりしている。
まだ、古株にはあまり相手にされないが、パーティーを組んでいない若い冒険者に話しかけてやると、偶に飴玉や菓子を貢いだりしていくから、大事にしてやるものなのさ。
大分馴染んできたが、ギルドカウンターの上に居ると偶に森に帰りたくなるね。
オレも少し前までは野生でプルプルしてたんだが、ある日川沿いで何も考えずにプルプルしてたんだが、いつのまにか近づいてきていた冒険者に捕獲されてギルドまで運ばれちまってたのさ。
結構波乱な生き様だろ?
それ以前で覚えてる事と言やあ。
不自然な水の塊。そうとしか形容できないモノが遠ざかっていくのが見えたのが最初だったか。
ファンタジー的に言えば半円形のあれはスライム一択何だが、今考えてもあのサイズはちょっとおかしい気がするな。
周りに生えた木々より高く高さの倍は有りそうな横幅さ。その質量ときたらちょっと大きな池とかくらいはありそうなのだが、進行方向に生えた木々は枝葉も揺らす事なくスライムの中を通り抜けていた。
因みに、オレはそこらに生えた草花より小さかったからな。
子人にでもなってしまったのかと思ったが、手足所か体全体が水か何かのように透き通っているし、人型ではあるが少々デフォルメがキツいせいで歩きにくい。少なくとも、水の精霊とかみたいな上等な存在ではなさそうだ。全体的なプルプル感はあるし骨がないから関節も自在なので、今後は骨折する事はなさそうだったけどよ。今からどうしたらいいのか悩んだもんさ。
そん時には、あのスライムもどこかに行ってしまい見渡せる範囲は豊かすぎる自然だけしかなかったからな。
生みの親は育児放棄したあげくに森の中に置き去りにしていきやがったからな孤独に孤児からスタートだぜ。
生まれて数日しか経っていない時には、ハッキリと言わせて貰いたかったぜ。
やることがなさすぎて、もはや意識があるのが苦痛でしかなかったのさ。
クラゲより透き通ってるおかげで、瞼を閉じても視界が濁るだけ。見える物は全く変わらないないし瞼の意味があまりないんだコレが。
それでも暗くなれば、眠れんじゃねぇかと思うだろ?残念、夜目もきくのか夜も明るいくらいさ。
枯れ葉を集めて、中に潜り込んでもハッキリくっきり周りが見える。
つまり、見えているのは目による視覚ではなくソナーとか感覚器官で見えているように感じているだけかも知れねぇな。
土の中にいても砂粒までくっきり見える不具合発生よ。
また、思考や情報を頭で処理しているつもりだが、脳とわかる部分がないから眠って脳を休ませる睡眠の必要がないという事なのだろう。
生まれた時から不眠症って訳だな。
食事は足の裏から吸い上げているようだし、排泄の必要はない上に、スライムは眠る必要もないらしい。
今の所性欲もない。
更に敵となりそうな生き物すら現れない。
付け加えるなら、異世界日本とこの世界の人の知識があるのが煩わしく思えるくらいに森では何もなかった。
ファンタジー世界ではあるが、ゲーム的なステータスが見えないのは悔しかったぜ。
冒険者になれば手段はあるみたいだけど、魔物だからな冒険者に刈られる側なので人里には降りられなかったぜ。
あの親スライムくらいの大きさがあるならまだしも、今の手の平サイズの状態では逃げる事もままならないからな。よって、ただ養分を足から吸い上げているだけの日々が確定してしまった訳だ。
超ヒマ。
外敵居ないのは助かるけど、スライム襲う生き物って人以外はあまり聞かないしな。
通りすがりの熊や狼に立ち向かった所で、オレに見向きもしやがらねぇ。
エサにもならねぇってか上等だ。今に見てやがれとプルプル震えてたもんさ。
まぁ、プルプルしてるくらいしか出来なかった訳だが、今じゃ立派なギルドの置もn…いやさ、看板魔物よ。
おっと、看板娘はアネさんだからな間違えんなよ。
100才越えてるらしいが、女性に年を聞くのは野暮って奴だ。その辺りは分を弁えるくらいの知識はあるから安心してくれていい。
たまにギルド職員の隙をついて持ち出そうとする不届き者もいたりするから治安悪いんだろうな。
そんな荒れた時代だからこそ若造も知識が大事だろうと、ベテランの会話から盗み聞きした知識を伝えてやるのがオレの仕事さ。
大概煙たがって居なくなるけどな。
この仕事は信用が大事ってとこかね…。
似ても似つかぬ内容なり。
これじゃ影丞と被る?