不安と気遣い
サブタイトルに悩みました(^^;
「ユリちゃんがヒカリと一緒にいてくれるなら安心だな」
ホームルームが終わって、一時間目が始まるまでの合間に、リュウとさっき担任に保健委員と呼ばれていた女の子が自分の席まで来てくれた。
リュウの台詞で、その子の名前がユリだと知る。
そういえば、写真で見た気もするけど、あまり印象にない。
たぶん、おとなしそうな子だから写真でも目立たなかったんだろう。
「ごめんなさい。迷惑かけると思うけど、よろしくね」
「え? いえ、そんな・・・」
ユリちゃんはすごく驚いたような顔をして、目を逸らす。
・・・なんだろう、違和感を感じる。
自分が記憶喪失だとかだからではなく・・・どこかよそよそしいというか、普通のクラスメイトに対する態度とは思えなくて。
もしかして、ヒカリって嫌われてたのかな・・・?
医師の言葉を思い出す。
『なにかしら、強いストレスがあったんだと思います』
そのストレスの原因が、学校での孤独だったとしたら・・・。
不思議はない・・・どころか納得できる。
だけど・・・。
少し、視線を上げてリュウを見る。
「そういえば・・・皆に秘密にしてたの? 幼馴染なこと・・・」
リュウからはそんな嫌われているとか感じたことがなかった。
普通に友達な雰囲気だと思っていたから。
でも、もしかしたら、リュウは皆から嫌われているヒカリと親しいと知られたくなかったから秘密にしていたのだろうか?
不安でぐるぐる考えてしまって、今言葉にしたことにすら後悔してしまう。
「・・・ああ、お前が・・・っていっても覚えてないんだろうけど・・・恥ずかしいから皆には内緒にして、学校では気安く話しかけないでって言ったんだよ」
「・・・え?」
驚いて瞬くと。
「・・・理由とか聞くなよ? お前がなんでそんなこと言ったのかまでは、聞いてないからな」
リュウは苦笑して、頭を掻く。
「まあ、家じゃ普通だったし、別に気にしてないから」
笑いかけてくれたけど、逆にそれは気にしてたって事じゃないかと思った。
だって、私もさっきまで、リュウが嫌われているヒカリと距離を置きたくて秘密にしてたんじゃないかと思って、悲しかったから。
ヒカリはどうしてそんなことを言ったんだろ・・・。
「ごめんなさい・・・」
意味もわからずに謝るのは本当はずるいのかもしれない。
だけど、やっぱり申し訳なくて、ほかになんて言ったらいいのかわからなかった。
**********
「大丈夫そうか?」
一時間目が終わって、リュウが声をかけてくる。
「あ、うん。問題なさそう。普通に授業についていけてるし」
いちおう自分以外のことはわかるといっても、実際に授業についていけるのかは不安だったので、だいぶホッとして笑みを向けた。
リュウはちょっと瞬いてから、そっかと笑い返してくれる。
「ヒカリさん、学年トップの成績だから、当然じゃないですか?」
ユリちゃんも来てくれる。
さすがに面と向かって『ヒカリさま』呼びはしてこないけど、さん付けも距離を感じるなあと少し寂しく思う。
けれど、今までの周りの様子を考えれば、先生に言われたからといっても自らこうして来てくれるだけでもありがたいとも思う。
別に困ったときだけでもいいのに・・・優しくてまじめな子なんだなと思った。
それにしても・・・。
「学年トップって本当?」
そんなに勉強できるのか・・・でも、確かに記憶が曖昧なのに授業についていけるのだから、本当なのかもしれない。
「ああ、毎回じゃないけどテストじゃほとんど一位だったな。・・・でも、お前、家じゃ予習復習オニみたいにやってたからな~。まあ、当然じゃねえの?」
「え、そうなんですか?」
ユリちゃんが目を丸くする。
って、ことは家ではガリ勉してるけど、学校じゃそんな雰囲気をみせなかったってことだろうか?
もしかして、ヒカリって・・・。
「なんか、見栄っ張りみたい・・・」
親しい友達もいないし、影でこっそり勉強して学年トップになって、あげくにリュウには近づくなとか。
何様って感じ。
ため息をつくと、ユリちゃんがまた驚いたような顔で。
「・・・ヒカリさん、なんか別人みたいですね」
言われて、またドキッとする。
リュウにも言われた言葉。
やっぱり、今の自分と本当のヒカリは違いすぎるんだ。
記憶がないとかそういう問題じゃなくて。
たぶん、性格が違いすぎるってことだ。
もしかしたら、本当に今の自分はヒカリとはまったく関係ない人間なのかもしれない。
でも、どうしたら元に戻れるのか、そもそも自分が誰なのかすらわからない。
指先の力が抜けるような感覚がした。
この場所に、自分は確かにいるのに、急に現実味がなくなる。
「ヒカリ? お前、大丈夫か?」
不意に顔を覗き込まれて。
え?
驚いて顔を上げると、少し視界が揺れた気がした。
倒れずにすんだのは、自分の席に座っていたからだ。
少し意識して、机についた腕で体を支える。
「顔、真っ青だぞ?」
リュウが眉間にシワを寄せていて、それは心配しているのか怒っているのかわからないような表情で。
だけど、それを見たらなぜだか少し落ち着いた。
なんだろう・・・懐かしいような気がして。
「なんでもないわ。・・・ほら、そろそろ次の授業が始まるんじゃない?」
言うと、本当に次の授業の先生が教室に入ってくるところで。
ユリちゃんとそれから、こっちの様子を興味津々と言った体で見ていたクラスメイトが慌てて自分の席に戻っていった。
リュウは少しためらった顔を見せて、それでも先生が席につけと声をかけると、しぶしぶと自分の席に座った。
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放課後。
ホームルームが終わって、ほっと息をつく。
とりあえず、授業は問題なくこなせた。
二時間目が始まるときに感じた不調も、授業が始まって集中しだしたらいつの間にか治っていて。
先生たちも自分の状況は知っていてくれているから、今日のところは問題を当てられたりすることもなかったし。
昼は友達もいないし、まさかのボッチ飯か? と、思った不安も、リュウとユリちゃんが気を遣って一緒にしてくれて免れた。
ただ、お弁当を食べたあとに、時間が余ったから二人が校内を案内してくれると言ってくれたけど、それは遠慮した。
なんとなくだけど、朝みたいにやたらと人の視線を集めそうな気がして・・・。
きっとそれは考え過ぎじゃないことは、今ですらクラスメイトの視線を感じていることで説明がつく。
「じゃあ、帰るか」
リュウが声をかけてくれる。
だけど。
「リュウ。私、一人で帰れるわ」
今日一日教室で過ごすうちに、ずっと言おうと思っていたことを口にした。
「明日からは朝も一人で大丈夫だから」
朝の電車のこともそうだけど、なんだか普通じゃないヒカリの状況。
教室にいるだけでもなぜか周りの視線を集めてしまって居心地悪いし。
きっと、一緒に居たらリュウに迷惑がかかる。
それだけは感じていたから。
心配をかけたくなくて、笑顔を向ける。
だけど、リュウはすっと表情を消すと、じっとこちらを見る。
真顔で、それは怒っているみたいに見えて、どきっとする。
「・・・お前さ、」
言いかけて、なんだろう言葉が見つからないみたいに迷った表情で少し視線をそらして。
「・・・変な遠慮するなよ。朝も言っただろ。こんなときくらい頼れよ」
だけど、それは朝と違ってどこか自信なさ気な感じで。
「でも・・・」
「でもじゃねーよ。お前、自覚なさそうだから言うけど、なんか危なっかしいんだよ。校内はともかく登下校は絶対一緒に行くからな」
本気で怒ったような口調で言い返されて、思わずぽかんとする。
というか、言われた内容に首を傾げる。
「危なっかしいって・・・?」
見上げると、リュウはなぜかさらに不機嫌そうな顔になって。
「いいから、とにかく帰るぞ!」
言うなり手を掴んで歩き出す。
もちろん、そんな様子もずっとクラスメイトの視線の中で。
リュウが手を掴んだ途端にえっとかおおっとか、ざわめきが上がっていたのだった。
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文字数が適当です。
ページ数ばっかり増えそうな予感(^^;
読みにくかったらすみません。