よし、俺はやりおるぞっ!
瞬時にわかる前回まで。
フロストドラゴンを倒して素材ゲットっ!
ドラゴン相手に圧倒したロゼ先輩。彼女は一体・・・・・・。
「しかし、ロゼ先輩って何者なんですか。竜を圧倒していましたけど・・・・・・」
一見ただの美人で清楚で気品がある女子高生にしか見えない。背も高くてスタイルもいいモデル体型、すなわち線は細く、その腕にあれだけのパワーを生み出すものは見当たらない。
「普通の人間よ。ススやウスト君と一緒の」
「いやいや、俺には竜を抑えこんだりできませんよ!」
「それはね・・・・・・スス、もういいかしら?」
ロゼ先輩はスス部長の顔を伺う。すると部長は頷いた。
「ふふりん、仕方がない、テストも合格したし種明かしをするか」
「種明かし?」
俺が首を傾げると、二人は悪戯っぽく口元を緩ました。
「まず、今、ウスト君は寒いか?」
「え、まぁ、ちょっと寒いかなって感じですかね・・・・・・」
「ほう。この極寒の地で? ちょっと寒いだと?」
「え、え、そういえばみんな制服だけですよね。この雪山で、あれ、なんで?」
寒いという感覚は多少あったけど、ここまで誰もそれを口にしていない。膝まで雪で埋まるこの銀世界でさらに視界を遮るほどの吹雪の中でだ。十キロ程走り回ったから体が温まったのか。そもそも足場が最悪なこの状況でそれだけ走って俺はなぜ疲れていない。
「ふふふ、それはね私達が人間だからよ」
「いや、それはわかってますって」
さっきからどうも的を得ない。会話が咬み合わない。
「うんとね、さっきの集落に住んでいた者達は人間ではないの。見た目はほとんど変わらないんだけどチトっていう種族なのよ」
「え、人?」
「違う違う、チトよ」
人ではなくチトだと・・・・・・。チトってなんですか。俺が見た村人はどうみても人間の容姿だった。それが俺達とどう違うというのか。
「チトっていうのは、私達と見た目はほとんど変わらないけど、種族が違う。こっちの世界では下位の存在だ」
「見た感じ全く同じに見えますけど・・・・・・」
「見た目はな。だが中身は似て非なるものだ。私達人間はこのよくわからない場所ではかなりの上位種族なのだよ」
「上位種族?」
スス部長はそういうが、それなら別に俺達のいる世界でもそうだろう。そりゃあ生身で野生の動物には勝てないけど、それを補う知能がある。むしろあの星でトップと言ってもいい。
「あ、お前今、別に元の世界でも上位だろ、むしろトップだろ。とか思っただろ!?」
「え、いや、その・・・・・・」
ずばり胸の内をつかれ動揺する。この部長、勘が鋭い。
「思い上がるなよ人間風情がっ! お前なんて犬にも勝てんだろうがっ!」
「いや、勝てますよ。棒とか使えば・・・・・・」
「丸腰相手に武器使うなよ! 男なら素手でいけよっ! お前なんて素手だったら猫にも勝てないだろうがっ!」
「いや、いくらなんでも猫には勝てますよ!」
「あんだとぅ! じゃあヒョウや虎やピューマやライオンやジャガー連れてくるからな、戦って勝ってみせろよっ!」
「それ猫じゃなくてネコ科でしょっ!?」
この部長、無茶苦茶だ。むしろその錚錚たる面々を連れてこられるならやってもらいたい。「はいはい、脱線してるわよ。今はこの世界での人間とは? って話でしょ」
ここで堪らずロゼ先輩が間に割り込んだ。俺ももう少しで、じゃあそのネコ科オールスターズを俺の前に用意して下さいよ、と一休さん張りに言いそうになっていた。
「ぐっ、そうだったな。つまりだ、簡単に言えば、この世界では人間はやりおるよって事だ」
「なんですか、やりおるよって。説明になってませんよ」
この部長の説明は極端すぎる。ややこしいか、単純かの二択かよ。
「うんとね、ススが言いたいのは、身体能力の部分でも他の種族を凌駕するって事なの。さっきの竜族、他にも幻獣や妖精、さらには天使や魔族なんかよりも私達人間はここでは上なのよ」
ロゼ先輩の補足で初めて理解できた。俺達の世界では、存在自体していないが人間よりも上位と考えられている種族、それはここでは現存しているけど、下位の存在で・・・・・・つまり人間はやりおるって事だ。
「人間より上ってのは神クラスか魔王クラスだけだと思うわ。それでね、最初に私とウスト君が遭遇しちゃったのが魔王クラスだったのよ。あれに対抗するには私達でもかなりの装備がないと難しいわね」
「あ、あれ魔王だったんですね・・・・・・」
そりゃあ気も失うのも道理だ。そもそも最上ランク、錬金術師の最終目標と言っても過言ではない賢者の石の材料なのだから一筋縄ではいかないか。
「だがな、いずれはまた戦わなくてはならん相手だ。そのためにも一刻も早く、武器を強化しなきゃだな」
「できればもう二度と会いたくないですけど・・・・・・」
「さぁ、そう考えるとモタモタしてられんぞ、さっさと次いくぞ! 種族うんぬんは次の世界で実戦すればいやでも実感できるはずだ」
俺の意見は聞き流し、スス部長の気持ちはもうすでに次へと向いていた。だけど気にしない、もしスス部長やロゼ先輩の話が真実だってのなら、か弱い乙女であるロゼ先輩よりも俺の方がまだ力は強いはず。
強靱なモンスターをも圧倒できるというなら、ぜひやってみたい。それこそ憧れだ、物語の主人公、ゲームの勇者に俺はなれるって事だ。スス部長はともかくロゼ先輩はこんな嘘をつくとは思えないし、思いたくない。今度はありったけの勇気を振り絞って敵に向かっていってやる。
一度部室を経由して、再びえい、えい、と錬金開始。
ロゼ先輩のロングソードを無事アイスソードへと属性追加。剣自体のランクも上がりデザインも氷のような透き通る刀身がかっこいい。もう初期装備っぽい安っぽさは薄れていたし炎属性の敵にはかなり有効だろう。
それでもやっぱりレジェンド級に比べればまだまだだと思う。やはり高ランクの素材を得るためにも地道にこうやって強化していくしかない。
そして次は俺の剣に炎属性をつける番。そのため手を繋いで向かった先は灼熱の世界であった。
「うん、やっぱりそんなに暑くないですねぇ」
本来温度差が何十度とあるであろう先ほどの世界と今回の世界、それなのに俺の衣装は変わらない。黒い制服はブレザーまでしっかり着込んでいる。それでも汗一つ滲み出ていない。
「チトだったら数分持たずに倒れてるだろうな。私達だからこうして普通にしてられるが・・・・・・」
岸壁だらけで草一本生えていない。溶岩が川のように流れ込み、大気が陽炎で揺らめいている、まるで夕焼けを見ているような世界だ。俺達が今いる場所はそんな過酷な環境下。それでも影響を受けずにいられるのはやはり最上級の種族特権なのか。
「さて、私の予想ではこの後すぐにモンスターが襲ってくるだろう。ウスト君はそれを素手で千切っては投げ、千切っては投げてギタギタのメタメタにするのだ! 出来るだけ優しく怪我させないようにだぞっ!」
「優しく怪我させないように、千切っては投げてギタギタのメタメタにしろと?!」
どうやるんだよ。どんなガキ大将でも無理でしょ。
「こう、ふんわりタッチで千切る感じで!」
スス部長はゆっくりとした動作でジェスチャーしてくれたが、結局千切るのかよ。
「来たっ! モンスターよっ!」
俺がやんわり引き裂く方法を試行錯誤し始めたら、マグマの中から一斉に黒い影が飛び出してきた。
「ウスト君、私達は手を出さないからな、言ったことは守れよ! 剣は使うな。優しくなぎ払え!」
それだけを言うと二人はさっと後ろへと距離をとった。残された俺が対峙したのは五匹の半魚人。この環境に適応した赤い鱗を全身に纏う特異種レッドギルマン。体型こそ俺とさほど変わらないが、水棲で、さらにマグマを自在に泳ぐ肉体は強靱だろう。しかも相手は五匹、小学生五人でも負けそうな俺が本当にいけるのか。心臓がどんどん高鳴ってゆく。
「一つ忠告だ! 溶岩に引きずり込まれるなよ! 相手の土俵だし、熱湯風呂くらいのア・チ・ア・チ・アドベンチャーだっ!」
スス部長が大声で警告してくれたが、むしろ熱湯風呂くらいで済むのかよ。骨まで溶けそうですけど!
「ギョギョギョギョギョッー!」
俺はまだ心の準備も終えていないというのに、半漁人達はそんなのお構いなしと、わかりやすい叫び声を上げながら一斉に襲いかかってきた。
「ひょひょひょえーーーーっ! や、やっぱ無理ぃぃぃ!」
俺はアルマジロのように丸まりその場に蹲った。防御力は増えてはいない。だがこれから五匹の半漁人達にボコボコにされる。そんな恐怖から消極的な方法をとってしまった。
相手の喚き声が三百六十度立体的なサウンドで俺の耳元に届く。されどいつまでたっても攻撃が来ない。こいつらバイクに乗る不良のように俺の周りをグルグル回ってるだけなのか。疑問に思い瞼を広げ顔を少しあげてみた。
「あ、あれ?」
するとどうだろう。この特殊ギルマン共はちゃんと俺を攻撃していた。代わる代わる俺の総身に拳を打ち付けている。手を抜いている様子はない、全員全力全開で俺を襲撃している。しかし、俺に痛みは皆無。これは一体・・・・・・。
「単純な事だ、人としての防御力が半漁人共の攻撃力を上回っているのだ。試しにちょっと押してみろ」
スス部長が俺の疑問を知ってか知らずか後方からそう伝えてくれた。それでも実感は湧かない。とりあえず言われたとおりに目の前にいた一匹のギルマンを軽く突き飛ばしてみた。 ぬめっとした感触の後、眼前の化け物が消えた
「え?」
遙か後方のマグマが飛沫を上げる。今ここにいた魚人が飛び込んだためだとは思わなかった。残りのギルマンの動きも俺同様に停止する。お互い目の前でなにが起きたのか認識できないでいた。
「ほらほら、残りも一気にいけ! ソフトタッチでな!」
スス部長の声のおかげで奴らより早く我を取り戻せた。ゆっくりとしたモーションでなぞるように他の四匹に拳を打ち付けてゆく。すると魚人間達は激しく反発されたように四方へと散っていった。
「うおっ!」
なんだ、俺は言われた通り柔らかく撫でた程度だぞ。それなのに敵は大げさに吹っ飛んでいった。
「いくらなんでもこれでわかっただろう。この世界における私達人間という存在を」
遠巻きに見守っていた二人が俺に近づく。
「お、俺つえぇぇ!」
二人を無視して興奮するのも無理はない。ネコにも負けると言われた俺があんな化け物共を圧倒した。それも話にならないほどに。やはりこの世界で俺は小説やゲームのような英雄になれるという事なのか。
「本気で殴ってしまうと跡形なく粉砕してしまうからな。加減を知る意味でも目標までウストくんが道を切り開いてくれ」
「わかりました!」
うってかわって俺は肩をそびやかしながら先頭をきった。自信に満ち恐怖など微塵もない。だって俺は人間なのだから。天使や悪魔以上の上級種族。何人たりとも俺達の道を遮ることはできない。さぁ、どんどん向かってこい、モンスター共め。