よし、武器を作ろう!
瞬時にわかる前回まで。
いつの間にかに、なんか変な場所に連れてこられた。そしたらエッライ化け物が出てきて、気を失いました。
気がついたら錬金部の部室だった。
ぼんやりと視界に入った古ぼけた風呂釜が俺にそう教えてくれた。
どの学校のどの室内でもバスタブがあるのは多分ここだけだ。
「おっ、気づいたか」
初めに耳に入ったのは、ちょっと低めの特徴のある声。
これはスス先輩だ、第一印象が強烈すぎて声と顔がすぐさま一致する。
「俺は一体・・・・・・」
頭に靄がかかっているみたいだ。相当の精神負荷が一気にかかり、崩壊寸前で意識をカットするという自己防衛が働いたのだろう。
よほど恐ろしい光景を目にしたという朧気な記憶があるだけでよく思い出せない。
「大丈夫?」
そういい心配そうに俺の顔を覗きこんできたロゼ先輩、その綺麗な眼差しが俺の目線と交差した時フラッシュバックのように先ほどの出来事が蘇ってきた。
「わぁぁぁっ!」
「きゃっ!」
思わず跳ね起き叫ぶ。
それに驚いてロゼ先輩が可愛い悲鳴を上げた。
「・・・・・・生きてる」
そうだ、化け物だ。しかも規格外の。あれを目の前にしておいて俺はなぜここにいる。
信じられずに自分の頬を両手で擦る。
ちゃんと感触はある。
もしかして本当はあの時死んでいて、今ここにいる俺は霊体かなにかなんじゃないかと思ってしまった。
「・・・・・・えっと、大丈夫?」
目は覚ましたものの息遣いも荒く虚ろな俺に、ロゼ先輩はもう一度気遣いの言葉をかけてくれた。
「・・・・・・あ、はい」
「そう、良かった」
少なくとも体は無事だ。どこにも痛みは感じない。一先ず落ち着こう。
「あ、あのロゼ先輩こそ・・・・・・その・・・・・・なんとも・・・・・・?」
「ん? あぁ、私? 私も平気よ。流石にあのレベルは初めてだったからちょっとびっくりしちゃったけど。この通りなんともないわ」
ロゼ先輩はにこやかに腕をグルグル回してそうアピールしてくれた。
「あれは、一体・・・・・・なんだった・・・・・・んです?」
「う~ん、多分魔王とか神獣クラスの獲物じゃないかな。数分交戦してみたけど、素手じゃ無理だったわ。結局ダメージも殆ど与えらなかったから、ウスト君を連れてさっさと逃げ帰ってきちゃった」
「え? 交戦?」
さらりと言い放ったロゼ先輩の言動を聞き流す事はできなかった。
「戦ったって事ですか? あの化け物と?」
ロゼ先輩は笑顔のまま頷いた。冗談をいうタイプとも思えない。このプリプリで艷やかな唇から嘘がでるわけがない。
「どうだ、びっくりしたろ? あそこが通称、よくわからない場所だ。とはいえ私達もそんなに行ったことはないのだけどな」
なぜか得意顔で俺とロゼ先輩の間に割り込んできた部長。
「そりゃびっくりしましたよっ! いきなりあんな化け物と遭遇しましたし・・・・・・、今でもあれは夢か何かだと思っています」
「うんうん、そうだろう、そうだろう。私も最初行ってモンスターに出会った時は、腰を抜かし放尿し、あぱぱぱぱぱぱぱぱ言ってたよ」
「俺は流石に漏らしまでしなかったなぁ。てか放尿て」
「大丈夫、今はゴブリン程度では取り乱さない強い心を持ち合わせた!」
「俺も最初はゴブリン程度でお願いしたかったな」
普通、ゲームなら最弱のゴブリンとかスライムとかでしょ。それなのに最初のエンカウントがラスボスって。無理ゲーすぎでしょ。
「私もちょっと驚いちゃった。これは私の想像だけど、ウスト君、もしかして頭で材料の事考えてなかった?」
「あ・・・・・・そういえば、土魔王の鋭角ってなんだよとか思っていたような・・・・・・」
「やっぱり。たぶんさっきのあのすごいのが土魔王ね。ボトムスナレッジの貴方が無意識にあの場所へと誘ったのよ」
「えぇっ!」
俺の思考が、ロゼ先輩の能力にリンクしたってことですか。でも確かにあの時一度も見たことのない黒い角のようなものが勝手に頭の中で浮かんだ。
「なるほど、ボトムスナレッジとシードピックが組み合わさるとそういう変則的な事象も起きるのか。二人の仲に嫉妬っ!」
「ふふ、その先がススの出番よ。私達は三人いないと駄目なんだからね」
本気ではないと思うが、スス部長は頬を膨らませムスッとした。それを慣れた感じで宥めるロゼ先輩。まだ知り合って間もないがこの二人の仲の良さを感じ取れる。
「そうですよ、スス部長がいったんじゃないですか。私達は三位一体だって! ジェットスクリームアタックだって! アテナエクスクラメーションだってっ!」
「いや、言ってない。ジェットなんたらもアテナなんたらも言ってない」
「・・・・・・あぁ、はい。そうですね、言ってませんね。すいませんでした」
こなくそっ! 俺も便乗してフォローしたってのにっ。
「しかし、あれだ。これで色々作成できるって事だな。まだ時間もあるし、今度は三人で行ってみてなんか作ってみようじぇっ!」
「もう、相変わらずススは思い立ったらなんたらね。・・・・・・でも、そうねぇ、今日は入学式だけだったからまだ余裕があるわね。ウスト君どうしよっか? 今度はさっきみたいな事にならないように気をつけるけど」
「え~と・・・・・・」
問われておもむろに制服のポケットから携帯を取り出す。
時間を確認、まだ午後二時ちょっと過ぎだった。どうやら気を失っていた時間はさほどではないらしい、あちらに行ってからそんなに経ってない。別にこの後用事もないし、大丈夫といえば大丈夫だ。
「じゃあ、そうですね、行きますか」
実の所もう二度行きたくはない。そりゃそうだ、あんな怖い思いしたのだし。でもなぜだろう、不思議となんとかなるような気がする。
ロゼ先輩も今度は気をつけるって言ってくれているし、なによりもそのロゼ先輩ともっと行動を共にしたい。
「よっしゃ~、行くなら目的がいるじぇっ! 何作ろうか!? 何作るべき!?」
「うふふ、ススったら張り切っちゃって。そうねぇ。やはり素手じゃ駄目ね。私達はあっちでは冒険者なのだから、こうカッコイイ武器が欲しいわ」
この部長、テンションいきなり急上昇だ。向かうロゼ先輩も嬉しそう。そうか、この二人は俺が来なければ何もできなかった錬金部の活動がやっとできるのだ。そう考えれば当然か。そういうオラもなんかワクワクしてきたぞ。
「剣!? いいね剣っ! いいよ、いいよ! 剣作っちゃおうよっ! エクスカリバーいっちゃおうっ!」
「はい、でた! でました、スス部長の基本すっ飛ばしでいきなり最強までもってく例の病気でました」
思わず高速突っ込みを出してしまった。エクスカリバーっていや超有名な武器じゃないか。ゲームやファンタジー、神話に詳しくなくても名前位は聞いたことあるくらいだ。
「もう折角ハイテンションな所に水をさすなよ~。このクズ」
「いや~、スス部長がまた無茶言ったので、つい。・・・・・・ってクズ?!」
「無茶だろうがなんだろうが、私の要求をこなしてこそプロってもんだろう。そこら辺ちゃんと理解してくれないと私とはやっていけないぞ~。このカス」
「そうは言いますけど、最初はブロードソードとかロングソードとかをですね・・・・・・ってカス?!」
「まぁ、最初って事もあるし、仕方ない。試しの意味でも簡単な物にしてもいい。ありがたく思えよ、このクズでカス」
「はいはい、すごいのはおいおいとして、それで行きましょう。・・・・・・って今度はクズでもありカス!?」
この部長、目つきも最悪だが口も悪いな。俺が少しM寄りだったからさほど気にならないが普通の人ならへこむぞ。
「こら、ススっ! 汚い言葉を使わないの。貴方はただでさえ誤解されやすいのだから言葉くらい綺麗に使いなさい」
ロゼ先輩が後ろからスス先輩の頭を軽くゲンコツして戒める。
「ふぇぇ。ごめんなさい。今後気をつけるしだいでちょり~んす」
「うん、よろしい」
よろしいのかよ。明らかにふざけてるでしょ。ロゼ先輩がいいならいいけど。
「じゃ、じゃあ行きますか。ロングソードでいいんですよね?」
「ええ、それで」
「ちぇっ、それでいいですよ~だ」
まだスス先輩が渋ってようだけど、俺は無視してイメージを開始する。浮かぶは、オーソドックスな大きめな剣。続けて素材名が流れこむ。
「・・・・・・鉄鉱石。だけですねぇ」
「そんだけ?」
「あら、初期武器クラスだから簡単なのね」
二人は少し物足りなそうだ。実際俺もさっき抱いた高揚感には伴ってない。それならと俺はさらに引き出しを開けてゆく。
「基本はこれだけです。でも、さらにここから炎巨人の剣欠を加えると火属性のディルンウィン、氷河龍の重爪を入れるとアイスソードになりますよ」
しまった、勢いで先を言い過ぎた。これだとまたとんでもない化け物の素材が必要になるかもしれない。さっきみたいな経験はもうごめんだ。そう後悔するも時すでに遅かった。
「くくく、ウスト君、わかってきたじゃないか。属性付きの武器は特定のボス攻略に必須だ。この際どっちも作ろうじゃないか」
「別属性の二刀流ってのもかっこいいわね」
完全に二人のやる気という炎に油を注いでしまっていた。
「あ、でもでも、またさっきみたいな化け物がでるかもですしっ!」
無駄無駄無駄無駄と言われるまでもなくわかってはいた事だったが、今更ながらに静止を促してみる。
「そうなると、ロングソードから素材集めるのも面倒だな。鉄くらいならこの学校にいくらでもあるだろう、探してみよう」
「そうね、わざわざあっちに行ってまで掘らなくてもいいかも、手分けして探してみましょう」
無駄無駄無駄無駄でした。二人は瞬く間に部室から姿を消した。
しゃーない、鉄鉱石はともかく属性武器の素材はとても俺達では調達できないだろうし、鉄だけなら俺も探すか。
しかし不純物を含まない鉄なんてそうそうあるかなぁ。俺は早々に振り回されっぱなしのこの部活でこの先やっていけるか本当に不安になった。