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スス部長の錬金部  作者: 琴宮類
6/10

よし、素材を集めよう!

 瞬時にわかる前回まで。


 なんか錬金で物をつくるには、別の世界で素材をとってこなきゃならないみたい。で、今でも半信半疑の自分のためにスス部長が錬金術を見せてくれるとの事。それの材料を学園内で集めることに。

二十分後、三人は各々鉄っぽい物を持ち寄った。


「大量だじぇ!」

「それなりには集まったわね」

「う~ん」


 スス先輩は鉄っていうか色んな金属を持ってきた感じだ。主にスチールの空き缶ばかり。むしろこれは鋼。よくわからんが、材料とすれば鉄よりいいかも。


 ロゼ先輩は陸上部の金属製の土均しや、調理部の包丁やフライパンなど。

 俺はいうと純粋な鉄など見つからなかったので自前のステンレス定規を差し出した。


「はぁぁ。これがやる気の現れか・・・・・・」


 スス先輩が俺の方を見て溜息まじりにそう呟いた。


「しょうが無いわよ・・・・・・スス、ウスト君も今日来たばかりだし」


 ロゼ先輩の方も、言葉では庇ってくれてはいるが、落胆の色は隠しきれていない。


「ちょっ、ちょっと待って下さいよ! 俺もちゃんと探しましたよっ! でも鉄なんてそうそうないし、スス先輩のだって厳密には鉄じゃないですよ! ロゼ先輩のもそれ、学校の備品じゃないですか、駄目でしょ!?」


 嘘はついてない、俺はちゃんと探した。でも学内限定だと学園の所有物を抜かすとほとんど選択肢はない。空き缶は盲点だったけど、ロゼ先輩のはどう考えてもアウトだ。そもそも俺はこの学園に入って初日ですよ。


「スチールってのは鉄をさらに鍛えた鋼の一種だろ? ならいいじゃないか。ロゼっちのだって後でもっと良い物買って返せばいいじゃない」


「そういう事なの、ススってこう見えて超がつくほどお嬢様なのよ。ていうかススのお父様がここの理事長でもいらっしゃるわ。そもそも錬金術はお金がないとできない分野でしょ? その点、うちにはススがいるお陰で予算に、その他必要経費などは全く心配しなくていいわ」


「ふん、私はいくら親が理事長をしてるっていっても本当は入りたくなかったがな。それでも君が入学して来るかもしれないから共学のこの学園に我慢して入ったのだ」


「お嬢様~? この部長が?」


 俺は目が点になりながらもスス先輩を改めて見た。魔女を意識しているのか変なトンガリ帽子を被り、制服の上には小さな体をすっぽり覆う黒い外套を纏い、口も目つきも悪いというこのスス部長がお嬢様?


「な・ん・か・問題でも!?」


 通常でも鋭い眼光が、さらに先端を細めて俺に突き刺さる。声のトーンも下がりその威圧感はさながらさっきの魔王に匹敵する。


「つ、つゆほどありません! 道理でスス部長からは高貴なオーラを感じていたと納得していた次第であります!」


 ごめんなさい、今度は嘘つきました。カテゴリー分けをするなら、ロゼ先輩の方が格段にお嬢様っぽい。スス部長は変人のフォルダにぶち込むところだ。でもこの圧力には逆らえない。


「うむ、そうだろう、そうだろう。どんなに抑えたところでこの内なる高潔な風格は滲み出てしまうものだ」


 危ない危ない、でもこの部長は扱いやすいぞ。すっごく踏ん反り返って鼻高々だ。

この傲慢さは悪い意味で確かにお嬢様っぽい。


「さぁさぁ、それでも剣を作るには十分集まったし、ここからはススの真骨頂よ。頑張って!」

「ん、そうだな。いよいよ私の出番か。いっちょやったりますか!」


 うん、ロゼ先輩は部長とは付き合いが長そうなだけあって完全に調教が済んでいる。


「そもそもどうやって錬成するんですか?」


「んあぁ? そんなの簡単だよ。こうやるの」


 スス部長は先程集めた鉄っぽい物をポンポンと例のバスタブに投げ込んでいく。


「そんで、液体を注ぐ。これはまぁただの水でもいいんだけど、雰囲気のために紫の絵の具で色をつけたものを入れる」


 そういうと奥に置いてあった赤い石油タンクからジャブリジャブリと液体を張ってゆく。


「そんでもって、後は山で拾ってきたそれっぽい木の棒でかき混ぜる。念を込めるようにじっくりとだ」


 スス部長の背丈を超える細長い棒でグルグルというよりガチャリガチャリと水の中で振り回している。


「・・・・・・・・・・・・」


 ここまで黙って見てきた。しかし、これで剣ができるとはとても思えない。やっぱりこの部は偽物だったのではないか。魔王の遭遇だって実は思春期ならではの幻想を限りなく現実に近づけただけの俺の妄想だったんだ。


「えい! えい!」


 俺が冷ややかな視線を送って見ていると、スス部長が声を出し始めた。


「やぁ! やぁ!」


 悪ふざけでやっているように見えて、本人の顔はいたって真面目だ。額には汗が滲んでいる。


「えい! えい!」


 うわ、今度はロゼ先輩も掛け声をかけてきた。ロゼ先輩の方を見ると腕を上下にかざしながらニコリと微笑んだ。これは俺もやれって事でしょうか。


「うぅ、ぇぃ! ぇぃ!」


 羞恥心に悶えながらも手を上げ続いてみる。うぅ、もう帰りたい。


「ウスト君! 声が小さいわよ! もっとお腹から声を出してっ! はい、えい! えい!」


「うひ~、えい! えい! えいぃぃ!」


「えい! えい! えい!」

「えい! えい! えい!」


 これなんの罰ゲームですか。この狭い部室に三人の声が共鳴する。はたから見たらおかしな集団にしか見えない。    

 

「ん? んん? わわっ!」


 そんな奇妙な行動を起こしていると、風呂釜の中が眩く光りだす。


「きた、きた、きよった!」


 スス部長が興奮ぎみに声を上げた。それに伴いスス部長自体も輝きを放つ。


「おおお」


 とても幻想的な光景だった。

光の中で必死に棒をかき回すその姿。不覚にも綺麗だと思ってしまった。


「ふふふ、これが技を受け継ぎし者、掌握原子、原家ススの力よ。私、最初これを見た時は我を忘れて見惚れてしまった。ウスト君はどうかしら?」


 この時、俺にはロゼ先輩の声は届いていなかった。一瞬たりとも、そう瞬きさえも惜しく感じるほど見逃したくない。それほどに美しい場景を俺は息をするのも忘れただただ見入っていた。


「ふふ、ウスト君も同じみたいね」


 煌めきは増してゆく。部屋中が真っ白に染まる。そして膨張し限界を迎えた光はその瞬間一気に部室の中に放たれた。


「うがっ」


 強烈な閃光が目を襲う。それは収まった後に目を開いてもまだ景色が白だけを映させるほどだった。しばらくして目が通常まで戻る頃にはすべてが完了していた。


「う、ううん・・・・・・ん? んんん? おおお、け、剣。まじで出来てる・・・・・・」


 風呂桶にはすでに液体はなく、二本の剣だけが横たわっていた。


「よし、成功だ!」

「おめでとう、スス。失敗しなくて良かったわ」


 二人はこれが初めての錬成ではないのだろう、それほど驚いてはいない。でも初見の俺はというと。


「す、すごいっ! すごいですよっ! スス部長! ただの変人じゃなかったんですねっ!」


 興奮していた。

本当にこの部長、俺の前で錬成して見せた。

これはもう信じるしかない。スス部長、ロゼ先輩、そして俺は偉大なる錬金術師の能力を受け継いだ選ばれし者なのだ。


「変人って私の事かぁ! まったく、これで私の凄さを思い知っただろう。尊敬するがよいぞ」

「ふふふ、ススが凄いってちゃんとわかって貰えたわよ。もちろん私はいつも思っているわ」

「ふふ~り、ふふふ~り♪」


 スス部長は上機嫌だ。しかし確かにこれは認めざるを得ないだろう。錬金術にとって一番の見せ場はやはりスス部長のポジションだ。悔しいが感動している。


「いやはや、これは謝らないとですね。いままで本当にすいませんでした。スス部長をただの口と目つきと性格が悪い、変なカッコした小さい女の子としか思っていませんでした。これからは口と目つきと性格が悪くて、変なカッコをした錬金術ができる小さい女の子って認識し直します」


 俺は深々をスス部長に頭を下げる。真摯な気持ちで嘘偽りはない。そんな俺の後頭部に棒が突き刺さった。


「いでぇ! ちょっと何するんですか!?」


「いっぺん死んでみるしかなさそうだな君は! 誰が口と目つきと性格が悪くて、変なカッコした小さな美少女だ! これでも脱いだら凄いんだからな!」


「ちょっと良くなってる! 美はつきませんよ!」


「なんだと~! こいつぅぅ、色んな生物と一緒に煮込んでキメラにしたったる!」


 うお、スス部長が武道家のように棒を器用に回し始めた。こ、この部長、できる。


「こらこら、喧嘩しないの。これからこの剣に属性付けに行くんでしょ。時間がもったいないわ」


 俺がたじろいでいると、ロゼ先輩が間に入って仲裁してくれた。まじで殺気を感じたから本当に助かった。


「ちぇ、命拾いしたな少年。ここはロゼっちの顔を立てて刃を収めてやる、しかし私を卑しめた行為は万死に値する、許すかわりに罰を与える。いいか、明日から君は 〈今日もスス部長綺麗ですね、あ、背がちょっと伸びましたか? 肌も艷やかで瑞々しいですねぇ、なんか手入れとかしてるんですか? ええっ

!? 何もしてないっ!? うわぁ、やっぱ素材がいいから面倒な事しなくていいなんて羨ましいですわ~、あ、喉乾いた? はい、俺、ひとっ走りジュース買ってきます。ついでに何か甘いものも調達してきますね。あ、お代は結構です。もちろん俺の奢りっすよ~、へへへ、こんなゲスでカスで変態豚アザラシな俺でも、スス部長のために何かできるって事だけで救われる思いなんでやんすよ〉って毎日言ってもらうからな!」


 うわぁ、黙って聞いてりゃこれは酷い。そして長い。

 どっから突っ込めばいいものか。そう考えを纏めていると、ロゼ先輩がやれやれと口を開いた。

 よし、またこの非常識な部長をガツンと叱ってやってください。やんすなんて語尾使う奴そもそも現実にはいないし、変態豚アザラシもいない。


「はいはい、終わりだってば。もういい加減行くわよ。じゃあウスト君も悪いけれど今ススの言った事やってあげて。この子、なんだかんだで喜ぶと思うの」


 俺は予想外の言葉に耳が取れそうになった。


「え、ちょっと、それは・・・・・・ありえないっていうか、無理っていうか」


「駄目・・・・・・かな?」


 ここでロゼ先輩の超必殺技、〈上目でお願い〉が炸裂した。


「駄目じゃないでヤンス」


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