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ヒカリとキオク  作者: 有沢 諒
きおくそうしつ
3/45

初登校

 ゴールデンウィークが明けて、登校初日。

 朝から緊張が隠せないでいた。


 結局、記憶はなにも変わらないままで。

 アルバムや2年のときに行った修学旅行の写真などで、一応は先生やクラスメイトの顔をリュウに教えてもらったけれど。

 実際には会ったことのない知らない人たちの中に突然放り込まれることに違いはなくて。

 どうしたって、不安がぬぐえなかった。


 母親が「先生には説明しておいたから」と、言ってくれたけど。


「ヒカリ、リュウ君がきてくれたわよ」


 学校への行き方すら忘れてしまっている自分のために、リュウが一緒に登校してくれることになっていた。

 さすがにいかないわけにはいかない。

 覚悟を決めて家を出る。


「・・・おはよう」

「おう」

「リュウ君、ヒカリをよろしくね」


 母親が見送る中、二人で学校に向かう。


「えっと、ここから駅まで歩いて、それから電車で学校前の駅まで・・・30分くらいだったわよね?」


 教えてもらった道のりを復習がてら言葉にする。


「そう、道のりは単純だけどな・・・ちょっと電車がキツイかも」

「けっこう混むの?」

「ああ、この時間帯だと確実に満員電車だ」


 それは、嫌だなと思う。

 更に行くのが嫌になってため息を吐くと。


「・・・そういやお前、なんかいつもと雰囲気違うな」


 突然言われてドキッとする。


「え? なにか変かな?」


 高校の制服だと教えられたセーラー服を着ているが、セーラー服の着方がなにか違ったりするのだろうか?

 制服の裾をつまんで見回すと、リュウが首を振る。


「違うって、制服じゃなくて・・・いつも、ここんとこの髪をまとめて後ろで留めてただろ」


 リュウが耳の上辺りを指差したのを見て、ああと思う。

 写真でも見たのでわかった。

 ヒカリはいつも、後ろの髪を残して横の髪をまとめてバレッタを使って留めていた。

 部屋には何種類かのバレッタもあったし、母親にも髪をまとめないの? と、聞かれたりもした。


 だけど、それも自分のものとは思えなくて手が出せなかったのだ。


 ただの髪を留めるだけのものだけど。

 もしかしたらヒカリにとって、何かしら思い出のあるものかもしれない。

 そう思うと、部屋の中のものを勝手に使うのが怖くて。

 服とかは着ないわけにはいかないので、必要最小限は借りておこうと思うけれど。

 必要に迫られないものは出来るだけ動かさないようにしようと思った。


 この制服だって、本当はヒカリのもので・・・。


「私のものじゃない・・・」


 できれば、服とかも新しく買いなおしたくらいだけど・・・。

 さすがに、両親に無駄にお金を出させるのも申し訳なくて言い出せずにいた。


「ヒカリ?」

「え? あ、ごめん。なんでもないわ。・・・髪は、まとめるのが面倒だっただけよ」

「・・・そっか?」

「そうよ」


 リュウとはゴールデンウィーク中に何度も話したのでだいぶ慣れていた。

 それでも不安はなくならなかったけれど、なるようになるしかないとも思って、学校に向かった。



 **********



「私、毎日こんな大変な目にあって学校に通ってたのかしら?」


 満員電車から抜け出して、思わず呟く。

 リュウが少しかばってくれたけど、ぎゅうぎゅうの人の圧に精神的ダメージが大きい。


「・・・明日から、もっと早い時間のにするか」


 リュウも疲れきった様子で。


「一人ならともかくお前かばいながらはキツ過ぎだわ」


 ? それって・・・。


「もしかして、私いつもはもっと早い電車に乗ってたの?」

「そうだよ。俺と一緒の時間になることなんてなかったな」


 いくら幼馴染でも高校生になって一緒に登校なんて普通あるわけない。


 付き合ってるとかならともかく・・・リュウとヒカリの間にそんな雰囲気があるようにはこの数日だけでも思えなかった。

 良くても兄妹みたいな関係?


 駅を抜けて、すぐ近くにある高校に向かう。

 さすがに、周りにも同じ高校の生徒がたくさんで、少し緊張する。

 それと同時に、リュウに申し訳なくなった。


「じゃあ、明日からは一人で行くわ」

「え? なんで?」

「だって、一緒に行くためにリュウに早起きさせるの悪いし・・・それに、一緒に登校なんて・・・誤解されたりして迷惑でしょ」


 リュウは少し驚いたように瞬いて。


「お前、バカだな~」


 言いながら、後ろ頭をぽんぽんと優しく撫でられる。


「大変なことになってんのはお前なんだから、俺のことなんて気にしなくていいんだよ。・・・それに、お前のほうが、誤解されたくないやつがいるだろ?」

「え?」


 なにそれ。その言い方だとヒカリには恋人が居るみたいな・・・。


「お前・・・セイに会ってないのか?」

「え? 会ったけど・・・」


 セイがなに? だって、いとこだって・・・。


 だけど、そういえばただのいとこが階段から落ちたくらいで病院まで見舞いに来るのかと思ったし、別れ際に「また今度にしよう」なんて、含みを持たされたりもしたけれど。

 でも、けっきょくこの連休中にはまったく顔を出さなかった。


 そんな人がヒカリの恋人だなんてことがあるんだろうか・・・?


「ま、いっか・・・そんなことより学校、着いたぞ」


 気づくと校門の前だった。


「まずは、担任のとこに行くんだったか・・・職員室、案内してやるから」

「あ、うん。お願い」


 足を速めるリュウを追って、少し駆け足で昇降口へ向かった。



 **********



 そこからは戸惑うことばかりだった。

 まずは昇降口で、自分の下駄箱がわからない。

 リュウに教わって、上履きに履き替えて職員室へ。

 そこで、担任の先生に会うも、なんだか気弱そうな中年太りの男性教諭は。


「大変だったな。まあ、お母さんから事情は聞いているが・・・普通の学校生活は送れるってことでいいんだな?」

「はい、一応・・・」

「それなら、わからないことはクラスメイトに聞くように。皆にはホームルームで説明するから」

「・・・はい」


 なんだか、自分には相談するなと遠まわしに言われているような気がした。

 こうして話をしていても目線も会わせないし。

 不信感と不安が増した状態で職員室を後にする。

 廊下で待っていてくれたリュウと一緒に教室へ。


 途中、すれ違う生徒たちの視線を感じて緊張する。


 ・・・なんか、やたらと見られているような・・・?


 駅から学校までの間でも、少し視線を感じるなとは思ったけれど、校内での視線はそれよりもはるかにあからさまに感じる。


 なんなんだろう、これ・・・。


 リュウに聞こうかと思ったけれど、なぜかリュウは視線を感じても平然としている・・・というか、丸無視で。

 これは、こういう視線を感じても気にしないというか、日常茶飯事なのかなと思わせた。


 なんだろ、リュウって学校の有名人とかなのかな?


 けれど、聞こうか迷っているうちに教室に着いてしまった。

 リュウに続いて教室に入る。


「はよ~」

「おはよう」


 リュウの気の抜けたような挨拶につられて簡単に挨拶を口にした。

 けれど、それまでざわざわとしていた教室が一瞬で静まり返る。


 ・・・え?


 あまりの急な変化に、びっくりして固まる。

 リュウがため息を吐いて。


「ヒカリ、お前の席あそこな」


 指を差す。


「・・・ありがとう」


 なぜか静まり返ってしまった教室で、ちょっとびくびくしながら教えられた席に着く。

 すると、またざわざわと話し出す。

 だけど、その内容が・・・。


「なんか、今日のヒカリさま、いつもと雰囲気違わない?」

「ていうか、なんで二人で登校?」

「さっき、校門前でいちゃついてるの見たってウワサだよ?」


 女子たちのヒソヒソ話。


 っていうか、めっちゃ聞こえてるんですけど・・・。

 それに。

『ヒカリさま』って、なに??


  で、男子のほうも・・・。


「リュウ、どういうことだよ!?」


 リュウは自分の席らしいところで、数人の男子に囲まれていた。


「・・・なにが?」

「なにがって、ヒカリさまと一緒に登校してきたんだろ?」

「あ~、ちょっと理由があって・・・」

「理由?」

「・・・ま、それはおいといて。・・・俺たち家が隣の幼馴染だし、一緒に登校するくらい別に変じゃねえだろ」

「はあ? 幼馴染って、初耳なんですけど!?」


 男子たちのやり取りも意味不明。


 っていうか、ヒカリとリュウが幼馴染って、もしかして皆は知らないの?

 秘密にしてたってこと?

 なんで??

 意味がわからない。


 それにしても・・・。

 ヒカリって学校に友達いなかったのかなあ?

 リュウみたいに直接話しかけてくるクラスメイトもいないし、針の筵のような視線を浴びて、ものすごく居心地が悪い。


 そして、ようやく担任が教室に入ってきた。

 で、始まったホームルームの中で、私が記憶喪失になったことと、皆でフォローするようにと言われるとクラスが一気にざわめく。


「マジで? 信じられない・・・」


 という声や。


「確かに、なんかいつもと違うよね・・・」


 なんて声が聞こえてくる。


「そんなマンガみたいの本当にあるんだ・・・」


 それは同意しなくもない。

 っていうか、記憶喪失以前にヒカリの学校生活って普通じゃない感じがひしひしするんですけど?

 ここにきて、不安倍増で俯いた顔が上げられない。


 ため息をつくと、不意にざわめきが静かになる。

 なんだろうと思って顔を上げると。

 皆がこっちを見ていてびっくりする。


 ええ? なに?


「あ~とりあえず、誰か率先して面倒を見る人間が必要だな。・・・学級委員は男子だから・・・保健委員、よろしく頼む」


「は? え? 私ですか??」


 指名されたらしい女の子が声を上げる。

 眼鏡をかけた、肩くらいで切りそろえられた黒髪の、おとなしそうな女の子。

 確かに、いくら自ら頼れと言ってくれたとしてもリュウは男子で、なかなか聞きにくいこともあるし、女の子の相談相手がいるのは助かる。


 ・・・ホントは仲のいい友達がいればそんな心配もないんだろうけど。

 本当にヒカリってどんな人だったんだろ・・・?


 どうしたって自分とは思えないヒカリという人間。

 でも、悩んでも答えが見つかる訳もなくて、心の中で溜め息を吐いた。



 **********

ヒカリさま・・・自分でもなんでこんな設定をしたのか・・・(汗)

超美人な主人公を書こうと思ったら、なんかこんなことになってました(爆)

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