俺達の戦いはこれからだ!
プロローグ的なやつ。
光陰矢のごとしとは言うが、まったくその通りだと思う。
今日も俺は、いや俺達は放課後この練金部の狭い部室でダラダラと無駄な時間を垂れ流していた。
「んあ~、ウスト君や、なんか喉が渇いたなぁ」
そう中央に配置されている長机に体を突っ伏しながら、気怠く声をかけたのは、この部屋の主ともいえる練金部、部長の原家スス。俺より一学年上の二年生だ。
制服にとんがり帽子という奇妙な組み合わせはそれ以上の奇特な縁が無ければ本来目も合わせようともしなかっただろう。
そもそも視力が非常に悪いのに眼鏡やコンタクトを固くなにつけようとしないのでつねに目つきが悪い。
それを知らないと睨まれてるんじゃないかと思えて視線を合わせたくない。
「蛇口を捻ればいくらでも水がでてきますよ」
読み進める小説からは目を離さずそう答える。
「え~、甘いのがいい~」
「そう思うなら自分で作ればいいじゃないですか」
俺の言動に、スス部長は少し頬を膨らます。
「むぅ~、それじゃオレンジジュースの材料は何か教えてくれ」
「オレンジですね」
即答する。実際は果汁100%でない場合は色々含まれる。だが大抵の人は無添加を選ぶだろうしこれで問題ない。
「そうか、オレンジかぁ。それじゃロゼっち、採集を頼む」
「は~い」
そう返事をしたのは、比丘ロゼ先輩。
部長と同学年の物腰柔らかな美人さんだ。スス部長とは対照的に何が何でもお近づきになりたいと思う男子生徒は多いだろう。ロゼ先輩とこうして一緒に居られる俺はいつも羨望混じる妬視がこの身に突き刺さる。
「ちょっと待って下さいよ。ロゼ先輩をスーパーまで走らせる気ですか」
「そうだけど、スーパーじゃなくてあっちにないのかな?」
「あるかもしれませんけど、態々あっちに行くまでもないでしょう。ていうよりジュース一つのために面倒な」
「だって喉渇いたんだも~ん。我慢できないも~ん」
スス部長は駄々っ子のように体を揺らす。
「私は大丈夫よ。ちょっと行ってくるわね」
いつもニコニコ、ロゼ先輩。そんな子供を甘やかす親のように、不満を漏らす事無く座っていたパイプ椅子から腰を上げた。
「いや、ロゼ先輩が良くても俺が駄目です。先輩をこんな事のために働かす訳にはいきません!」
俺もすかさず立ち上がり、部室を出ようとしていたロゼ先輩の前に立ち塞がる。
「うな~! ロゼっちは行ってくれるって言った~!」
「俺が行くなって言いました!」
俺とスス部長がこうなると火花では済まない。二人とも目から超電磁砲を打ち、睨む合う。
「はいはい二人共、喧嘩はやめて」
ここで間に入るのがロゼ先輩で、それを受けて引くのが俺で。それがこうなった場合の一連の流れで。
「はぁ。わかりましたよ。俺がそこの自販機でジュース買ってきます。それでいいでしょう」
「マジで? キャッポ~! いいよ! やった~ウスト君のおごりだ~!」
誰も奢りとは言ってないのだが、ここは大人しく我慢した方がいい。
「ロゼ先輩は何がいいですか?」
「え、私もいいの?」
「もちろんですよ、むしろ俺はロゼ先輩の分しか買いたくないです」
「う~ん、じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら。私、コーヒーがいいかな。ブラックならなんでもいいよ」
ロゼ先輩は、今度は自分が払うねと付け足した後、私が買って来るって言ってくれたがそれは丁重にお断りした。そして渋々部室を出ようとした俺の背中に声がかかった。
「私、英国王室御用達ミルクティー最高級茶葉使用のやつね~」
俺はそれを聞き肩を振るわせた。
(てめぇは流れ的にオレンジジュースだろがっ!!! しかもそれ100円均一の自販機の中で、なぜか一つだけ500円のやつだろがっ! そもそもそれ入ってる時点で均一じゃねぇだろがぁぁぁっ!)
ロゼ先輩の手前、こんな汚い言葉は吐けない。俺は無言でゆっくりと二回首を縦に動かし部室を出た。
今、俺達の壮大な冒険が始まる。