表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒカリとキオク  作者: 有沢 諒
ほんとうのじぶん
17/45

思い出した理由

「あの・・・ごめんね」


でも、謝る以外どうしたらいいのかわからなくて。


「もういいって・・・それより、なんで急に戻ったんだ?」


首をひねるリュウ。


「えっと、なんかリュウの顔を見てたら懐かしくなって・・・」


ずっとリュウと一緒のときにだけあった予兆。

リュウの困ったような顔を見るたびに懐かしくて。


あれ? え? つまりそれって・・・。

リュウが好きだから思い出したってこと、なの、かな?

って、そんなことで!?


リュウの顔を改めて見る。


・・・そういえば記憶がない間も考えてたのってリュウのことばっかりだったような・・・。


「ヒカリ?」


覗き込まれて、恥ずかしくなって顔が熱くなる。


「な、なんでもない」


って、なにがなんでもないんだか、話がつながってないし。

でも、記憶が戻った理由は絶対リュウにだけは言えない。

恥ずかしすぎる。


「まあ、いっか。思い出したんなら理由なんて」


言いたくない雰囲気は伝わったのか、リュウもそれ以上はつっこんでこなくてホッとする。


「・・・それより、さ」


だけど、どこか躊躇うようなちょっと不安そうな顔で。


「今までのことは覚えてるんだよな?」

「え?」


今までのことって、記憶をなくしてからのことよね。

まあ自分もきっと居なくなるって思っていたくらいだから、リュウがそう思うのも無理はないか。

でも、不安そうなのってなんで?


「・・・さっき、ここで俺が言ったこと覚えてる?」


その言葉で、ようやくリュウがなにを言いたいのかわかった。

くすっと笑って。


「え? なんのこと? ぜんぜん覚えてないんだけど」


つい笑顔が隠せないまま言うと。

数回、目を瞬かせてから、ムッとした顔をする。


「お前・・・それ絶対覚えてるだろ」


低い声に、本気の怒気を感じて慌てる。


「ごめん、ごめん。ちゃんと覚えてるわ。だって・・・」


ちょっと恥ずかしくなって、だけどリュウに近づきたくて、でも照れもあって。

リュウの制服の袖をちょっとだけ掴んで、少し俯く。


「すごく嬉しかったから。・・・絶対に忘れない」


リュウが息を飲んだ気配がした。


「お前、それ反則・・・」

「え」


そして急に抱きしめられる。


さっきまでと違って、少しかがんで腰を引き寄せるようにぎゅっと抱きしめられて。

肩にリュウの顔が乗って、自然に腕がリュウの背中に回る。

近い、っていうか、体の密着度が今までにない状況で。


え? え!?


「ちょっ、リュウ?」

「・・・お前、たまに俺の理性を足蹴にするよな」


は?


言われたことの意味もわからなければ、首もとで響く声がむずがゆくて身じろぎする。

それを止めるみたいにリュウは少し抱きしめる手に力を入れて、そしてため息を吐いた。

その息が首筋にかかって、ぞくんとする。


え? なに?


びっくりして体が一瞬動かなくなった。

初めての感覚にわけがわからなくて。


「や・・・はなして」


急に怖くなって、声が震えた。

心臓の音が早くなって、くっついているリュウにも絶対に伝わっていると思ったら、恥ずかしくて頭に血がのぼる。


ふっとリュウの腕の力が緩んで、そっと離される。

それでも腰に回った手は離れてなくて、近い距離で顔を覗き込まれた。

絶対赤くなっている顔を見られたくなくて、俯いていると。

くすっと笑う気配がして。


「・・・もしかして、なんか期待した?」


耳もとで囁かれる。


はあ!?


ばっと顔を上げると、にやにやした顔に出くわして。

カーッとなって、リュウの胸を押して離れると叫ぶ。


「バカバカッ。変態っ。スケベッ」


でも、リュウはぜんぜんこたえてない様子でへらへらしているから。


「もう知らないっ。私、帰る」


荷物を手にとって帰ろうとすると、さすがにちょっと慌てた様子で。


「悪い、冗談だって」


言って、手を取られる。


「離して」


睨みつけると、さすがにヤバイと思ったのか、焦った顔をして。


「悪かったって・・・どうしたら許してくれる?」


真剣な顔で言ってくるから、少し落ち着いて。

だけど、簡単に許すのも癪だから、どうしようかなと思う。


ふと、ベンチに置きっぱなしだったジュースが目に入った。

私が好きな桃のジュース、でもリュウは苦手で、前に無理やり飲ませたらすっごく不味そうな顔をしてたっけ。

もう二度と飲まないって叫んでたのを思い出す。


「・・・じゃあ、あのジュースの残り全部飲んで。そしたら許してあげる」


きっと、『無理だ。ごめんっ』て謝ってくるのが落ちよね。

って思ったのに。


「・・・わかった」

「え」


リュウは躊躇いもせずに、缶に口をつけると飲み干した。


ええぇぇ!?

っていうか、私が口つけたヤツだよ!?


絶対無理って言ってくると思ったから油断してた。


「うえ~、ゲロあま・・・」


ものすごく不味そうにリュウが顔をしかめて。

びっくりして呆然としてたら、リュウが近づいてきて。


「口直しさせろよ」


なんのこと?


と思って顔を上げたら。

リュウの顔がアップになって、唇にやわらかい感触と、ふわっと桃の香りがした。

驚いて、目を見開いてると。


「・・・目、つむれよ」


すぐに離れたリュウが少し顔を赤くして言って。

反射的に目を閉じると、そっと肩を抱かれて、また唇をふさがれる。


初めてのキスは少し恥ずかしくて、でもすごく嬉しくて。

胸がぎゅっとなって、やわらかい感触と桃の香りにくらくらする。


しばらくして離れたリュウは、少し照れたような顔をしていて、それがすごく可愛くて。


「ヒカリ、好きだ」


少し顔を赤くしたリュウに改めて言われて。

すっごく嬉しくて目頭が熱くなって、でも精一杯の笑顔を向けて。


「うん、私も・・・リュウが好き」


ちゃんと言えたことが嬉しかった。


記憶のなかった自分も自分に違いはないけど。

やっぱり、ちょっとずるかったかなって思って。

それに、長く片思いしてたのは自分なんだし。

記憶のなかった自分も自分だというのは変わらないのに、なんとなく対抗心みたいのも感じてしまって複雑。


記憶のないときはないで、ずっともとの自分のことが他人みたいで気になってたのに。

っていうか、今思うと完全に嫉妬してたような・・・。

自分に嫉妬ってどんだけだと思うけど。


記憶がないからこそ見えたものがある。


「さて、そろそろ帰るか。・・・記憶戻ったって知ったら、おばさん喜ぶぞ」


言われて、はっとする。

その瞬間に、ずっと不安そうだった母親の顔が思い浮かんで。


「うん、早く帰らなきゃ」


気持ちが急いて、足早に歩き出す。


「じゃ、急ごう」


駆け出したい気持ちがわかったのか、リュウが手を取って。

手を引かれて、ほとんど小走りに家に帰った。



**********

本当は告白されて記憶を取り戻すまでのお話にするつもりだったんですが・・・終わりません、続きます(^^;

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ