頭ぶっ壊し計画
私は目の前の少年を睨みつけた。
飯田狩虎……視察をしていたタンスクルセイドの同胞によると、彼は曲者だらけのチーム問題児のリーダーで、その上騎士程度の階級という極めて異質の経歴を持つもののようだ。その異常性を危惧して、私はゲームが始まる前から彼を危険視していたわけだが………こいつのヤバさが浮き彫りになってきたな。
私は山札のカードを狩虎、私にへと交互に配っていく。
5……3……2(*1)……13……2!!
そして配ったあとに私は自分の手札を裏返した。
5……3……1(*1)……13……2!!やはり数字が一個ずれている!!
私の魔力は物質転移。簡単に言えばワープだ。ものを動かすことしかできない。ただ、触ったものを登録することで、そいつがどこにいようと手に取るようにわかるし、自由に移動することができる。その性質によってどのカードがどの数字なのかを表を見ることなく理解することができる。
そもそもこの空間もこの魔力の応用だ。といっても魔法を利用しているのだがね。[条件を与える魔力]それも相当に高位のものを。習得するのに20年かかってしまったが………それにしたってお釣りが来るぐらいに良い能力だ。私は公開していない。
「………一枚捨てようかな、おじさんは。」
私は疑心を押し殺し、笑顔で山札からカードを引いた。
狩虎の手札は3、4、1(13)、1(○1)、1(×1)。スリーカードだ。捨てるのは2枚か1枚のはず………
「そうですねぇ……それじゃあ俺は3枚捨てちゃおうかなー?」
そう言うと狩虎はカードを3枚捨てた!
ぐぬぬぅう!!やはりカードの把握が出来なくなっているのか私は!?……いや、落ち着け!!冷静になるんだ!!まずは相手が捨てるカードと引くカードを把握するんだ!!
狩虎が捨てたカードは1(○1)と4と3。引いたカードは1(1)と8と13(10)!また1のスリーカードだ!!てかこの場に1が5枚以上あるぞ!?いったいどういうことだ!!
[この時の狩虎の手札は、8、1(¥1)、1(13)、13(10)、1(×1)][墓地は1(○1)と4と3]
「うーん……ちょっと弱いかなー。それじゃあ3個チェンジで。」
なんだって!?お前、1のスリーカードが……くそ!!
ガチャン……ガチャンと音をたてて狩虎は1(13)と1(×1)と8のカードを伏せ、山札から2と10(2)と2のカードをひいた。つまり手札は1(¥1)、13(10)、2、10(2)、2!ただのワンペアーだ!!
[この時の狩虎の手札は13(10)、1(1¥)、2、10(2)、2][墓地は1(○1)、4、3、1(13)、1(×1)、8]
つまり私は11以上のワンペアもしくはツーペアを叩き出せば勝ちなわけだ!!
私は13以外の全てを捨てて、山札からカードをひいた。ひいたカードは7、12、12、9!12のワンペア!今回は誤差なく完璧に数字を当てられたぞ!
「………それじゃあ勝負しようか狩虎くん。」
本当は保険をかけて、もっと良いペアを狙いに行きたいのだが、数字を完璧に当てられなくなった今、無理をしてより混乱するのは得策じゃない。そう判断した私はこのまま勝負に出た。
「そうしましょうか、田村さん。」
ガチャガチャン!!
一斉にカードを提示した!!
………2と10のツーペア!?
「おい!!お前いったい何をしたんだ!!」
「さぁ?何もしてないですよ。」
私はこいつに掴みかかろうとしたが、この部屋は暴力禁止だ。それは私にも当てはまる。つまりそんなことしても無意味だからやめた。
ガチャガチャガチャ!!!
私は墓地にあるカードと2人の手札のカードに目を向けた。そ、そういえばさっき1が5枚出てきていた!!これは紛れもない不正行為だ!!ここからトラックを見破って…………
………ない。
ガチャガチャ!!!
ないないないない!!
1が4枚しかない!!
私は山札をひっくり返して全てのカードの枚数を確認した。
………1〜13までのカード全てが4枚ずつあるだと?………何も、カードには変化がない?
………覚え間違い?いや、あり得ない!!これは覚えるとか覚えないの問題じゃない、魔力のせいで私はカードの数字が分かるのだ!!それなのに間違えているということは…………
私は狩虎を睨みつけた。
………こいつは手段は分からないが、何かしらの方法でカードを交換しているんだ。いや、交換なんてそんな言葉じゃ生温い。カードをこの場で作り直して差し替えているんだ。………熱か?確かに金属になら熱で簡単に模様がつけられる………いや、でも、それを私にバレることなくすることは出来ない!!もし熱することができたとしても、急激に冷ます時に蒸気が出るはずだ!!それは必ず目立つ!!どんなに頑張ってもその蒸気だけは隠しようがないのだ!!
………まてよ?そういえばこいつは「[普通]は触ることができない」とかよく分からないことを言っていたな……まさか、可能なのか?………いや、あり得ない!そんなのは絶対にあり得ない!!それにもしそれが可能だとして、なぜわざわざそれをほのめかすようなことを言うんだ!!これはトラップだ!!熱による印字という考え方そのものがトラップだ!!
「あ、幸恵さん、もう俺のそばから離れてくれても良いですよ。良い感じにあの人が混乱してくれたので。」
そういうと狩虎は、幸恵というガンマンコスの女をそばから離した。
………まさかこの女が!?いや、あり得ない!!こいつの魔力はクレイスを弾丸のように飛ばすことだ!!私に撃ってきたからそれは把握済み!!………それにこんな場所でわざわざ[貴方のおかげでなんとかなった。]みたいなことは普通は言わない!!そんなの、罠だと私に言っているようなものだ!!そう、つまり、この発言も罠だ!!
「あ、そうそう、森脇さん。どうですかさっきの紙のやつ。順調に進めてくれました?」
「進めてないわけがないじゃないですか。他人の命がかかっているんですからね。」
狩虎は今度は後ろを振り返り、探偵コスをした姫子とやらに話しかけた。
………お前か!?お前なのか!?…………いや、あり得ない!!そんなのは絶対にあり得ない!!あいつの魔力は自分の力を譲渡するものだ!!つまりこの発言も罠だ!!
「そういえばワープの魔法って便利ですよねー。黒垓君のあの魔力、分けて欲しいですよ。」
これも絶対にあり得ない!!これも罠だ!!
「ちなみに染島さんのテレパシーも便利ですよねー。きっと今の俺達の思考は彼女からすればダダ漏れですよ。」
これも絶対にありえない!!これも罠だ!!
「そうそう!最近駅前に複合型のカードショップが出来たんですよ!!いやーー遼鋭と一緒に行きたいな………」
これも!!!そう、これも!!!全部!!!罠だ!!!!
ダン!!!
私は思いっきり机を叩いて狩虎の顔に迫った!!!
「どうやってカードを入れ替えた!!!!」
「………頭の使いすぎで脳が蕩けちゃったのかな?落ち着きましょうよ田所さん。」
狩虎は私に座るように催促してきた。だけれど私は、それが癪だったので立ち続けた。
「さっきから何度も言ってるじゃーないですかー。俺は何もしてないですよ?」
「それじゃあつまりはなんだ!?あのガンマン女か探偵女がやったとでもいうのか!?いや、そんなはずはない!!こんな場所で堂々と作戦を語るバカなどいないからだ!!お前の発言は全て罠だ!!」
「つってもねーー。カードに何か細工がされているわけでもないですからね、俺を疑うってのもおかしいことじゃありません?」
ぽん
狩虎は私の肩を優しく叩いた。
「ゲームなんですから楽しみましょ?頭なんて使わずにさ。」
………くっっっっそぉおおお!!!
私は勢い良く椅子に座ると、カードを全力でシャッフルした。合計数十キログラムあるこの山札を、腕がミチミチ悲鳴をあげるぐらいの速さでシャッフルした。そして、勢い良くカードを配った!!
気に入らなかった。私が20年以上かけて編み出した必勝法が、こんなよく分からないガキの手によって看破され、しかも、そのトリックが見破れないことに!!絶対に見破ってやる!!
相手の手札は3、4、7、6、9!完璧なブタだ!![彼の考え通り完璧にブタ]
「………そうそう、おまじないと言っちゃなんですが、こんな[魔法の言葉]を知っているんですよ。先生から教わった言葉なんですが………これが結構面白い言葉でね、他人に教えてしまいたくなるんですよ。」
こいつの言葉は嘘だ!!無視して、もっと別のことを考えなくては!!さっきは10が2になっていた!!そして1が………がぁああ!!!分からん!!!
「[いろはにほへとちりぬるを]ってやつでしてね、情緒がありますよねぇ本当。」
騙されるな!!こいつの言葉は罠だ!!私の手札は3、3、10、11、6!!!さっき私はロイヤルストレートフラッシュを邪魔された!!!つまりそれは避けてフォーカードを狙えばいいのだ!!!
「あ、そういえば、実は俺、あなたの魔力がなんなのか知ってたんですよ。結構魔法について知ってましたからね。なのでちょっとカードに細工させてもらいました。いや、もう、ほんのちょっとですよ?」
五月蝿い黙れ!!私を騙そうとするな!!
つまり私は10、11、6を捨てて3を魔力で回収すればいいのだ!!
私はカードを投げ捨て、山札からカードを引いた。
ガチャガチャ
その時、山札から金属が擦れる音が響いたが、構うものか!!私は勝つ!!ただそれだけだ!!
「んで、貴方の目的も知っていました。ていうかカースクルセイドにこの部隊がこの方角から来るっていう情報をリークしたのは俺です。後輩にね、わざわざ頼んだんですよ。」
「五月蝿い黙れ!!お前の戯言なんて聞く気はないぞ!!」
引いたカードは3が2枚と7が1枚!!完璧だ!!これなら絶対に勝てる!!
「そうそう、こんな与太話を耳にしたんですよ。どうやら勇者側の三方向の部隊を奇襲したと思っていたカースクルセイドの皆様が、逆に、イリナと黒垓君とグレンに奇襲を受けて散り散りになったとか…………」
ピシャァアアンンン!!!
大きな雷がここ周辺を覆った。
「うるさい!!!さぁ勝負だ!!!私と勝負しろ!!!」
「お、いいですよ。」
来た!!こいつのカードはブタだ!!私のフォーカードに勝てるわけが………
ガチャン………
狩虎の手から10のカードが一枚落ちた。
ガチャン………
次に11のカードが落ちた。
ガチャン………
次に12
ガチャン………
13………
ガチャン………
そして……………
「う、う……っ嘘だ!!あり得ない!!こんな、だって、お前のカードにはそんな役は………ロイヤルストレートフラッシュなんて!!!」
「いやいや、それがあるんですよ。………まっ、楽しめよ。な?所詮ゲームなんだから状況なんて気にせずによ。それがお前のモットーだろ?」
ドズン!!!
田村さんは顔面から勢い良く地面に倒れた。頭の使いすぎか、はたまたショックゆえか………きっと両方だろうなぁ。
俺は魔法で指から赤色のインクを生み出し、テーブルの上に置かれていたカードにばつ印を描いてその場に投げ捨てた。