story2.ジキルハイド・パラノイア
あの事件から1ヶ月、まぁ事件とは言っても、俺の知る限り志島詩音しか、あの出来事を事件と見ていないらしい。
理由は分からない。
ただ大方、俺の見てきた今までのアニメ主人公達は『自分だけ特別』『自分にしか出来そうもない』的な場面に立ちはだかれば、迷わずこの世の悪に立ち向かうのだろう。
しかし、志島詩音は違う。
特に特別な、例を挙げようとするならば『死に戻り』とか『幻想殺し』とか『幽波紋』とか、そう言った類のいわゆる特殊能力なんて俺は持ってない。
つまり、今の俺がスタンダード。
何も出来ない一般人らしく、マンションの一室で引きこもりながら、グダグダとぬるま湯に浸かる人生を過ごしている。
────これがスタンダードなのだ。
「なんてな、俺だってどうにかしたいさ」
テレビの前で横になり、寝返りを打って吐き捨てる。
どうにかしたい。
それでも、どうにも出来ないこのモヤモヤした気持ちが、一層自分の不甲斐なさを囃し立てる。
それがこの状況だ。毎日を起きては後悔し、そして寝る。
そんな一直線、超高速で流れ過ぎて行く日々、日常。
「どうしたもんかな……」
目を窓の方へと送る。
外が赤く染まり、いつの間にか時刻が夕方を迎えているのだと気づく。また今日も何も出来ずに終わってしまいそうだ。どこかで何かを変えなければずっとこのままなのだろうか……
考え続けても仕方ない。
「とりあえず、夕飯買いに行くか」
リュックを背負い、履きなれたスニーカーに足を入れる。ドアに手をかけ、外界へと歩き出す。
ほんの1ヶ月前までは、西に落ちる太陽をバックにこの家に帰っていたというのに、バイトを辞めた今では、この時間帯に家を空けることが多くなってしまった。
この街有数の高級マンションの一つ、安澤ハイム15階。
バイトの身で何故こんないい場所に根城を置いているのかといえば、『親の力』と言わざる負えない。
親元を離れて暮らし始めたは良いが、親が俺から離れなかった。
一人暮らしをするといえば、こんな高級マンションを借り、毎週のように送られてくる仕送りの数々、ありがたいと言えばありがたいのだが……俺ももう子供じゃない。
『野放しにしてもらいたい』という気持ちが多少はある。
まぁ迷惑じゃないんだけどね。
ただ、これじゃあ親元を離れた理由がない。
「いや、いい生活できてんだから文句は言うもんじゃないか」
リュックの肩紐をギュッと握り、マンションを後にした。
■■■
夕食を買いに来た7と11のコンビニ。
全国販売式量産型弁当を手に、レジの列に並ぶ。
思えば、いつから自炊をしなくなったんだっけ?バイトを辞めて、昔より時間が増えたはずなのに、これが生活の充実性の欠如というヤツか。
あの日、世界は俺だけ取り残して、変わってしまった。そんな世界で働こうとか、何かを頑張ろうとか思えるはずもない。
仮に思ったとしても、行動には移せない。
頭の中で目を背けたくなるような感情の数々が、障壁となって俺を邪魔するからだ。
「はぁ………」
目を瞑り、小さな嘆息を漏らす。
「あのぉ……お客様?前にお進み下さい」
「────え!?」
気づくと、目の前には困り顔をしたレジの女性。振り返れば、眉間にシワを寄せたスキンヘッドの強面男性。
やばい。そう確信した。
この気まずいサンドイッチ、具材の役目を果たしている俺は、急いでカゴをレジに乗せて、小さく「スミマセン……」と謝る。
あぁ、やった。
やってしまった。
もう、これでこのコンビニは使えない。
明日から、少し遠い『家族』で『市場』なコンビニに行かなければならなくなってしまった。
会計を済ませ、ビニール袋を手に自動ドアの外へと歩く。
外の世界では、蒼い月光が先の一件で傷心した俺を宥めるように、優しい光を灯していた。
一歩進めば、閑静な住宅街にベストマッチとも呼ぶべき、静かな夜風。自称小説家としては、見過ごせないシチュエーション。
パンクしそうな頭の小休止として、少し辺りをフラフラと歩き回ろう。
ここら一帯は言い方は悪いが、金持ち貴族達が住む。いわば一等地。
辺りを見渡せば、いかにも高そうな家や、軽く走り回れる様な庭。
それに加えて、歩道まで洒落た赤煉瓦、ここ日本なんですかね?と言いたくなるようなパリ風街灯。
夜はそれこそ、静かな落ち着きのある場所だが、太陽が登れば、近くの公園を求めて、子供たちが元気に駆け回り、リア充達が新たなる発展を求めてさまよい、杖をついたお年寄りは、憩いを求めにトボトボと散歩を始める。
俺もそんな一等地のしかも高級マンションに住んでいる訳だが、一つ言わせてもらえるのなら、俺は煉瓦より混凝土の方が好きだということだ。
そんなどうでもないことを話していると、俺の聴覚は無意識に煉瓦を踏み叩く音に気がつく。
それは、俺のコツコツコツ……という音に合わせるかのように、しかし必然的に、微妙にズレたまた違うコツコツコツ……という足音。
最初のうちは特に気にならなかった。
しかし、『試しに』『もしかしたら』『一応』などと帰り道とは関係無しに曲がり角を曲がっているうちに、一つの結論が出る。
いや、出てしまった。
(俺、つけられてるわ……)
そう確信した瞬間に、『恐怖』と言うよりは『何故?』という疑問が頭の中を駆け巡る。
普通、こういう事は所謂美少女にするものなのでは?
それともなに?俺の後をつけている人物は曲がった性癖の変態さんなの?
そう考えた瞬間、俺の頭の中は『何故?』よりも『恐怖』が支配し始めた。
なになになに、え?
自分で考えといてあれだけど、冷静に考えたらまずくないか、この状況。
無意識に自然と足が早まる。
それを合図とするかの様に、背後の足音もその速度を速める。
クソッ……逃げ切るにはどうしたら、ここら辺の道は直線道路。裏路地を除くと曲がり角はほとんど無い。それに先の経験でわかったが、俺がどんなに巻こうとしたって、コイツはズンズンとついてくる。
どんだけ執念深いんだ !
それほど、俺の顔がタイプだって言うのか?それはそれで、誇っていいのかもしれないが、それとこれとは話が別。
ここは一層の事喋りかけて、危なくなったら大声を出そう。こんな着想な考えでどうにもならない気がするが、辺りの静けさも手伝って、誰かしら駆けつけることに賭けよう。
よし、大丈夫だ。(多分)
そう心の中で3回唱え、決心で背中を押して後ろを振り返る。
そこに居たのは、俺よりも背丈の低い赤いロングマントを羽織った『少女』だった。
俺より年下だろうか?中学生くらいの少女は、ゴシック・アンド・ロリータ的な洋服をマントの隙間から見せている。
驚いた。
勝手なイメージでは中肉中背のメガネ男性だったのだが、こんないかにも可憐で可愛らしい茶髪少女だったとは……
ならば、俺の頭にカムバックしてくる『何故?』の二文字。
先程とは違って、今回は全くそれらしき解答が見当たらない。
いや、待てよ。この少女は本当は俺に喋りかけたくて積極的にあとをつけてしまった。しかし、その実とてもシャイで『この状況どぉしよぉ……話しかけたくて後つけたけど、全然チャンスが掴めないよぉ』的な。
いやいや、今回こそ冷静に考えても見ろ、今まで女子との縁なんて妹を除けば皆無。
そんな男に神様は甘くない。
事実、そんなシャイな女の子だったら、こんな派手な赤いマントなんて羽織らないだろう。
そうだ。冷静になれば分かること。
ふぅ、モテ期か……
やっと歴史が、世界が、宇宙そのものが俺に追いついた感じ?
冷静?なにそれ?おいしいの?
知らねぇな。そんなモン、俺の頭の中の消しゴムが数分前に消去したわ。
都合のいい消しゴムで助かったわ。
本気で。
さて、となればこの少女との記念すべき初コミュニケーション。
詩島詩音、ラブコメの幕開けにふさわしい言葉を選ばなくてはならない。大丈夫だ。最近のアニメの……とは言え1ヶ月前までだが、ハーレム主人公を星の数見てきた。
アイツらから学んだ知識を今ここで解き放つ時 !
「ど、どどどうしたの?しゃっきからつ、ついて来てたみたいだけど?」
詩島詩音、十六歳、童貞。
いくら何でもやらかした。
今すぐ、自室の布団に潜り込んで『バカヤロぉぉぉおお!!!!!!俺の口ぃぃぃぃぃぃいいいい!!!!』
とスクリームしたい。
俺の設定のコトをスッカリ忘れていた。
俺はハーレム主人公とは違った。余りにも違った。
最後に女子と話したのは、一人暮らしが始まる前に妹と話した……『二年前』のあの会話。
「俺明日から東京行くだろ?妹よ。何か励ましエール的なものを貰えないだろうか?」
「さっさと出てけ」
あの謎会話がラストなのか……
自分の事ながら、落胆していまう悲しさ。
そ、そんなことより会話の続きが大切だ!
さぁ、どうアクションを起こす?
罵るか?
叫ぶか?
はたまた、俺の胸に飛び(ryこれは無いな。
少女は少し考え込むように、手を顎に当て数秒間。ふぅ、と息を一度飲み込む動作を見せ、コチラを『キラキラ』した両目で見つめたかと思いきや、沈黙を破るようにそのぷっくらとした唇が動き出す。
「まさか、我の秘術『闇の不可視』を見破る猛者がこの世界に居るなんて……現世もまだ捨てたものじゃないってわけね」
「!?」
なんだコイツ、急に何が始まったって言うんだ?いや、俺の脳内知識を舐めるんじゃない。一瞬取り乱したが整理すれば分かること。
コイツは────中二病ってヤツだな……
中二病とは、心の成長期に非現実、異次元的存在、神話や異能に影響されてしまった悲しき生命体の総称。
どうしてすぐに中二病の説明が頭を駆け巡るのかと言えば、俺も昔……いや、辞めておこう。ちょっと手首切りたくなるから。
とりあえず、今はこの状況をどうにかしなければ、悲しいかな俺のモテ期は数分でピリオドを打ってしまった。となれば、尚更この娘のストーカー行為の理由がわからなかなってくる。
1つ仮説を生み出すと尽く打ち壊されているのは気のせいだと信じて、そろそろ本人に正解を聴くことにしよう。
「あーうん、そうだな。まぁ、お前の闇の不可視を見破ったのは、我が完全五感のなせる技……」
「カ…カッコイイ……」
これが俺の作戦、そうだな作戦名はオペレーション『豪に入れば豪に従え』。
個人差はあるにせよ、同族を見つけると誰しも嬉しい感情が湧き上がる。
そこをついた作戦……
少女の反応を見るに、どうやらオペレーションコンプリートと言ったところだろう。
流石、俺。
昔、中二……辞めておこう。軽く首吊りそうになるから。
ともかく、この調子で進めば、俺のモヤモヤも解決するだろう。
よしっ久々にはっちゃけるか!!!!
スパッと目に手を当て、俺は眠っていた自分を解き放つ。そう、封印した忌まわしき自分を……
「では、一つ聞こう名も無き少女よ。貴様は何故?俺の死角に入り、俺の後をつけたのだ?その闇の不可視は、貴様の体力を消耗する秘術であろう……そうまでして、俺をつけた真意とは?」
少女は、俺に同調するかのように左手を前に突き出し、右手を左目に当てキメ顔で叫ぶ。
「フッフッフ……良くぞ聞いてくれた。五星の護り人よ。ソナタは天界の落とし子……伝説に名を残したガブリエルの守り人その人なのだ。しかし、我が姿を表せば我が顔は朱に染まり、無言の呪いが発動するかもしれない。なので、少し様子を伺った。」
結局シャイじゃねぇか!!
てか、俺の出身は天界じゃないし、そもそもガブリエル?誰?それ?
でも、ここで『何言ってんだよ』なんて急にマジレスしたら、流石に嫌われるよなぁ。
嫌われていい女子は妹だけと決めてる俺は、あえてここで何も言わない。
それに、こんな目の前で『キリッ』ってドヤ顔してる『痛いけな』いや、『いたいけな』少女を傷つける訳にはいかない。きっとこの子も、現実と夢の狭間で悩んでる時期だろうし、少しぐらい夢を見せてやろうという、大人の考え。
「な、なるほど……まさかっ!?この期に及んで天界に危機が訪れているというのか……?」
「察しがいいわね、五星の護り人……つまり、今ソナタの力が必要なの、ついてきて」
うーん。久しぶりに中二……初めて中二病ってヤツをやった訳だが、こんな感じでいいのだろうか?なんだか、おかしな方向へ前のめりで突き進んでる気がするのだが……と言うか、いつから五星の護り人なんて名前に?嫌いじゃないけど。
そんなことを考えていると、少女はスタスタと何処かへ足を進め始める。
まぁ、いいや。どうせ家帰ってもやることないし、ついて行ってみるか。
歩くこと約10分。
何の縁なのか、ついさっき話題に出した例の公園に行き着く。ラブコメ展開なら、あのまま中二病少女の家に行き、マジモンの魔力とかマジモンの超能力とか見せつけられる感じなのだが、どうやら俺はここが3次元だということを忘れていたらしい。
「それで、ここに何があるって?」
もう面倒臭いんで普通の口調で問いかける。
「ここに我がマスターがいるわ。五星の護り人……ソナタは彼に会わなければならない」
「マスター……か」
そのマスターとやら人物が誰だか分からないが、『彼』と呼ばれているということは男ということは間違いなさそうだ。
じゃあ、期待しないでおこう。
スタスタと、二人並んでドンドンと闇に包まれた公園に進んでいく。当然のことながら、朝昼に比べて人通りは少なく、時折、スポーツウェアに身を包んだ人が横を走り抜けていく。
その度、こんな夜によく走る気になるなぁ、なんて感心するのと同時に、あの人達からは、俺らはどんな関係だと見られているのだろうなんて考えたりする。
やっぱり俺ってキモイな……
「ついた」
俺の自傷行為を邪魔するように、少女が立ち止まる。
「ついたってここか?」
そこは、様々な遊具が設置してある。子供からしてみればユートピア的な場所なのだろう。もちろん夜遅くなので子供の姿は見えないが……
しかし、そこに一人の人影。ロングの真っ赤なナポレオンコートを来ているその男はブランコの上に座り込み、哀愁と共にタバコの煙を漂わせていた。
漂うタバコの香りに誘われるように、中二病少女は男の元へと歩いていく。
「ただ今戻りました。我がマスター……」
「あぁ、ハイビスカスか、どこに行ってたんだ?こんな時間に」
「我、激戦から帰還。その死闘の末、五星の護り人の確保に成功しました」
中二病少女の名はハイビスカスと言うらしい。
「五星の護り人?なんだそりゃあ、それより明日ここを出るぞ、あそこに行ったら食料の確保は困難。この街で準備してけよ。たしか近くにコンビニあったな……そこで缶詰めとか買えれば……」
「あ、あの!!」
完全に空気となっていた俺は、マスターらしき人に声をかける。
「誰だ?お前、あぁなるほど、お前が五星の護り人か……すまないな、俺の連れが迷惑かけて、その手に持ってるレジ袋を置いて帰ってもらえないか?」
この人も頭のネジがぶっ飛んでる感じかな。
「いやいや、帰りますけど置いていきませんからね。俺の今日の夕飯なんですから、しかも歩き回っていつも以上に腹減ってるんですよ」
俺が嫌味混じりにそう言うと、ハイビスカスは体をビクッと震わせる。
まぁ、ストーカーだと思い込んで歩き回ったのも、暇だからここまでついてきたのも全部俺の判断なのだが、少し悪態をついてみたりする。
「……ところで、この五星の護り人がどうしたって?」
なるほど、無視するのか……
「天界の焼失。その原因となった敵軍幹部サターン、奴の力を封じ込めるための小さき惑星を五星の護り人は既に手にいている。彼の力は、我にもマスターにも必要」
「という設定か……」
うわ、扱い慣れてるなこの人。
とは言え、ハイビスカスの目はどことなく本気だった。その事をこのマスターは、理解していたらしく。ある行動に出る。
「すまないな、ハイビスカス。お前の言葉じゃどうも理解し難い。槿に変わってくれ」
「了解……」
「槿?」
これも設定の一種なのか?と疑問を抱いていると、突如、ハイビスカスはドサッと音を立てて力無くその場に倒れ込む。
それを平然と見るマスター。
「ちょ、ちょっと大丈夫何ですか!」
「大丈夫だ、まぁ、アレだコイツは俗に言う二重人格。少し特殊なタイプだがな」
「に、二重人格!?」
中二病で二重人格だと、タダでさえハイビスカスの人格が濃厚だというのに、胃もたれが起きそうな性格設定。
マスターは、タバコを灰殻ケースに押し込み、ジャラジャラ鎖の音を立ててブランコから立ち上がる。
それから、優しくハイビスカスもとい槿の体を擦り、「おーい」と呼びかける。
「う、うーん」
「お、起きたか?もう朝だぞ……とは言えない時間帯だが、お前に説明してもらいたいことがある」
中二病少女ハイビスカスの同じ顔、しかし、明らかに雰囲気は違う。いったいどんな性格してるんだ。謎の胸の高鳴りと不安感を持ちながら、ゆっくりと立ち上がる少女をマジマジと見つめる。
すると、コチラを1度見てニコッと笑顔を見せ、「こんばんは」と挨拶をする。
「あ、あぁ……ど、どうも……」
なんだ、このハイビスカスの時とは別物の違和感。ハイビスカス《あっち》とは違い、とても普通な感じじゃないか……
「それで、説明してくれ。この五星の護り人が何故必要なのか」
マスターが切り出す。
「説明するより、リュックを見れば手っ取り早く全てわかるんじゃないでしょうか?」
そう言い、槿は俺のリュックを指さす。
「……だ、そうだ。ってことで少しそのリュック見せてくれるか?」
「いいですけど……特に変わったものは入ってないですよ」
リュックを開くマスター……そのつまらなそうな顔が全てを物語っていた。
「ほんとに何も入ってないな、スマホと財布だけか」
「いや、だから言ったじゃないですか」
「違う違う。そうじゃなくて外側ですよ」
「外側?」
マスターは、リュックのチャックを閉め、ブランコの上に置いて、槿の言う外側を確認する。
「特に外側にもないと思いますけど……」
マスターから返事が帰ってこない。
「……あの?どうしたんですか?」
「──クフフフ……フフフ……そうか、そういう事なのか……面白い…面白いじゃないか!!!!」
いきなり、月の輝く空に両手を伸ばし始めるマスター。そのまま、訳の分からない文章をズラズラと発し続けていく。
「なんだ…!?」
困惑。それもそうだろう、いきなり哀愁漂いまくってた人が、奇行に走り出したら、誰だって困惑すると思う。
しかし、槿は慣れているかの様にその奇行をヤレヤレという感じで見ていた。
「心配しなくて平気ですよ。先輩、テンションがhighになると少し、中二チックになるんですよ」
先輩?なるほど、槿の状態だと『マスター』ではなく『先輩』と呼ぶのか……と言うか、その顔で中二チックとか言わないでもらいたい。あんたもさっき凄かったわけだし……
「それで、先輩。理解しましたか?」
「あぁしたさ。十二分に理解した。全く神も悪戯が過ぎる……なぁ、五星の護り人よ……」
「言うの今更かも知れないですけど、俺の名前、詩島詩音ですからね?」
「詩島詩音よ……」
「なんですか?」
マスター改め先輩は、ククク……と不敵な笑みを浮かべながら、顔を横に倒し、目を合わせ、とても想像しなかった台詞を俺に向かって放った。
その台詞は俺が求めていた。
それでも、もうこの世界には存在しないと確信せざる負えなかった、たった1行の何の変哲もない台詞。
「お前────アニメは好きか?」
「……え?」
あぁ、知っている。
この胸の高鳴りを俺は情熱としか、表現出来ないことを知っている。
それ以上でも、それ以下でも無い。
テンプレ過ぎるかもしれないが、コレばかりは言わせてもらいたい。
この言葉は俺の人生を大きく変えることになったと……