気づいた気持ち
「・・・ヒカリ、居るか?」
いつものようにリュウがベランダから声をかけてきた。
あんな別れ方をしたから、今日はさすがにこないかもと思っていたから少しホッとする。
でも謝らなきゃと思ったらまた緊張して、少しどきどきしながら鍵を開けた。
そのままガラス戸も開けると、リュウは少しホッとしたような顔をしていて。
リュウもやっぱり来にくかったんだなって思ったら、急に怒鳴り散らしたこととかが恥ずかしくなった。
顔が見れなくて、うつむきながらリュウが部屋に入ってくるのを待つ。
けれど、いつもはすぐに定位置の椅子に座るのに、今日はベランダに立ったまま部屋にすら入らない。
「リュウ?」
さすがに不安になって顔を見ると。
「ごめんっ」
目が合ったとたんに頭を下げられる。
驚いて瞬いていると、顔を上げたリュウがまっすぐこちらを見て。
「俺、すげえ無神経なこと言った・・・悪かった」
そして、もう一度、深々と頭を下げるから慌てる。
「待って、違うわ。あれは私が勝手に僻んだっていうか、八つ当たりしただけだから・・・私のほうこそ、ごめんなさい」
謝ると、意外だったのか頭を上げたリュウはちょっと驚いた顔をして、それからふっと気の抜けたように笑う。
「・・・俺だけには・・・か」
呟いた言葉が小さくて、よく聞き取れなかった。
「え?」
「・・・なんでもねーよ。それより、今度はあんなふうに爆発する前に、不満があったら言えよな」
「うん、ごめんなさい。・・・セイにも同じようなこと言われたし、これからは気をつける」
言うと、ちょっと眉間にシワを寄せて。
「つーか、なんだよ気をつけるって、また変に遠慮してるだろ」
すっと伸びた手が、頬に触れる。
まだ、少し腫れぼったい感じがする目じりを優しく撫でて。
急なことに驚いて固まっていると、それに気づいたらしいリュウも少し照れたのか、目線を逸らしてぱっと手が離れていく。
「一応、誤解の無いように言っておくけど」
少し、強い口調で言う、その頬が赤い気がした。
「う、うん」
「今のお前のこと、信用してないわけじゃないから」
逸らしていた視線が戻る。
「でも、言い方が悪かったし・・・確かに過保護って思われても仕方ないことをしたって思う。・・・でも」
真っ直ぐに見下ろしてくる視線は真摯で。
「ただ、心配なんだよ」
言われた言葉に嘘は無いんだと信じられた。
「うん、ごめんなさい。・・・本当はちゃんとわかってるの。皆が、リュウが心配してくれてるって。
・・・だから、明日からも一緒に学校行ってくれる?」
言うと、リュウはすごくホッとした顔になって。
「ああ、もちろん」
頷いた顔が満面の笑みで。
いつもは気の強い印象を与える、つり気味の目じりが少し下がって。
ちょっとだけ幼く見える笑顔。
すごく可愛いなって思った。
ああ、やっぱりこの笑顔が好き。
思ったところでハッとなる。
・・・私、今なにを考えた?
「あ、でも。明日からは学校内ではちょっと距離置くな」
「え?」
「教室ではユリちゃんもいるしさ。俺、今までちょっとウザかっただろ?」
そんなことは無いけど、それより別のことに気を取られていて、否定の言葉がすぐに出てこなかった。
それをリュウは肯定と取ったようで、ちょっと真剣な表情になる。
「でも、できたら一人になんのだけはさけろよ。・・・今日のあいつもだけど、中にはちょっと強引なヤツもいるしさ」
えーと、確かに断っても食い下がられるのはめんどくさいし、それ以前にそうそう告白されたりって無いと思うけど、一人にならなければそもそも告白とかされない・・・か?
無意識に頷くと、リュウはホッとしたように頬を緩めて。
「じゃあ、今日はこれで帰るな。また明日」
だけど、ベランダの柵に手を掛けたところで、急にこっちを向いて真顔になる。
「あのさ、・・・セイって・・・」
「え?」
「・・・いや、やっぱなんでもねえ。じゃ、おやすみ」
そうして、リュウは今度こそ柵を越えて帰っていった。
その姿が部屋に入って、窓が閉まるまで見送って。
ガラス戸を閉めてカーテンを引く。
そして、そのままずるずるとしゃがみこんだ。
私、リュウが好き・・・?
気づいた気持ちに愕然となる。
ああ、そっか。
だから私は。
ヒカリじゃなくて今の自分を見て欲しかったんだ。
・・・リュウにだけは。
だけど、この気持ちになんの意味があるんだろう。
いずれ消えてしまうだろう『私』なのに・・・。
それに、リュウは『私』じゃなくて『ヒカリ』の方が大切なのに・・・。
・・・気づいたときには失恋って・・・本当にバカみたい。
自嘲するように笑って、両手で顔を覆った。
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キリのいいところで分けたらまたかなり短めに・・・(^^;
難しいなあ・・・(汗)




