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スス部長の錬金部  作者: 琴宮類
4/10

よし、よくわからない場所にきたぞ!

 瞬時にわかる前回まで。


 なんやかんや錬金部の説明を受けたけど、百聞は一見にしかずと、ロゼ先輩にどこかに連れて行かれることに。

 先輩に引かれる事、五分程。その間俺は先ほど自分が口走ったおかしな言動の事が頭から離れなかった。


(土魔王の鋭角ってなんだよ。俺、なんであんな事言ったんだろう・・・・・・)


 いくら考えても答えはでない。そうこうしている内にも俺達は、いくつかの角を曲がって、元々見慣れない学園内を歩き続ける。そしてロゼ先輩の歩みがピタリと止まった。


「着いたわよ」

「ん・・・・・・あれ? ここは?」


 距離的にさほど部室からは離れてないはず。それなのに今立っているこの場所はいつの間にか荒野が広がっていた。


俺は夢でも見ているのか。たしかに学園内にいたはずだ。しかし見渡す限り建物らしきものが見当たらない。

そもそも学園で一番高い時計塔が見えないはずがない。


「ふふ、私自身もね、今一こっちの世界がなんなのか理解してないの。だから私はここを(よくわからない場所)って呼んでいるわ」


「そのまんまなんですね・・・・・・それにこっちの世界って・・・・・・?」


 途中靄がかかった気がする。雰囲気が徐々に変わっていった気もする。到底信じられるものではないけれど、それでも俺の認識を塗り替える程の事象が存在していた。


「ここは私も初めて見るわねぇ。どこに出たのかしら・・・・・・」


 おいおい、ロゼ先輩の言葉を信じるならば、これちゃんと元の場所に帰れるだろうな。俺は底知れぬ不安に襲われて体をブルっと震わせた。


 風の音だけが耳に届く。意図せず周囲を注意深く観察する。遠方に森だろう緑が見え、ここだけ意図的に切り取られたかのように土色が俺達を囲っている。数キロ先まで土と岩だけの荒廃した大地。その中心に取り残された二人。


「えっと、その・・・・・・」


 この状態からどうすればいいのかわからずに隣のロゼ先輩の顔を伺う。


「・・・・・・ウスト君はね、まだ信じられないだろうけど、私は貴方が三人目だって事わかってるのよ」

「え?」


 ぼそりと顔を俯かせてそう声をかけてきた。銀色で、その髪はこの世界でもキラキラ時より輝く。それはそのままさらりと顔を滑らせその表情を隠す。


「私、ススが男の人と喋っているのを見たのは初めてよ。あぁ見えて本人も相当動揺しているはずよ」

「・・・・・・・・・・・・」


 俺の頭に疑問符が沸き起こる。スス先輩は男の人と喋った事がないとでもいうのか。


「私はね、それがとても嬉しいの」


 伏せていた顔が俺の方に向かれる。先輩は微笑んでいた。その笑みが俺の全身を揺らす。

 

心を奪われるとはまさにこの事だ。俺の今を、この先の全てを捧げてもいいと思わせられる。


「あ、あの、せ、先輩・・・・・・」


 思わず手を差し伸べてしまった。触れたいという衝動が抑えきれない。頬を撫ぜ、髪を指で掬き、肩を抱き、自分の胸へ引き寄せたくなる。


 後、数センチで手が届くかというその時、それは起こった。


 大地の揺れが足元から伝わる。それは徐々に大きくなり、同時に体の震えが同調するかのように沸き起こる。


 俺はすぐに状況確認、首を素早く動かす。するとすぐに目に付いた。いつできたかはわからない。気づいたらそこにあった。前方の地表に発生した黒い点はゆっくりと広がっていき、あっという間に大きな黒い穴を作った。


 地面の小石が宙に浮いてゆく。


 黒いプラズマがあちこちで発生。先ほどまでの優しい風は、急に牙を向いた。狂気のごとく荒振った。


「あらあら、これは・・・・・・」


 そんな変化にもロゼ先輩の笑顔は崩れず冷静そのものだ。強風に煽られながらも口元に手を添え何か考えているのか。


「っ!?」


 ロゼ先輩を映す俺の瞳の端が何かを捉える。首をそちらに戻すと底が見えない漆黒の闇から、巨大な物が浮き上がってきた。


「あぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱっ」


 それを見た俺は、ロゼ先輩とは対象的に取り乱す。逃げ出せと、今すぐここから離れろと、思考はそう命じるが、それでも体は動かない。代わりに意味不明の言葉だけ発する。

視界が取り入れたのは手だ、まず見えたのは形こそ人の手を模していたが明らかに異形だった。


 この時点で俺の精神は崩壊寸前。そんな俺の状態などお構いなしにゆっくり引き上がられてゆく全身。


「ば、化物・・・・・・」


 言葉通り、俺がイメージするならっていう、それそのもの。巨大な体躯に装飾されしは、所々から突き出る角、複眼なのか無数の目玉、骨組みだけの漆黒の翼、涎が絡まる鋭い牙、牙、牙。


 昔やったゲームのラスボスって確かこんなだったな、なんて思う。そんな事考える余裕があったのは、脳が死を宣告したから。走馬灯と呼ばれる長く短い猶予が与えられたから。


 でも、それも束の間、俺の予想ではここから悍ましい咆哮が来る。威嚇は必要ない小物の俺にでもそれは向けられるはず。鼓膜を通り越して脳みそをぐちゃぐちゃにするであろう腹の底から出される叫び声が。


 そこまでわかっていても身構える必要はなくなった。そのラスボスの体、その至る所で不規則にキョロキョロさせていた眼球が、一斉に俺の方に目を合わせた時、俺の意識は一気に飛んだ。

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