よし、なんだか知らないけど行こう!
瞬時にわかる前回まで。
目付きの非常に悪い先輩に部活の勧誘を受けた。なんだかんだ色々言ってたけど、友達が美人さんだったので入る事にした。
その数十分後、俺は狭いながらも小綺麗な部室らしき部屋に案内されていた。なぜか横に洋風のバスタブが置いてある。
「簡単に説明すると、過去に偉大なる錬金術師がいた。あまりにすごい人物だったゆえ、その知識や技術を受け継げる後継者がおらんかった。そこでその錬金術師は考えた。自分の内包する全てを三つに分割、分類すればなんとか後世に伝えられるのではないかと。そんなこんなでそれを受け継ぎ隔世したのが私達です」
「簡単すぎでしょ」
明らかに最後あたりで一気にすっ飛ばしたでしょ。そんなこんなで済ますとは。
「まぁ詳しい事はおいおいするよ。で、そんなこんなで無事に知識や技術を三人の弟子へと相伝できた訳だが、本来勉学や辛い修行で習得するはずのそれらの技量は、何代か先の世代で直接脳や肉体に転移させるという禁術を用いるようになった。そりゃ楽だし方法がある以上使うのが人間の性だ。しかし、それが災いしてか、直接送りつけてもスキルを発動できない者も出てきた。それなのに、その子供や孫の代で発動するといったイレギュラーな事態も起きる。錬金術として使うには三つが揃わなきゃ無意味。せっかく隔世する者が出ても、他が隔世してなければ駄目をいう事だな。そんなこんなで今日三人が揃った」
あ、まただ、また最後そんなこんなを使ってはしょりやがった。二回も使いやがった。
「え~と、つまり三つ揃わないと意味がなくて、誰かが発現しても世代が合わないと宝の持ち腐れ状態だったと」
「そそ、もっと簡単にプラモデルで例えるとしよう。ここに一〇〇分の一スケール、完全変形パーフェクトマスターリアルハイグレード、アクセルフルバーニア装備宇宙仕様トラブリューダークネッサーラ、粒子砲換装可能バルクアイゼン特殊部隊隊長機を作るとする。これはとんでもないパーツ数だ。ポリキャップだけで数百ある。凡人には作るのは不可能。これを組み上げるのが私の役目。そしてその週刊少年ジャガン位ある説明書が君だ。さらにこの完全予約限定で入手困難なプラモデル自体を手に入れてくるのがロゼっちって訳」
「折角普通にいえばわかりやすいのに、余計なの付け足すからややこしくしてますよ」
まぁ、しかしなんとなく分かった。料理で例えた方がずっとわかりやすい。スス先輩にいくら調理の技術があっても、レシピがなければ作れない。レシピがあっても材料がなければ作れない。材料があっても、それを調理できなければ意味はない。まさに三位一体って訳だ。とんでも話だけど、この部に入ると言った以上この先輩に合わせて乗ってみよう。この部自体がそういう設定で作ったのかもしれないし。
「一応理解はできたと思いますけど、そもそもなんで俺がその一人だと? ご期待にそえなくて申し訳ないですけど、俺はただの一般人ですよ」
「いや、君はボトムレスナレッジだ。あの場に現れたのがその証拠だ。私達は引かれ合う運命にいたのだ。君があそこに来たのも、この学園に入ったのも、さらに遡れば生まれた事さえも今日私達に出会う為」
与太話だからいいものを極論すぎでしょ。まるで運命が存在している物言い。俺はレールに従って生きてきたつもりはない。
「いやいや・・・・・・そんな話。あそこに行ったのも迷っただけで、すべて偶然ですよ」
俺が演技まじりにそう反論すると、とんがり帽子の変梃先輩は肩を竦めた。
「やれやれ、論より証拠だな。実践して見れば一目瞭然だろう」
スス先輩がふいに指刺す。その方向に顔を向けると部室に入ったときから気になっていた風呂釜がある。
「大きな物を錬生するときはあの風呂釜を使う。小さい物はそこの電子レンジだ。共に代々我が原家家に伝わる錬金道具だ」
風呂釜はともかく、電子レンジは代々伝わらんだろ。
「錬成してみよう。とりあえず・・・・・・そうだな、まずは賢者の石でもいっとくか」
「ちょっ、高度っ! 初っぱなからそれは高度でしょっ! いや、よくわからないけどそういうのは最終目標とかじゃないんですか? そんな行っとくかみたいな乗りで作れる物じゃなさそうですけど!?」
「もうなにさ、半信半疑のくせにえらい突っ込むなぁ。じゃあエリクサーでいいよ」
「同じだよっ! ここ本当に錬金部なのっ!?」
半分どころかこの時点では無信全疑な俺だったがどうしてもこれは肯定する気になれなかった。お遊びでも錬金部っていうからには色々知識がありそうなものだが。そうなると、そうか、この先輩は過程をすっ飛ばす性格なんだ、多分ゲームでもノーマルからじゃなくていきなりEXから始める人なんだ。
「成せば成るっ!」
「成らねぇよっ! そもそも賢者の石っていや万病、難病オールグリーン、さらに不老不死に延命効果の最強霊薬でしょっ! 材料だって、基本の水銀、硫黄、塩を土魔王の鋭角、炎破壊の翼鱗、邪雪女神の透髪、幻風龍の鎌爪、一角獣の聖角から抽出ですよっ! こんな超レア素材、今の俺達に・・・・・・って・・・・・・あれ?」
何言っているんだ、俺。今までの人生で聞いた事もないような単語がごろごろと。
「なるほど、それが材料か」
俺が自問自答を始めたと同時に、スス先輩は勝ち誇ったような顔を見せてそう言い放った。
「早速とってこようか?」
間髪入れずにロゼ先輩が続く。
「そうだな。ウスト君もあそこに行けば色々信じる気になるだろう、そもそも私が普通に君と話せている時点で疑い無きものなのだがな」
「そうね。じゃあ、二人で行ってくるね」
俺が惚けていた一瞬の間で、二人は会話を進め、何かを決めたようだ。そこに俺の意志は無かった。
「さぁ、行きましょうか」
「え、ちょっと、どこに・・・・・・」
困惑して引き留めようと思った俺だったが、ロゼ先輩がふいに俺の手を掴んだ。ぎゅっと握られたその手は柔らかくて温かくて、女の人と手を繋いだ事がなかった俺は黙ってその手の感触を確かめるように握りかえした。
「行きましょうっ!」
俺は力強くそう答えた。ロゼ先輩となら例え地の果てにでもついて行こうと今決めた。そしてすぐに後悔する事になる。