第四話 チートなパワー
「ははは、一体何が起きたんだこれ」
熊が地面にのめり込んでいる。当然ながら死んでいる。俺はその上に座って困ったように頭を掻いていた。
とても信じられないが、これは俺が起こした惨状だ。パンチ一発で熊が地面にのめり込むってどういうことだ。あれか、幼女tueeeか。しかも物理かよ。何でエルフなのに魔法じゃねえんだよ、このやろう。
「凄い力じゃのう。お主、コウと言ったか?」
赤髪の幼女が近づいてきた。見た感じ、なんか熊とバトルしていたらしく、俺が邪魔したようだ。まあ、俺は吹っ飛ばされたんだし、俺が倒してもよかったんだよね?
「えー、はいコウです」
「エルフにしては凄い力じゃのう。あれは、強化魔法か?珍しい魔法を覚えておるのう」
は?強化魔法?なにそれ、知らない。そんなの使ってないよ。僕、そんなの使ってない。
「え、使ってませんけど?」
俺の言葉に目の前の幼女があっけにとられたような顔をした。デジャヴ。
「な、ならば素の力か?」
多分。知らない間に強化魔法とかなんとか使っている可能性もあるにはあるが、少なくとも俺は使った覚えはない。ただ、あの熊に吹っ飛ばされて、頭がぷっつんしただけだ。
ついカッとなってやった。反省はしてません!
とりあえず、うなずく。
「となると、やはりお主はー」
グーーー。
なんか言いかけていたが、可愛らしい響きがそれを遮った。俺のお腹の音だ。目の前の幼女は話が中断されたからかしかめっ面をしている。
そういえば、食べ物探していたのにまだなんも食ってない。いい加減空腹で倒れそうだぜ。
お腹を押さえる俺に、目の前の幼女は人差し指を立ててこう提案した。
「ふむ。とりあえず、そこの熊を食べるか?」
食えるのこれ?
異世界での新たな発見。熊は美味しい。
「熊といっても色々と種類は存在するがのう」
「がつがつがつがつがつがつ。んー、うめえ!!」
こんがり焼けた肉を頬張る。噛み締める度に肉汁が溢れだし、肉の旨味が余すところなく舌に伝わる。以前一度だけ食べたことがある高級霜ふり肉よりを遥かに越える美味しさだ。
「それにしても、よく食べるのう」
横にいる幼女、エリスが俺が熊の肉を頬張っているのを横目にちびちびと肉の切れ端を摘まみながらそんなことをいう。
「腹が減ってたんだ」
「いや、そういうことを言っとる訳じゃ無いんじゃが?」
ふむ。俺は目の前で火炙りにされている熊の巨体を見た。数十分まで完成体だったそれは、今現在半分ぐらいの大きさになっている。無くなった所は俺が食った分だ。
た、食べ過ぎかな?これでもまだいけるんだけど。
まあ、いいか。俺が殺したんだし。俺は食事を続けた。
「がつがつがつがつ」
「ま、まあ、いいんじゃがのう。で、コウ。お主はなぜこの森にいたのじゃ?」
そういえば、情報交換的なものの途中だったな。互いの自己紹介はさっき済ませた。目の前の幼女の名前はエリス・フェン・ドラグノート。竜の血を引く、魔法使いらしい。見た目は幼女だが数百年は生きているらしい。ロリババアだ。ロリババア。
学院都市に向かう途中で俺が熊に襲われているのを見つけ、助けに入ったのだとか。
次は俺の番か。
俺は話すために肉を咀嚼して呑み込んだ。
「.....気づいたらここにいた」
嘘をついても仕方ない。目の前にいるのはロリババア。ロリだけどババアなのだ。下手な嘘なんてすぐに見破られてしまう。年長者をなめてはいけない。
「そうか。やはり、のう」
俺の言葉になにかを確信したらしい。
「お主、転生者じゃな」
おっと、早速ばれたか。別にばれたって隠す必要は無いんだが。察しがいいな、流石ロリババア。
「何でわかった?」
一応聞いてみる。
「ふん、簡単じゃ。エルフのくせに精霊名を持たず、魔法も使わず異常な力を持ち、加えてどうしてこの場所におるかもわからん。このくらいヒントがあれば、どんな馬鹿でも気づくわ」
確かに。
「ていうか、精霊名ってなに?」
熊に吹っ飛ばされる前にも聞かれたけど、全然わからん。そして、めっちゃ気になる。
「転生者じゃから知らぬのが当然か。精霊名というのはエルフだけが持つ、精霊から与えられる特別な名前じゃ。エルフは親から与えれた名前と精霊名を合わせて名乗る。まあ、ラストネームみたいなもんじゃな。じゃから、エルフはラストネームを持たん。エルフが持つのは自分自身の名と精霊名だけじゃな」
へえ、やっぱ異世界だから文化も色々とあるようだ。
「精霊名ってなんか特別な意味があるのか?」
「あるといったらある。まあ、エルフじゃない者にはあまり気にすることじゃないがな。精霊名とは精霊がエルフにつける名じゃ。エルフが精霊と話す際は自分の名前ではなく、精霊名を使うと聞く。言うなれば、精霊用の名前じゃな」
そんな意味があるのか。というかエルフって精霊と話せるのか。
「え、でも精霊と話すのに必要ならいちいち他人に精霊名を教える必要は無いんじゃないか?」
「エルフにとって精霊名とは精霊に愛されているとい証拠そのものじゃ。エルフは精霊に愛されてこそのエルフ。気位の高い奴等にとって精霊名を示さないということは、自信がエルフ失格と言っているようなものじゃ」
「ふーん」
え、ちょっと待て。
「だったら俺はエルフ失格じゃね?」
だって精霊名持ってないし。
「そうじゃのう。お主からは魔力が一切感じられんし、とてもエルフとは思えんのう」
あれ、肯定されたぞ。エルフなのにエルフ失格とはこれいかに。
「そう気にする必要はないと思うぞ。そう思っとるのはエルフだけじゃ。わしも含めてエルフ以外の種族は余り気にせん。精霊名の意味すら知らんのが大多数じゃ。エルフはその知名度に比べて数が少なく、人里にも余り降りてこんからのう」
「だったらいいんだけど」
それでもちょっとテンションが下がる。気分直しに一口肉に食いつく。
「エルフは失格じゃがな、お主は転生者じゃ。魔力は殆どなく精霊名も与えられておらんから精霊魔法は使えんじゃろうが、お主には外れし力があるじゃろう?」
「外れし力?」
ネーミングそのままだな。絶対転生者が名前つけただろう、それ。
「外れし力は転生者が持つ特殊な力のことじゃ。能力は非常に多様で多くの学者がその力を解明しようとしたが、未だにどういう原理で備わっているのか何もわかっておらん。一説には異世界から此方の世界に渡って来る際、魂の一部が変質して発現するというのがあるが、真相は誰にもわかっとらん。勇者が生まれる前には神の贈り物などとも呼ばれておったのう」
勇者いるんだ。やっぱり。
「俺の外れし力はどんなのなんだ?」
「わからんか?鮮血熊に凪ぎ払われても無傷という耐久性。そして、その鮮血熊を拳で即死させる圧倒的な力。お主の能力はおそらくただ単純な身体能力の強化じゃのう」
うわ、地味だなそれ。いや、怪力幼女というのもそれなりにぶっ飛んでるといえばぶっ飛んでるけども。もっと無限の魔力とかそういうファンタジー爆発な能力がよかった。完全な能筋仕様じゃないか。
「そう微妙な顔をするな。お主の外れし力はわしが知っている転生者の中では一番強力じゃぞ?」
「他の転生者の外れし力はどんなのだったんだ?」
「わしが知っているのは三人。一人目は絶対零度。冷気を操る能力じゃったな。能力の割りには暑苦しい男じゃった」
おおう。さっそくそれらしいのぶっこんで来るじゃねえか。
「二人目は生命交感。他の生物と対話する能力じゃな。魔物とかを操ったりしておったが、極度の動物嫌いじゃった」
「それ致命的じゃないか?」
「自分から、魔物の檻に飛び込んで無理矢理克服したがのう」
度胸あるなそいつ。
「三人目は、魔力源泉。此方は単純じゃな。魔力が増える。それだけじゃ」
「ちょっと質問」
「なんじゃ?」
「全部能力名があるんですけど、それって絶対いるのか?」
「む?.....確か必要だった筈じゃ。できるだけかっこよく、中二ネームが推奨される?なんてことをいっておったのう」
「ああ、さいですか」
外れし力とか中二ネームとか遊び心ありすぎだろ、転生者。どんだけ物わかりいいんだよ。
「まあ、かっこいいかわしには余りわからんがのう」
「まあ、そうだろうな」
この世界の人間には理解できないに違いない。カルチャーショック的な?厳密にいうならワールドショックだ。まあ、地球でも理解できるのはごく一部だがな。
「でも、俺のと比べたらそいつらの方が強そうな気がするけどな」
「何を言うとるんじゃ、お主。鮮血熊を一発の拳で即死させる身体能力じゃぞ?規格外もいいところじゃ。ろくに鍛練も積んでおらんでそうなのだからな」
「そうかな」
ちょっと釈然としない。
「で」
「ん?」
「お主の外れし力の名前はどうするんじゃ?」
真顔でそんなことをいってくるエリス。こいつ。
「か、考えておきます」
とりあえず、そういっておいた。