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ヒカリとキオク  作者: 有沢 諒
ともだちとこいびと
43/45

不安と不満

翌朝。

いつも通りにリュウと二人で学校に向かう。


駅に向かって歩きながら、つい昨夜のことを思い出して、ため息を吐いた。


「なに、朝からため息ついてんだよ?」


リュウに顔を覗き込まれて。

一瞬、理由を言うのをためらったけど。

でも、隠してもしょうがないかと思って、口を開く。


「あのね、昨日お母さんたちに、私も塾に通いたいって相談したの」

「え?」


リュウはちょっと驚いた顔をしてから、それで? って続きを聞いてくる。


「ダメ・・・っていうか、もうちょっとちゃんと考えてから決めなさいって言われた」


面と向かって反対はされなかったけど、結局は了承をもらえなくて。


「なんか・・・意外だな。おばさんたちなら喜んで通わせてくれそうなのに」

「・・・うん」


そう、私も最初は簡単に許してもらえると思っていた。

今まで、私は何かを積極的にやりたいって言うことも少なかったけど、言えば両親は反対するってことがなかったから。


だけど、昨夜はお父さんに。

「ちゃんと志望校が決まって、それに向けて勉強したいというのなら反対はしない。だが、志望校も決まっていないのに、惰性で塾に通っても効果があるとは思えないな」

って、言われて。


それに「今まで自分でちゃんと勉強をしてきて問題がなかったんだろう?」とも言われて。


確かに、自分で勉強をして今の成績を維持するのに壁を感じたことはない。

塾に行くことが本当に必要かと問われたら、そこまで必要ないというのは間違いようのない事実で。


それにお母さんからも。

「ヒカリが最近、いろいろ積極的になってくれたのは嬉しいのよ。でもね・・・。休日にお友達と出かけたりするのを反対とかはしないけど、塾に行くことになったら毎日遅くなるでしょう? ・・・心配なの」

と、言われてしまって。


リュウと一緒のところに行くから安心してって言えば、お母さんは賛成してくれるかもって、少し考えたけど。


それだと、塾に行きたい一番の理由が『リュウと一緒にいたいから』って、そんな不純な動機なんだって、宣言するようなもので。

それに、自分のそんな身勝手なわがままで、お母さんに心配かけたくないとも思って。

あきらめるしかなかった。


思い出したら、またため息が出る。


「・・・まあ、確かにヒカリは塾行く必要ないもんな。あんま、落ち込むなよ」


リュウが笑って頭をぽんぽんと撫でてくる。


そうされることは好きで、嬉しいんだけど。

一緒にいれなくなって、私は落ち込んでるのに。

リュウは全然そんな感じがしなくて。

少しムッとなる。


そういえば塾に行くことになったことには不満そうだったけど。

一緒に帰れなくなったことには、謝ってたけど、しかたないってすぐに納得したみたいだった。


私ばっかり寂しがってるみたいな気がした。


「今までずっと一人で帰ってたんだし、大丈夫だろ? ・・・っていうか、そんなに俺と一緒に帰りたいの?」


それなのに、リュウは笑顔でからかう口調で。

やっぱり、自分ばっかりリュウと一緒にいたいって思ってるのかなって。


「・・・リュウは同じじゃないの?」


つい、口から零れて。


「は?」


びっくりした顔に、どうしても不満と不安となんかもやもやしたものが湧いて。


「・・・もう、いい」


足を速めると、リュウは慌てたように追ってきた。


「ヒカリ?」


すぐに追いついたリュウに顔を覗き込まれるけど。

絶対に変な顔をしている自覚があったから、顔を見られたくなくてそっぽを向く。


「なんでもないわ」


言ったけど、そんなわけないのはバレバレで。

リュウがため息を吐いた。


その音にびくっとなる。


呆れられちゃったかもって、急に不安が湧いて。

だけど、謝るのもなんか違うし。

なにを言ったらいいのかわからなくて。


結局、リュウもそれからはあんまり話しかけてこなくて、ほとんど会話のないまま学校についた。



**********



「ヒカリ、俺そろそろ行くけど・・・」


放課後、リュウが遠慮がちに声をかけてくる。

その様子に、ついムッとしてから。


「私は一人で帰れるから、大丈夫よ。気にしないで、勉強がんばってね」


言葉ではそう言ったけど、内心は裏腹で。

リュウもきっと気づいてるから、どこか困った顔をしていたけど。

カケル君が遅れると騒ぎだすと。


「・・・じゃあ、気をつけて帰れよ」


こっちを気にしつつも教室を出て行った。


それを確認してから席を立つ。


記憶喪失になる前まではずっとひとりだった。

だから、慣れているはずだ・・・って、自分でも思うのに。

今になってみると、どうやってヒカリさまなんて呼ばれていた自分をつくっていたのかわからない。


「リュウ君とケンカでもしたんですか?」


え? と、思って顔を上げると、カバンを手にしたユリちゃんがそばに来ていて。


「ため息、朝から何度もしてますよ」


どうやら、こっそりため息を吐いていたところを見られていたらしい。


「ううん、ケンカじゃないの・・・ケンカじゃなくて、私がひとりでイライラしてるだけだから」


リュウと恋人っていう関係になって嬉しいはずなのに。

ちょっとしたことで不満を感じたりする自分の感情を持て余してしまっている。


それを自覚してもどうにもできなくて。


「・・・相談、のりましょうか?」


ユリちゃんにはデートの相談をしたり、こうしてちょっとしたことに気付いて声をかけてくれたり、やっぱり身近で一番頼りになる友達だ。


「・・・うん、おねがい」


ありがたいなって思って笑顔を向けると。

少しほっとしたみたいに顔を緩めるから。


・・・もしかして、心配してくれていたのかも。


だとしたら、嬉しいなって素直に思った。



「それで、どうしたんですか?」


聞かれて、どう説明したらいいのかなって悩む。

一緒に帰れなくて寂しい、なのにリュウはそんなこと思ってないってことにイライラしてる。

言ってしまえばそんなことだけで。


・・・やっぱり、リュウじゃなくても呆れられるだけのような気がする。


だけど。

本当はただ、不安なんだってことに気づいてる。


リュウが・・・リュウの気持ちが。


「あのね・・・私、自信がないの。私ばっかりリュウが好きで、リュウはそれほどでもないんじゃないかなって思って」


デートの時に、ちゃんと好きだから、信じろって言ってもらったけど。

やっぱり、ちょっとしたことで自分ばっかり好きなんじゃないかって、どうしても思ってしまって。



「・・・・・・はあ?」


かなりの間の後、ユリちゃんの口から大きな疑問の声が出た。


思ってもみなかった反応に、びっくりして顔を上げると。

本気で驚いた様子で、どこかぽかんとこっちを見ているから、また驚いて。


「え? ユリちゃん?」


声をかけると、ハッとした様子でまじまじとこっちを見るからたじろぐ。


「えーと、ユリちゃん?」


無言で、じろじろ見られ続けるのにはさすがに逃げ腰になりつつ、もう一度声をかけると。


「本気・・・ですよね?」

「え?」


聞かれた意味がわからない。

首を傾げると。


「・・・ヒカリさんて、本当に・・・」


今度はユリちゃんがため息を吐いた。


え? え?


戸惑ってしまっていると。

バッと顔を上げたユリちゃんは。


「安心してください。リュウ君はどっからどうみてもヒカリさんのこと好きですよ」


言い切って真剣な顔を見せる。


だけど。


「・・・そうかな?」


やっぱり納得できなくて、むむうっと口を尖らせてしまう。


すると。


「あ~、その気持ちわかる!」


急に後ろから声がしてびっくりする。

振り返ると、クラスメイトの女子が3人。


「ごめん、話きこえちゃった」


そう言って近づいてきたのは、ヒカリさまをやめた自分に戸惑いつつも最近は普通に話をしてくれるようになってきていた子達で。


「ねえねえ、ヒカリちゃんって呼んでもいい?」


ちょっとびっくりしたけど、親しく接してくれる雰囲気が嬉しくて頷く。


「ごめんね、突然。今の話きいてたら、なんかすっごく親近感わいちゃって。・・・付き合いたての頃って、ちょっとしたことで不安になることあるよね」

「っていうか、ヒカリちゃんも不安になったりするんだね」

「ね~」


教室にはほとんどクラスメイトが残ってなかったから、あんまり気にしてなかったけど、もしかして最初のほうから話をきかれてたのかな?

そう思ったら少し恥ずかしくなったけど。


「・・・みんなも不安になったりするの?」

「そりゃあね。・・・本気で相手のことが好きだったら、不安になるのって当然でしょ? ってゆーか、まったく不安がないなんて言ったらとんだ自信過剰じゃない?」


当たり前よって言う雰囲気に。

自分ばっかり、こんなふうになっちゃうのかと思って、それも不安だったから、皆も同じように感じるんだと思ったら。


「そっか・・・」


ホッとした。


「・・・そういうもんですか?」


ユリちゃんがちょっと納得いかないような顔をしていたけど。


「まあ、相手が好きって言ってくれたら、そんな不安も簡単にふっとんでっちゃったりするけどね」


ふふって笑うこの子はきっと彼氏持ちなんだろうなって思って、頷く。

確かに、デートの時も不安だったけど、ちゃんとリュウの気持ちを聞けて、すごく嬉しかった。


あ、そっか・・・。


あの時、ちゃんとリュウに思っていたことを話して、誤解が解けて、可愛いって言ってもらえて、すごく嬉しくて。

今朝はこんなことを言ったら呆れられちゃうかもって思って言えなかったけど。

本当は、ちゃんとリュウに言えば良かったのかもしれない。


っていうか、本音は。

塾に一緒に行きたいってリュウにも言って欲しかったんだ。

実際は無理でも、そう言って欲しかった。


でもリュウは「ヒカリには必要ないもんな」って言ったから。

余計に自分ばっかりって思ってしまった。

リュウは一緒にいたくないんだって決めつけて。

ちゃんと言えば違ったかもしれないのに。


・・・不安だけど、今日みたいなぎくしゃくした状態ももう嫌だし。

ちゃんと話をしてみよう。



かなり更新が遅くてすみません。

ヒカリさんの後ろ向きっぷりになかなか筆が進まないという・・・しかもシーンぶった切り。次話はすぐにアップする予定ですので。

あ、名前は出てきませんが、今回話に加わった3人は本編の最後のシーンで教室で話をしていたクラスメイトです。

名前つけようか悩みましたが、その辺あっさりしてるのがこの作品の味かなぁとも思ってやめました。

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