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ヒカリとキオク  作者: 有沢 諒
きおくのありか
7/45

階段から落ちた理由

 翌日。

 約束通り朝はリュウと一緒に登校した。

 早い時間の電車に乗ったので、満員電車も回避できたし、リュウから話を聞いて少しヒカリのことがわかったから、昨日よりは落ち着いて周りを見ることができた。


 でもまだ、なんでこんなに視線を感じるのかは良くわからないけど。

 リュウみたいに無視していればとくに問題なさそうだし。

 クラスメイトも昨日よりも慣れたからか、そんなにこっちばかり見てるってこともないし。

 気にしすぎてたら自意識過剰みたいだから、気にしないことにする。


 というか、もとのヒカリが優等生として過ごしていたんなら同じようにしてればいいんだ。

 見られていたって、ちゃんとしていればいいんだし。


 ちょっと開き直って学校生活を送ろうと思った矢先。


「あの、ヒカリ先輩。少しいいですか?」


 お昼休みに、教室に訪ねてきたのは見知らぬ後輩の女の子三人組。

 といっても記憶がないから、本当は初対面じゃないんだろうな・・・とは思って廊下に出る。


「えっと、ごめんなさい。私、記憶がなくて・・・あなた達のことわからないの」


 彼女たちがどういう理由で訪ねてきたにしても、こちらの事情を先に伝えておくべきだと思って、開口一番に言うと。

 三人は顔を見合わせて、なにやら頷き合って。


「「「ごめんなさい!」」」


 声を合わせて頭を下げてくる。


「え?」


 あまりに唐突すぎて目を瞬くと。


「先輩が階段から落ちたの・・・私達のせいなんです」


 ・・・・・・へ?


 突然過ぎて、一瞬なんのことかわからなかった。


 階段から落ちたって・・・記憶をなくすきっかけになった、あの?


「それって、どういうことだよ?」


 突然、後ろから声がしてビクッとなる。

 リュウが真後ろから見下ろしていた。

 どうやら気になって聞き耳をたてていたらしい。

 心配をかけていることはわかっているから、様子見されることくらいはどうでもいいけど、なにやら怒ったような視線を後輩の女の子達に向けているのはいただけない。


 三人は怯えたように見ているだけで声も出せない様子で。


「リュウ、顔怖い。怯えちゃってるじゃないの」


 睨むと、リュウは少し困ったような顔をして。


「・・・悪かった。・・・いいから、ちゃんと説明しろよ」


 そう言いながら、言い方が優しくない。

 やっぱりちょっと怖い顔してるし。


 でも、三人は顔を見合わせてから、決心したみたいに口を開く。


「あの時、先輩は私をかばって階段から落ちたんです」


 真ん中の女の子が少しうつむいて言った。


「あの日、図書室に本を返しに行こうとしていて・・・」


 それから三人が補いあいながら話した内容をまとめると。


 あの日、放課後になって3階にある図書室に本を返しに行く途中、ちょっとふざけながら階段を上がっていたとき。

 一人が足を踏み外して落ちそうになった。

 そこに、ヒカリが偶然いて。

 ヒカリは逆に階段を降りている途中で、きっと図書室からの帰りだったんだろう。

 落ちそうになった子を引っ張り上げて、その反動で逆に落ちた。


 でも階段は三段ほどで、さほど高くもなくて。

 けれど、頭を打ったヒカリは気絶してしまい。


 保健室に養護教諭を探しに行ったけど、そんな日に限って早々に帰宅してしまって居らず。

 どうしようと困っていたら、最近、良くヒカリを迎えに来る人がいるのを一人が思い出して。

 それで直接セイにヒカリが階段から落ちたことを伝えて、セイがヒカリを病院まで運んだということらしい。


 階段三つ分・・・なるほど、たんこぶひとつ出来るくらいが妥当な怪我だ。

 妙に納得してしまって、そのときのたんこぶの場所を触る。


「そっか・・・でも、そんなに謝ってもらうほどのことじゃないわよ」

「え・・・だって、そのせいで記憶喪失になったんだって聞きましたけど・・・」

「そうだけど、そうじゃないの。診てくれた医師せんせいも言っていたけど、きっかけであって原因は別なんだって。・・・だから、あなた達のせいじゃないのよ。

 本当に気にしなくて大丈夫だから」


 かばわれたんだと言った、真ん中の子の目を見て言う。


 戸惑ったような視線を返したその子は、しばらくしてから私が本心で言っているんだと納得したのか、少しホッとした表情になって。


「あの、・・・あのときは、ありがとうございました」


 今度は謝罪じゃなくて感謝の言葉を向けられる。

 やっぱり謝られるよりこっちのほうが断然気分がいい。


「どういたしまして」


 自然に笑顔と言葉がこぼれる。

 三人はちょっと驚いたような顔になって、それから顔を赤くした。


 ?? どうかしたのかしら?


「・・・あの、なにか困ったことがあったら、なんでも言ってください」

「お詫びだけじゃなくて、先輩の役に立ちたいんです」

「お願いします」


 また、頭を下げられてびっくりしてしまう。

 別にそんな好意を向けられるようなことをしたとは思えないんだけど。

 助けたといっても階段は低いし、ヒカリが気を失って逆に迷惑をかけたほうじゃないかと思う。


 でも、後輩の気持ちをただ無下に断るのもなあ・・・あ、そうだ。


「それなら、その階段の場所、教えてくれる?」

「え? 場所ですか?」


 よほど意外だったのか、三人とも目を丸くして。


「私、早く記憶を戻したいの。記憶をなくした場所に行けばもしかしたらなにか思い出すかもしれないし・・・できたら今日の放課後にでも・・・あ、用とかあるなら無理しなくていいけど」


 三人は顔を見合わせて頷き合うと。


「もちろん、ぜんぜん大丈夫です。じゃあ、放課後また来ますね」


 そうして、三人は自分の教室に戻っていった。


「ヒカリ、放課後・・・」

「あ、リュウは来なくていいからね」


 言葉を遮って釘を刺す。

 けっきょくリュウは三人の話を聞いている間、ずっと剣呑な雰囲気が消えなかった。

 声こそ出さなかったけれど、ヒカリの記憶喪失の原因になった三人が許せないという雰囲気で。

 私が気にしていないと言ったときも、なにか言いたそうな雰囲気がビシビシ感じられたのだ。


 まあ、気持ちはわからなくもない。

 ヒカリがいなくなった原因なんだから。

 今の私が・・・本当のヒカリじゃない私が許したって、ヒカリと親しかった人間にしてみたら許せるはずがないのだ。


 でも。


「言ったでしょ? 私、記憶を戻したいの。できたら、落ちたときのことを詳しく聞きたいし・・・それなのに、リュウがそんな怖い顔でついてきたらあの子達、しゃべりたくてもしゃべれなくなっちゃうわよ」


 ちょっと呆れた視線を向けると、少しは反省する気持ちがあったのか、バツの悪そうな顔をして。


「・・・俺、そんな顔してたか?」

「自覚ないの? あの子達も悪気があったわけじゃないし、どっちかというと、余計なことをして迷惑かけちゃったのは私みたいだし・・・リュウに心配かけちゃってるのは悪いと思うけど、怒らないであげてほしいわ」


 するとリュウは少し驚いたような顔で目を瞬かせる。


「そっか・・・うん、わかった」


 言いながら、急に満面の笑みで。

 少し近づくと、後ろ頭をぽんぽんと優しく撫でられる。


「じゃあ、放課後は教室で待ってるわ」


 なぜか急に上機嫌になると、先に教室に戻っていった。


 意味がわからなくて、驚いてちょっとほうけてしまう。


 昨日の朝も、同じようにされた。

 夕べ、セイにもおんなじことをされた。


 それなのに、ぜんぜん違う、急に胸がどきどきして。

 顔がカーッと熱くなる。


 なに、これ・・・。


 混乱して、撫でられたところを押さえてうつむく。

 そんなとき、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り出した。


 ・・・授業の準備しなくちゃ。


 優等生だったというヒカリ。

 それを崩すわけにはいかないと、とっさに気持ちを切り替える。


「・・・そうよ、私はヒカリの記憶を取り戻すんだから」


 湧いてきた気持ちを振り切るように、決意を口に出して言うと、教室に戻った。



 ***************

これ以降は恋愛要素が多めになります。

恋愛ものをほぼ書いてなかった作者が、ここから吹っ切って書いたので・・・

なんというか、恋愛漫画っぽい流れになっちゃってます(汗)

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