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ヒカリとキオク  作者: 有沢 諒
きおくそうしつ
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いとこ

 だけど、結局その日はリュウと一緒には帰らなかった。





 教室で手を掴まれたまま廊下を歩くと、やっぱりほかの生徒たちの視線が痛くて。

 興味を隠さない視線と、ヒカリとリュウの関係を噂していると思われる雰囲気。


 さすがに、これは・・・っ。


「リュウっ・・・わかったから、手、放して」


 リュウは歩く速度を少しだけ緩めると、睨むみたいにこっちを見てから手を放す。

 少しホッとして、そのままリュウと一緒に昇降口に向かう。


 まだ視線を感じるけど、それは遠巻きに見られているというレベルで、さっきまでのぶしつけな視線と違って、本気でホッとした。


「・・・さっきは悪かった」


 靴を履き替えていると、リュウが突然口を開く。


「え?」

「ちょっと、・・・八つ当たりだった」

「八つ当たりって・・・」


 何に?

 そんな疑問が伝わったのか、リュウはごまかすみたいに頭をかいて。


「とにかく、気にしなくていいから」


 言って、さっさと昇降口を出て行く。

 慌てて追いかけると、すぐにリュウが立ち止まった。


「どうしたの?」


 声をかけるけど、リュウの視線は校門のほうを見たまま。


「アイツ・・・」


 呟く声で、誰かいるのかと視線を向けると。

 少し人だかりが出来ていた。

 門の外に誰かがいて、それをみんなが遠巻きにしている様子。


「? 誰かいるの?」

「誰って・・・」


 リュウが少し驚いたみたいにこっちを見る。

 ? なに?

 意味がわからなくて瞬くと。


「行くか・・・」


 リュウがため息を吐くみたいに言葉を落として歩き出した。

 意味がわからないがリュウについていって校門を出ると。


「ヒカリ」


 不意に声をかけられる。

 それは人だかりの中心にいた人物で。

 そして、聞き覚えがあった。


「セイ?」


 そして、急に人だかりが割れる。

 そこに居たのはやっぱりセイで。

 だけど、驚きでぽかんとしてしまう。


 彼がいたことにも驚いたが、なによりも、周りの人たちの動きに。

 どっかのドラマの撮影かなんかかと思うほどだ。

 なんで、みんなあんなにまとまった動きをするの? っていうか出来るもんなんだね。

 驚きを通り越して感心すら覚えてしまう。


「迎えに来たよ。一緒に帰ろう」


 セイは気にした風もなく目の前まで歩み寄る。


「迎えって・・・」

「ああ、忘れてるんだっけ? 帰りは出来るだけ一緒に帰る約束なんだよ」


 当然のように言われる言葉。

 だけど、もちろん覚えているわけはないので戸惑ってしまう。


 っていうか、やっぱりセイとヒカリの関係ってなに?

 ただのいとこが高校生になってまでお迎えなんて普通あるわけない。


 返事を出来ずにいると。


「そんな不思議がることじゃないだろ? ヒカリが怪我をしたあの日だって、ちょうど俺が迎えに来ていてそのまま病院に運んだんだし」


 それを聞いて、なるほどと思う。

 つまり、だからあの日、セイは病院に居たというわけだ。


「今日はあれから初めての登校で疲れてるだろう? 俺は車で来ているから遠慮しなくていいよ」


 そこまで言われたら頷かないわけにもいかない。

 記憶をなくす前のセイとヒカリの関係も良くわからないし、セイにはいろいろ聞きたいこともあった。


 それに、正直これから電車で帰るのはちょっとしんどかったし。


「じゃあ、お願いします」


 セイは笑顔でうなずくと、隣にいるリュウに目を向ける。


「リュウ君? 君も一緒に乗っていくかい?」


 笑顔で、きっとセイは親切心で言ってくれたんだと思う。

 どうせ行き先は一緒、隣のうちなんだし。

 だけど。


「いや、俺はいい」


 セイから目を逸らして、無表情な声音で返すと、すぐにじゃあなと駅に向かって歩いていってしまう。

 声をかける隙すらなくて、呆然としていると。


「ヒカリ、行くよ」


 セイがすごく楽しそうな笑顔で。


「車、こっちに置いてあるから」

「あ、待って」


 駅とは反対方向に歩いていくから、慌てて追いかける。


 なぜかとても楽しそうなセイの様子と、急にそっけなくなってしまったリュウの態度に戸惑いが隠せなかった。



 ***************



「学校はどうだった?」


 車の中で、セイが世間話よろしく聞いてくる。


「えっと・・・」


 助手席に乗せられた私は、なんともいえない居心地の悪さに、口が重くなる。


「まあ、記憶がないんだから戸惑うことばかりだよな」


 答える前に、答えを言い当てられる。

 別にそれはかまわないんだけど、なぜか上機嫌とも呼べる様子がどうにも違和感で。


 セイはどうしてこんなにも機嫌がいいんだろう?


「あの、なんで一緒に帰る約束なんてしてたんですか?」


 本当に訊きたいのはセイとヒカリの関係だが、まさか、恋人なんですか? なんて、訊けない。

 なんか、恥ずかしいし、もし仮にそうなら恋人に記憶をなくされてセイはショックなはずなのに、こうして面と向かっていると、やっぱりそんな雰囲気は微塵もない。

 っていうか、こんな上機嫌なんだし。


「理由? ・・・そうだな、言うのは簡単なんだけど・・・」


 ちょうど信号で止まったセイがこっちを見て。


「言っちゃうと面白くなさそうだから言わない」


 にっこりと満面の笑みで。


「は?」

「まあ、頼まれたからなんだけど、その理由は教えてあげないよ。ちゃんと自分で思い出したほうがいいと思うから」


 にこにこと、青信号になってまた動き出す。


 思い出したほうがいい。

 その言葉にハッとした。


 そうだ、私は『記憶を失ったヒカリ』として、ここに居るんだ。

 本当は自分が別の人間のような気がしていて、ヒカリの周囲のこともどこか他人事のように感じてしまっている。


 だけど、周りはそうではない。

 自分を『記憶を失ったヒカリ』として、見て扱っている。

 いつか、記憶が戻ると信じて。

 母親もリュウもセイも。

 でも、今ここにこうしている自分はきっとみんなが知るヒカリとはぜんぜん別物で。

 みんながヒカリが戻ることを期待するって事は、きっと今の自分が居なくなることを望んでいるということだ。


 そんな当たり前のことにようやく気づいた。


 私はここに居てはいけない。


 ヒカリじゃない自分は・・・。


 喉の奥に何かが詰まったような感覚。

 苦しくて、意識して呼吸する。

 だけど、呼吸はちっとも楽にならなくて。

 ぜいぜいと自分の呼吸の音だけが響く。


「・・・ヒカリ? どうした?」


 セイの驚いたような声にも答えられない。


「ヒカリ!?」


 そのまま意識が遠くなった。



 ***************

ヒカリが記憶喪失でネガっぽいので、セイ君はちょっと軽めな感じに?

チャラ男ではございませんよ~

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