気づいてなかった罪
「あの~、ちょっと質問いいっすか?」
と、急にクラスの男子の一人が声をかけてきて。
衆人環視の中だったことに改めて気づかされて、ぱっと手を放す。
「なんだよ、カケル?」
声をかけてきたのはリュウといつもつるんでいる、カケルだった。
たぶんこのクラスでは一番仲が良い。
ちょっと小柄で、いつもにこにこしている印象。
髪の毛も少し色素が薄くてふわっとしていて、いろいろリュウとは正反対のタイプ。
なのにいつも一緒にいるので、見た目は正反対でも気が合うらしい。
「リュウには聞いてないっての。ヒカリさ・・・んに、話してんだからさ」
今、さまって言いそうになってなかった?
少し、おっちょこちょいというか、そういうところもリュウとは違っていて、だけど愛嬌があって許せちゃう不思議な子だ。
そういえば、記憶喪失になってから初めて登校したあの日、リュウに真っ先に詰め寄ってたのってカケルだったな。
リュウに「幼馴染だなんて聞いてない」って、ちょっと怒ったように言っていたのを思い出す。
あ、そっか・・・。
私、リュウに幼馴染ってことを言わないでって強要して、無理やり嘘を吐かせてたんだ。
ただ、自分が逃げるためにつくりあげた「ヒカリさま」ていう存在を守るために。
そんなことのために、リュウに負担をかけていたなんて・・・それに気付きもしなかった自分が本当に嫌になる。
「えっと、質問ってなあに?」
リュウが平気な顔をしていたから気付かなかったなんて言い訳だ。
気付かせなかったのはリュウの優しさだろう。
本当にいつも甘えてばっかり・・・もう少し自分でちゃんとしないと。
思って、カケルと向き合う。
と。
「記憶戻ったって言うけど、記憶のない間のことって覚えてるもんなの? 俺、忘れちゃうもんだって思ってたんだけど? っていうか、ぶっちゃけ記憶なくなるってどんな感じ? あと、いまだに信じられないんだけど、リュウと幼馴染ってマジ??」
矢継ぎ早に言われてあっけに取られてしまう。
思わずぽかんとしていると。
「お前、ちったあ遠慮しろ。つか、俺とヒカリが幼馴染だってのは本当だって、なんど言えば信じるんだよ」
リュウが呆れた様子で。
「だって、マジ信じられねえんだもん」
ぷうっと頬を膨らませる感じがなんか可愛い。
思わず、くすっと笑って。
「本当よ。10年前から隣同士なの」
「えっと、じゃあ・・・もしかして、遊びに行ったときリュウの部屋から見えたお隣さんが、ヒカリさんちってコト?」
「うん、そうね」
「えええ!? ヒカリさまって豪邸に住むお嬢様とかじゃないの!?」
いきなり大声を上げるからびっくりしてしまう。
リュウが呆れたみたいに。
「んなワケあるか。だいたい、そんなお嬢様がこんな普通の公立校に来るわけねーだろ」
頭を抑えて呟く。
っていうか、思いっきり「ヒカリさま」呼びしてるけど、無意識なんだろうなあ・・・。
思わず苦笑してしまう。
「うん、ごめんなさい。・・・今までみんなを騙してるみたいになっちゃって」
カケルやユリちゃん、あと周りでこっちを見ているクラスメイトのひとりひとりの顔をゆっくり見ながら続ける。
「前の私は、リュウが言ったみたいに猫をかぶっていただけっていうか・・・本当の自分を出すのが怖くて、ただ必死に取り繕ってただけで」
聞いているみんなが驚いたように固まっているのを見て、逆に冷静になる。
本当はここまで言うつもりはなかったんだけど。
「記憶がなくなったのも、けっきょく自分だけは騙せなくなったってことなんだと思う。もう限界だって。・・・だから」
やっぱり、これは自分を偽り続けた私がちゃんと周りに言わないといけないことだと思って。
騙そうと思って騙したわけではないけど、嘘を吐き続けたのはやっぱり私で。
無意識でもリュウにまで強要してしまっていたのは事実で。
だから、例え許されなくても言わないといけないんだって思った。
「もう二度と、みんなが「ヒカリさま」って呼んでた自分に戻るつもりはないの。・・・騙されてたって非難されてもしかたないって思ってます。ごめんなさい」
頭を下げると、ざわざわと話し出す気配。
みんな驚いている雰囲気で、頭を上げてもうつむく顔を上げられなかった。
すると。
「ヒカリさん、顔を上げてください」
ユリちゃんの声がして、上を向くと同時にぎゅっと抱きしめられる。
「ユリちゃん?」
戸惑って、声をかけると、今度はばっと体を離して。
「そんなの、気にする必要ないです。誰だって、本音と建前なんて使い分けてるものなんだから」
真剣な顔をして言ってくるから驚いてしまう。
「そだな。ヒカリのは詐欺師レベルってだけで」
「リュウ君は余計なちゃちゃを入れないでください」
ピシリと言ってリュウを黙らせて。
「だいたいヒカリさま呼びとか、お嬢様じゃないかとか、勝手に周りが想像して騒いでただけなんですから、そんなのまで責任を負う必要はないです」
「え? でも・・・」
「ああ、もう! なんかヒカリさんってお人よし過ぎです! 騙されたとかいう人は勝手に言わせておけばいいんです!」
なぜか、怒り出すユリちゃんに本気で意味がわからなくて、目を白黒させていると。
「ああ、それ同感。もっと言ってやってよ。俺が言っても信じないからさ」
リュウまで便乗してきて、完全に混乱の域だ。
「え、だって・・・」
「「だってじゃねーよ」ないです」
言い訳しようとしたら、二人の息の合った突っ込みに遮られて。
納得いかないけど、口をつぐむ。
すると。
「なんか、文句言いたげですね」
「ああ、ぜってー納得してないって顔だな」
・・・なんか、二人とも息が合いすぎじゃないの?
更になにも言えなくなって、むくれていると。
「ああー、わかった! なるほどね!」
急にカケルが声を上げてびっくりする。
カケルはなんだか楽しそうな笑顔で。
「ようやく納得した。なんだあ・・・ヒカリさんって普通なんだな!」
リュウとユリちゃんはなんだか呆れたような表情をして。
「今までも、たまに思ってましたけど・・・・カケル君って、ちょっとおバカですよね」
「ああ、面白いヤツだけどな・・・たまに本気で脱力するくらいには」
ぼそっと二人が呟いた。
・・・なんかリュウはわかるけど、ユリちゃんも意外に毒舌なのね。
聞こえなかった様子のカケルはそのままの笑顔で。
「じゃ、俺も友達に立候補する。いいよね?」
勢いに押されて、頷きそうになる。
と。
「あ、それダメ」
リュウが即座に拒否る。
は?
なんでリュウがダメ出し?
びっくりしてぽかんとしていると。
「なんでリュウが決めるんだよ!?」
さすがにカケルも怒った様子で詰め寄るが、リュウはちょっと面倒そうに溜め息を吐いて。
「女子はいいけど、野郎はダメだ」
「だから、なんでリュウが・・・」
「俺たち、付き合ってるから」
言いながらリュウが肩を抱いてくる。
急だったから、足がもつれて倒れこむみたいにリュウの胸に手をついて。
あれ?
と思った瞬間。
「えーっ!?」
「ウソ! マジで!?」
「ただの幼馴染じゃないの!?」
「ヒカリさまに彼氏! しかもリュウって!!」
クラス中に悲鳴と怒号が湧き上がった。
本気でびっくりしてリュウにぎゅっとしがみつく。
と。
「え・・・冗談だろ。・・・て、ええ!? マジか!」
カケルが急にこっちを見て赤くなって。
え? っと思って、自分を見ると。
リュウにしがみつくような格好で、しかもいつの間にか、リュウの手が腰に回っている。
顔を戻すと、赤くなっているカケルと目が合って。
な、な、なああああああああぁ!?
沸騰したヤカンみたいに頭から湯気が出るような感覚がして。
もう、火事場のバカ力みたいな勢いでリュウを突き飛ばす。
「うわっ痛ぇ! いきなりなにすんだよ!」
尻餅をついてこっちを睨んでくるリュウに、更にカーッとなって。
「こういうのダメって言ったじゃない! もう、人前で触るの禁止!!」
思わず叫ぶと、急に周りがシーンとなって。
え?
と思って固まっていると。
「・・・それって、人前じゃなきゃオッケーってコト?」
カケルが首を傾げながらバカ正直に確認をしてきて。
自分がなにを言ったのか理解する。
顔どころか首まで真っ赤になるのを自覚するほど、血が上って。
だけど。
「バカか、そんなん当たり前だろ」
リュウのドヤ顔を見た瞬間。
360度回って冷静になる。
「・・・リュウ。しばらく話しかけるのも禁止」
低い声で通告すると、さすがに付き合いの長いリュウは私の本気の怒気を感じたらしく。
「え」
頬を引きつらせて慌てた様子で覗き込んできたけど。
無視して自分の席についた。
「・・・男子ってときどき本当にバカですね」
呟くようなユリちゃんの毒舌が聞こえて、心の中で激しく同意しながら、席の周りをうろちょろしているリュウを完全無視したのだった。
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実はこの回は、けっこうキャラ暴走でした・・・ヒカリさん、予定外にぶっちゃけてくれまして(^^;
ラブラブっぷりは計算ですが(笑)




