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ヒカリとキオク  作者: 有沢 諒
ともだちとこいびと
42/45

受験生

この回からちょっと雰囲気変わるかも。

 週が明けて、授業では中間テストが次々に返ってきた。


 記憶喪失になったりで、少し心配したけど、短期間だったし、なんとか結果はいつも通りって感じでホッとする。


 だけど。

 放課後、全部の結果が出るころにホームルームで配られる校内順位の紙を見て、リュウが顔をしかめていた。


「ヤバい、過去最低だああぁぁ。まぐれでも成績上がれば塾通い免除してもらえるかもって期待してたのにぃぃ」


 隣で、いつもどおりカケル君が騒いでいて。


「リュウは? 結果どだった?」


 ため息交じりのカケル君の質問に。


「俺も・・・」


 って、なんか元気のない様子が気になって。


「リュウ? そんなに悪かったの?」


 声をかけると、仏頂面になる。


「あ~、確かに悪いんだけど・・・そうじゃなくて」


 リュウは悔しそうに頭を掻くと。


「・・・ごめん、ヒカリ」

「え?」


 突然、謝られて驚く。


「俺、来週からカケルと一緒に塾通い決定。ヒカリと帰れなくなった」

「・・・え?」

「母さんと売り言葉に買い言葉で約束しちまったんだよ。100位より下だったら塾に行くって」


 ぴらっと紙を見せられて。

 103位っていう数字にびっくりする。

 リュウはだいだい中の上ってくらいの成績で。

 順位だって、50~60くらいはいつもキープしてたのに。


「ちょっと自信なかったけど、ここまで下がるなんて思ってなかったんだよな」


 珍しく落ち込んだ様子に。


「塾って・・・もしかして、平日は毎日?」


 カケル君がそう騒いでいたのを思い出して。


「そ。とりあえず夏休みに入るまでずっと。期末の成績しだいじゃ夏休みもないかもな・・・」


 どこかあきらめた様子に、リュウのお母さんを思い出す。


 うちのお母さんとは違って、すっごくはきはきして姉御肌って感じの人で。

 単純に怒ると怖いってわけじゃなくて、ちゃんとリュウの意見も聞きつつ、最終的には自分で決めさせるって叱り方だから。

 きっと今回も、ちゃんと自分の進路を考えるなら自分でしっかり勉強しなさい、できないなら塾通いよって、そんな感じでリュウを説教したんだろう姿が目に浮かぶ。


「そっか・・・」


 一緒に帰れないのは寂しい。

 どうしても落ち込んだ声が隠せなくて。

 でも、リュウが困ったみたいに眉を下げたのを見て、ハッとして。


「私のことは気にしなくて大丈夫だから。勉強がんばって」


 なにか言いたげだったから、先に念を押す。

 リュウはどこか不満そうな様子だったけど。

 塾通いが決定事項なのはどうにもならないから、あきらめたみたいで。


「今さら愚痴ってもしょうがねーよな。・・・帰るか」


 いまだに机に突っ伏したままのカケル君や、それを呆れたように見ていたユリちゃんたちにバイバイして教室を出る。


 塾か・・・3年になったばかりなのに通わせるってことはリュウの志望校のランクって高いのかな?

 ちょっと気になって。


「そういえば、リュウは志望校とか決まってるの?」

「ん? いや、具体的には全然・・・ヒカリは?」

「私? 私もまだ志望校は決めてないけど・・・」


 質問を返されてちょっと迷う。

 まだ、はっきり決めたわけじゃないけど。


「ちょっと気になる仕事はあって・・・」

「仕事? それって将来のってこと?」

「うん。・・・司書なんだけど」

「ししょ?」


 きょとんとした顔をするから、苦笑して。


「ほら、図書館にいる」


 昔から、本を読むのは好きで、図書館の雰囲気も好き。

 そういう場所で働けたらなあって漠然と思っていた。


「ああ、司書か。・・・って、どうやってなんの?」


 聞かれて、ため息をつく。

 気になりだした頃に調べて知ったんだけど。


「それがけっこう難しいみたいなの。資格はそうでもないけど、あんまり求人がないみたいで。・・・前に、進路指導の先生に相談したら、できるだけ偏差値の高い大学を出るのがいいって言われて」


 狭き門だから、学歴も大切ってことらしい。

 つぶしがきくように、司書とは関係ない専門分野の勉強もしっかりしておいた方がいいとも。

 司書が無理なら、英文とか翻訳みたいなのも面白いかもって思ったり。

 どこの大学に行きたいとか、まだ明確には決まってないけど。

 なんとなく考えていた。


「そっか・・・」


 呟いたリュウは急に無口になって。

 眉間に皺を寄せて、なにか考え込んでるみたいになった。


「リュウ?」


 声をかけると、ハッとした様子で。


「・・・いや、さすがに3年になって成績下げるとかヤバかったなって思ってさ。塾とかマジかって思ってたけど、ちょっと本気出してみるわ」


 さっきまでは不満そうだったのに、どこか吹っ切った様子で。

 急な変化には驚いたけど、やる気が出たのは良かったなって思って。


「・・・うん、がんばって」


 一緒に帰れなくなって寂しい気持ちは変わらなかったけど。

 やる気になったリュウの気持ちを応援したいのも本当で、それを折るようなことはしたくなかったから。

 笑ってそう言ったんだ。



 **********



 その週末に、私は携帯を買ってもらった。

 お母さんに買ってほしいと言ったら、拍子抜けするくらいあっさりOKをもらって。

 逆に、そろそろ必要じゃないの?って聞こうと思ってたくらいよって笑われてしまった。


 日曜日の夜に、いつもみたいに部屋にきたリュウに設定とかいろいろやってもらって。

 リュウやサツキちゃんのアドレスも入れてもらった。


「明日から一緒に帰れねーけど、塾終わったらメールするし、夜にはここに来るからさ。・・・あんま、しょげんな」


 言いながら頭を撫でられて。

 寂しいって気持ちがバレバレだったんだって気づいて赤くなる。

 恥ずかしくなって。


「リュウも塾のカリキュラムがきついからって、カケル君と一緒にサボったりしたらダメだからね」


 ちょっとからかう口調で言うと。


「あ~、俺はしないけど、カケルはわかんないな。あいつ、本当に勉強に向かないから」


 呆れたような声に、そんな言い方だけど、心配してるのかなって思って。


「勉強に、向き不向きなんてあるの?」


 首を傾げると。


「・・・俺、ヒカリ見てると、そう思うんだけど」

「え? 私?」


 思ってもみないことを言われた。


「お前、基本的に勉強するの嫌とかって思ってないだろ? そういうところ真似したくても無理だからさ」


 確かに勉強をするのは嫌いじゃない。

 知らないことを知るのは面白いし。

 わからないことを調べて理解できたら嬉しいし。


 ・・・ほかの人は違うのかな?



 **********



 リュウが自分の部屋に帰ったあと、さっそくサツキちゃんにメールをした。

 携帯を買ったという報告をしないと、リュウのほうにかかってきても迷惑かなって思って。

 慣れない手つきでメールを打って、なんとか送信する。


 すると、急に携帯が鳴って。

 びっくりして、携帯を落としそうになりながら、画面を見るとサツキちゃんからで。


「は、はい?」


 慌てて出たら、ちょっと声が裏返っちゃって。

 電話の向こうでサツキちゃんが。


『ごめん、驚かせちゃった?』


 ちょっと笑いを含んだ声で言って。

 うっわ、恥ずかしいっ。

 思わず赤くなりながら。


「ううん、大丈夫」


 答えたけど、きっとバレバレなんだろうなって思った。


『ごめんね、急に。ヒカリが携帯買ったって知って、遠慮なくかけれるって思ったら我慢できなくて』

「ううん、かけてくれてありがとう」


 リュウは気にするなって言ってくれたけど、やっぱり携帯を借りるっていうのは気を遣う。

 私もだけど、サツキちゃんだってそれはきっと同じだったんだろうなって思った。


『それに、ちょっと息抜きしたくって』

「息抜き?」

『うん、勉強の』

「勉強って、受験勉強?」


 中間とか期末とかのテスト日程は、どの高校も大して違いはないから、今勉強するってことはテスト勉強じゃないんだろうなって思って。


『そうよ。私の行きたいとこ、今の成績だとちょっと微妙なんだよね』

「それって、志望校がちゃんと決まっていて、それに向けて勉強はじめてるってことだよね。・・・すごいなあ」


 さすがはサツキちゃん、って思っていると、苦笑が落ちてきて。


『ヒカリはまだ決まってないの?』

「うん・・・」


 聞かれて、リュウに話したのと同じように司書になりたいから、できるだけ上の学校を目指すつもりだと伝えると。


『そっか、ヒカリ中学んときから勉強できたもんね。私の行きたいところもヒカリなら余裕かも』

「え? そんなことないでしょ? サツキちゃんのほうが勉強できたじゃない?」


 本気で中学生の時にサツキちゃんより成績良かったなんて記憶はない。


『私、高校に入ってからサボっちゃったからね・・・今になって焦っちゃってるの。今、平日は塾にも行ってるんだ』


 塾って単語にドキッとする。


 記憶をなくしてからこっち、リュウと一緒に帰るのが当たり前になっていて。

 それは、ちょっと照れもあるけどそれ以上に嬉しくて。

 家に帰って部屋でも会うけど、それとはまた違っていて。


 一緒に同じものを見て、笑ったり。

 突然、目の前に飛び出してきた猫にふたりで驚いたり。

 そういう二人だけで共有できる時間が増えて。

 二年間、普通に登下校していた道のりが、ただリュウと一緒にいるだけで特別なものに感じられた。


 それに、一緒にいてもいいんだって、なんか周りに認められたみたいな、そんなよくわからないけど、嬉しい気持ちも湧いて。

 わがままだってことはわかってるけど、やっぱり寂しかった。


『ヒカリ? どうかした?』


 心配そうな声にハッとなる。


「あ、ごめんなさい。・・・ちょうどリュウも明日から塾に通うことになって、それ思い出しちゃって」


 言いながら、つい気持ちも落ちてため息をつく。

 すると。


『あぁ、塾に通いだしたら会える時間減っちゃうもんね。寂しいんでしょ、ヒカリ』


 ちょっとからかう口調に、むむうとなる。


「・・・そんなこと・・・ないもん」


 否定しても、やっぱりバレバレだったみたいで、くすくす笑う声。


『でも、それならヒカリだって同じ受験生なんだし、一緒に塾に通うとかしたらいいんじゃない?』


 え? 一緒に通う?


 サツキちゃんの言葉に、はじめてそういう選択肢もあったんだって気づく。

 お金もかかるだろうから、今すぐ一人では決められないけど。


『進学するって決めてるんなら、一度行ってみても損はないと思うわよ。みんな真剣に勉強しに来てるから、けっこういい刺激になるし。志望校が決まってないなら講師に相談するとかっていうのもアリだしね。塾は受験のプロみたいなものだし、学校の先生以上に頼りになるかもしれないわよ』


 言われて、なるほどと思う。


 実際、今の担任教諭は信頼に足る人物ではないし。

 志望校を決めるきっかけになるかもしれないと思った。


「・・・ちょっと、親に相談してみようかな」

『そうね。通えるといいね』

「うん、ありがとう」


 さて、もうちょっと勉強してから寝ようかなって、サツキちゃんが言って。

 がんばってね、おやすみと言って電話を切ると。

 さっそく親に相談するために部屋を出た。



 **********

受験生なので、恋愛ばっかってのもね・・・っていうか、基本ヒカリとリュウが真面目っ子なので、話題にしないのも変って感じになってしまって、だったらと思ってしっかりお話に組み込むことにしました。


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