第五話 学院都市を目指して
そして、次の日。
「う、さびい」
寒さに目が覚める。横にはエリスの寝顔がある。俺はエリスの顔を観察する。昨日みた俺の顔とはまた系統が違うが凄い整った顔だ。全く異世界はこれだから困るぜ。
俺はエリスを起こさないようそろっとかけていた毛布からぬけだすと起き上がり、思いっきり伸びをする。
「腹減った」
だが、食べるものは何もない。え、熊はどうしたかって?昨日の内に食べてしまいましたよ。あれほどの質量がどうやって体内に収まったのかは謎だ。
すると、近くでガサガサという音がした。
「ん?」
昨日、熊を焼いて野宿したここら一帯はエリスが魔物避けの結界を張っていたらしく、近寄ってくる魔物はいなかった。けれど、朝頃には効果が切れるかも知れないとか言ってたから、効果が切れて魔物が入って来たのかも知れない。
俺は音がした方向に物音を立てずに近寄った。
「ブルブル」
「あ、イノシシ」
すると、木の根もとでブルブル言っているイノシシっぽい動物の尻が見えた。何か食べているのか夢中でこっちには気づいていない。
イノシシ、うまそうだな。
俺は脳内で朝御飯のメニューを決定した。朝御飯はイノシシの丸焼きだ。
俺は足音を忍ばせてそろりそろりとイノシシの背後に近づいた。
「ブルブル、ブ?」
流石に背後までこられて気配に気づいたのかイノシシは後ろを振り返って、忍び足で近づく俺を認識した。
だが、もう遅い。俺は襲いかかった。
「プギーーーー!!」
森にイノシシの断末魔が響いた。
「.....なんじゃ、それ」
イノシシを近くの小川で血抜きしてほくほく顔で戻ると、エリスは既に起きていた。
「朝飯に調度良さそうな獲物を見つけたんだ。今から焼くから火をつけてくれ」
「.......みゅ?」
みゅ、じゃねえよ。みゅ、じゃ。火つけろつってんだろ。
不満そうな顔でエリスを見ると、紙はあちこちと跳ね、瞼を眠そうに擦っていた。ああ、こいつ朝駄目なタイプだ。低血圧っていうやつだな、うん。ババアの癖に朝弱いのかよ。
「とりあえず、向こうの小川で顔洗ってこい」
「.......わかった」
そう言ってふらふらと小川に向かって歩いていくエリス。大丈夫かな、あいつ。
「とりあえず、刺すか」
どすっと抱えていたイノシシの死体を地面に下ろし、昨日使った熊を吊るすために使った木の棒を手に取った。
イノシシを焼く方法は昨日と同じだ。口から尻まで木の棒をぶっ刺して焚き火の左右に支えに木の両端をかけて、火に炙って焼く。サバイバルでよくやる、一度はやってみたい焼き方だ。
俺は木の棒をイノシシの口に嵌めると一気に突っ込んだ。すると先端が尻の穴から飛び出した。うわ、痛そう。
「がつがつがつがつがつがつがつがつ」
「本当によく食うのうお主」
顔を洗ってようやく起動したエリスに火をつけてもらってイノシシを焼いて一時間ほど。ようやく飯にありつけた俺は一心不乱にイノシシを貪っていた。うまい。
「全く、朝飯にビックボアを気軽に狩っておったら冒険者が失業するぞ」
「がつがつがつがつ、ん?こいつも強い魔物なのか?」
至って普通のイノシシだが。ちょっとでかいけど。
「組合ではC級に位置付けられた魔物じゃ。それほど強くはないが、駆け出しのパーティーが相手するにはちょっと敷居が高い、そんなところじゃ」
へえ。俺はただ後ろから尻蹴りあげただけだから、よくわかんなかったわ。まあ、かなりうまいということだけはわかる。
「とりあえず、これからどうするか教えてくれ。昨日はエリスについていくっていう話だけをしたからな」
昨日は外れし力の話を聞いた後、これからどうするべきかエリスに相談した。するとエリスはあてがあるといってよかったらついてこいと言ったのだ。俺からすれば願ったり叶ったりの話だった。
別にそこら辺のてきとーな町に出て冒険者稼業をやってもいいんだが、こんな体だし俺tueeeしたって何の面白味もない。それに俺はこの世界について右も左もわからないひよっこだ。それならば、色々と知識が豊富そうなエリスについていった方が益がある。
そんな訳でエリスの提案を二つ返事でOKした訳だが。
「わしがこれから向かうのは、学院都市イールギールじゃ。わしはそこで教員として働くことになる」
「ああ。で、俺はどうするんだ?そこで生徒になるのか?」
ありがちといえばありがちな感じだが。
「いや?魔法が使えんお主が入ってどうするんじゃ。魔法学院じゃぞ?」
「あ、そうですか」
夢がねえ。学園ものは一つの目玉だというのに。転生して色んな可能性が潰されてるな、俺。
「じゃから生徒ではなく、お主はそこで教員として働いて貰おうと考えている」
「生徒すら無理なのに、教員ができるわけないだろう」
魔法が使えないのに何を教えるんだよ魔法学院で。
「違う、違う。お主にやってもらいたいのは戦闘指導教員じゃ。つまるところ、生徒と模擬戦闘をすればいいだけじゃ」
「ああ、それなら出来そうだな」
確かにただ戦闘をするっていうだけなら簡単だ。スタミナもバカみたいにあるしな。腹は減るけど。
「じゃろう?わしは学院長に顔が利くからな。面接なしでも一発合格じゃ」
それは職権乱用っていうんじゃないですかね。やはり世の中コネ、か。
「まあ、戦闘指導教員はなんぼおっても足らんからな。いってみれば体のいいサンーげふんげふん、貴重な模擬戦闘の相手じゃからな。お主ほどの能力があれば、わしの力がなくとも通れるじゃろう」
「おい、いまサンていいかけたよな!?それ、サンドバックだろ。俺は生徒たちにサンドバック扱いされるのか!?」
「模擬戦闘っていっておるじゃろうが。命に関わるほどの怪我をおわせんじゃったら、反撃してもよい。まあ、生徒たちのストレス解消に魔法は中断させずに打たせてやるのは暗黙の了解というやつじゃぞ?なに、当たれとまでいわん」
俺はエリスの首もとを掴んでがくがくと揺さぶる。こいつ、口を割らねえ。
「それに模擬戦闘は午後からじゃ。それまで、午前中の講義を生徒たちに混じって聞いても誰も文句は言わん。講義は魔法関連だけではなく、歴史や作法など教養関連の講義もある。この世界の知識をつけたいお主にはうってつけではないか」
「た、確かに」
「ならば、わしについてこい。お主に世界を見せてやる」
エリスが俺に向かって手を差しのばしてくる。俺はその手を躊躇いながらも取った。
「よろしくな、コウ」
「よろしく、エリス」
異世界に幼女として転生してしまって、最悪の気分だった。けれど、案外こういうのも悪くないかも知れない。この世界はーー自由だ。
「それで、お主の外れし力の名前は考えたか?」
「も、もうちょっと」