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22.日課

「……もう朝か」


 まだ、太陽の光が差し込まず外は暗く、鳥も眠っているような時間帯。僕はいつもの時間に目が覚めた。一緒の部屋で僕の先輩となるレッグさんはまだ眠っているので、起こさないようにベッドから起き上がる。


 それから起きる時と同じように音を立てないように服を着替える。執事見習いとして頂いた服ではなくて、外で動きやすい服に。


 この時間帯はまだ侍女の皆さんも当番の人以外は眠っているため廊下ですれ違うような事は無い。兵士の人は見回りをしているからたまにすれ違うけど、今日は会う事は無かった。


 誰に会う事もなく屋敷の庭に出た僕は、ストレッチを始める。体を良くほぐさないと上手く動かせないからね。


 体をほぐして温めてからまずは体力づくりのため屋敷の周りを走る。1周500メートルぐらいのを10周ほど。


 それを走りきると、体があったまってくるのて、習った形を始める。これはメルティース侯爵家当主、レギオン・メルティース様に教えてもらっている戦い方の基礎になる。


 僕が屋敷に来てそろそろ2ヶ月になるけど、毎日のように鍛えてもらっている。それはもう途轍もなく激しく。


 レギオン様が外に衝撃が漏れない結界を作れるし、回復魔法もお手の物だから、遠慮や手加減っていうのが無い。毎日死ぬ寸前まで訓練をして、回復させられて、仕事に行くのが日課になっている。


 大体この形を始める時間帯には、侍女の朝番の方たちは目を覚まして仕事に向かう。庭で訓練している僕にいつも手を振ってくれるので、僕も頭を下げて朝の挨拶をする。


 執事見習いの僕はやる事はあるけど、始業時間が決まっているため、時間さえ守れば何をしていてもいいと言われている。奴隷なのに良いのか、と尋ねてみたら、他の奴隷たちも仕事以外の時間は案外自由なそうだ。


 この家は従業員として結構奴隷を雇っていたり、奴隷から解放された人がそのまま働いている人も多いのだ。しかも、ティルニール商会から買われた人が結構多かったりするから、僕に対しても家族のように優しいし。


 そんな風にしばらく1人で形をやっていると、屋敷の中で挨拶する声が聞こえてくる。あっ、これは来たかも。僕の予想は正しくて、屋敷の中からレギオン様が現れた。屋敷の中の声は、レギオン様に挨拶する声だった。ただ、いつもと違うのは


「ケイオス様?」


 レギオン様の右手にはぐったりとしたケイオス様が握られて引きづられていたのだ。


「やっているな、テル」


「おはようございます、レギオン様。それでその……」


「そろそろ僕が相手して無理矢理実力を上げるより、少し近しい者を相手にした方がいいと思ってね。連れて来た。ほら、起きろケイオス」


 レギオン様はそういうとケイオス様の頭を叩く。結構な勢いでバシンと。その一撃で目を覚ましたケイオス様。ふらふらと立ち上がる。


「いたたた……あれ? なんで俺外にいるんだ?」


「さっさと目を覚ませ」


「うわっ! 父上何を? あれ、テルもいる。なんでだ?」


 あれれ〜、とまだ眠っているのか、ふらふらと頭を揺らすケイオス様。この爽やかイケメンで少し天然が入ったこの人は、見た目で判断したらダメだ。


 はぁ、とため息を吐いたレギオン様がケイオス様に剣を持たせると


「はっはっ! オヤジ! 今から戦おうぜ!」


 と、いう感じに人が変わる。もう、全くの別人と言っても良いほどに。さっきまでの緩い感じはもう無い。


「お前の相手はテルだ」


「あん? おっ、テルじゃねえか。よろしく頼むぜ!」


 ケイオス様はさっきまでの緩い表情じゃなくて、剣士としての鋭い目つきで僕を睨んでくる。僕は冷や汗を流しながらも構える。


 どこまで行けるかわからないけど、ケイオス様の胸を借りよう。


 ◇◇◇


「騎士王国は?」


「はっ、やはり、七侯爵家が持つ鍵をどうにかせねば、騎士王に封印された我らが主を蘇らせる事ができないでしょう」


「……仕方ない。我々はそう長い時間空間は超えられないが、私が行こう。我が獄炎で焼き尽くしてくれる」

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