第二十一話 お風呂
ミーティングが終わった後、俺はマリスとミーシャを誘って、寄宿舎にある大浴場に来ていた。なんで昼前から二人を風呂に誘ったかというと、ただ単にマリスの胸が見たかったからだ。おっぱいを見たかったからである。
前の男の姿であれば、女性の胸部などそれこそ直で見れるような機会は全くなかった。童貞だったし。
見ようと思っても、叶わなかった。そんなの恋仲でもいなければ、そうそう頼める事柄でもない。
しかし、しかしである。今の俺は幼女である。性別は男ではなく、女である。それはつまり、女風呂に堂々と入れるということだ。
俺は、ここ一週間この大浴場に通っているが、エリス以外で入っているのを見たのは、掃除のおばちゃんくらいだ。おそらく、時間帯が悪かったのだろう。
気になるかわからないが、エリスの裸など本当に貧相なものである。胸なし、くびれなし。唯一、良いところといえば少し浅黒い肌がシミもなく綺麗だった事ぐらいだ。しかし、その点で言えば俺も同じくらい綺麗である。
俺とエリスはどっからどう見ても、ただの幼女である。俺は、エリスの身体で興奮するような変態ではないし、自分の裸体を見て興奮すれば余程の変態であろう。
前置きが長くなったが、何が言いたいかというと、俺は幼女になってからの利点を全く生かしてなかったということだ。それはつまり、なんのいわれもなく、女体を隅から隅まで観察することが出来るということである。
そして今日、ようやくその機会が訪れた。
一言で言えば、マリスはーー凄かった。
「おおう」
「ん、どうしたの?」
どうしたもこうしたもない。
その存在は圧倒的だった。俺の眼前で、あられもない二つの果実が惜しみ無くたわむ。
マリスの背丈は俺よりも大分高いので、対面すれば必然的に見上げる形になった。美しい。俺にはその言葉しかなかった。
思わず手を伸ばしてしまいそうになる。その果てしない欲求を俺は理性で押し止めた。
幼女になってから、以前のように女性に対して性的欲求を感じることは殆ど無くなった。この場で、タイルの上を血で濡らしていないのがいい証拠だ。
それなのに、これほどの魅力を感じるとは。やはり、乳というのは、男女に関係なく根源的な欲求なのだろう。
揉みたい。揉みしだきたい。
「おっきい」
何が。という主語を省いた俺の言葉に、マリスは一瞬困ったような顔をしたが、俺がずっと凝視しているので、流石に気づいた。
マリスはそれでも、少し困ったように微笑んだ。
「あんまりおっきいのも考えものよね。肩こるのよ」
「じゃあ、ちょうだい」
がらっと、ドアを開けて浴場に入ってきたのは、装飾品が多くて服を脱ぐのに手間取っていたミーシャだった。
俺とマリスの会話が聞こえてきたのか、開口一番にマリスの胸を凝視しながらそんな事を言った。
いや、無理だろ。なんて、言葉に出すことは出来ない。
ミーシャの決して豊かとはいえない胸を見る。おそらく、まだ成長期なのだろうが、それを含めてもミーシャの胸は余り大きいとはいえない。
「流石にそれは無理かな」
「無理じゃない。魔法を使えばーーいける」
いや、いけないだろ。とか言えない。流石にそこまで魔法は便利じゃないだろう。けれども、言えないったら言えないのだ。
ミーシャの目を見れば、その瞳のなかに渦巻くどろどろとしたなにかを感じとればいやでも気がついた。
ミーシャのジト目がキツいのか、マリスはこちらに助けを求めるように視線を向けてくる。
だが、俺にはどうしようもない。元男としてこんな状況を打開する言葉が思い付かない。
こういう場合、何を言っても墓穴を掘るだけだろう。
それに、終始俺はマリスの胸を観察することで精一杯なのだ。他にかまけている余裕はなかった。
「じー」
「あ、え.....か、身体洗おっか!」
俺からの助け船も期待できないので、マリスはそう言ってさっさと洗い場に逃げ出した。
ミーシャと俺はその後をついて行く。
「あー気持ちいいー」
「うん」
三人で洗い場に並んで座り、シャワーを浴びる。
異世界のお風呂の様式は、驚くことに前の世界のものとそう変わらない。
イメージ的には銭湯や旅館の浴場を想像してもらえば、この寄宿舎の大浴場の様相とぴったり嵌まるような気がする。
十数人入れそうな広いお風呂に、鏡とシャワーが取り付けられた洗い場。なんと、シャンプーやコンデショナー、ボディーソープまでも容器に入って常備されているのだ。
流石に、これは似すぎだろと思って、エリスに聞いたところ、やはり転生者が伝えたらしいというのがわかった。
お風呂が伝わる前では、浄化という魔法で身体を綺麗にするのが一般的で、魔法を使えない人を対象に浄化屋という商売もあったらしい。
しかし、とある転生者が、『やっぱりお風呂に入りたい』という理由でお風呂を開発。それが、魔力を持たない獣人の間で大ヒット。
そして、さらにお風呂文化が各国に広まっていったのだとか。
ちなみに俺はお風呂が大好きである。
動機はともかく、よくやったと思う。
お風呂があるお陰で、こうしておっぱいも見れることだし。
「ふう、さっぱり」
髪の量も、身体も小さい俺は、すぐに身体を洗い終わる。
髪が長い、ミーシャとマリスはそうもいかず、ようやく髪を洗い終わったという所である。
「あ、コウちゃん。背中届かないから洗ってほしいな」
「うん」
マリスから背中を洗ってと頼み事をされる。
よし。俺は、マリスから泡立ったタオルを受け取り、無防備な背中をごしごしと擦っていく。
「いたっ!?ちょ、いたいたいいたいたい!」
「ん?」
すると、マリスがいきなりいたいたい言って叫びだした。
そんなに力入れて無いんだけどな。
「もうっ、力込めすぎだよ!」
「うわっ」
マリスが頬を膨らませて、勢いよくこちらを向いた。
必然的に大きな二つの果実が眼前に晒される。
近い。流石にこれは近すぎる。
ヤバイ。エロい。
反射的に後ずさってしまった。
つるん
「あっ」
「危ない!」
タイルに足を滑らせ、俺の体が宙を舞う。
マリスの声が浴場に響き渡り、腕が掴まれ体が引っ張られる。
「うわっ!」
「きゃっ!」
むにゅん。
マリスに抱き締められ、二人して倒れた。
とてつもない柔らかい感触に包まれる。
えっ、これって。
「だ、大丈夫?」
上を向けば、俺を見つめるマリスさんに顔。
じゃあ、俺を包むこの柔らかいこれは.....?
俺は気づいた。
気づいたから、俺はさらに抱き締めた。
「えっ、ええええええええ?」
「その体勢ヤバイよ。二人とも」
ああ、もう、幼女に転生して良かった。
「んー、お風呂最高」
「さいこー」
「ぶくぶくぶくぶくぶく」
思う存分乳を堪能した後、お風呂に浸かっていた。
ちょうどいい暖かさが、体全体に染み渡る。
湯船に口まで浸かっていると、マリスが話しかけてきた。
「そう言えば、コウちゃんってどうして戦闘指導教員になったの?」
どうしてか。エリスとの出会いを思い出す。
「友達に紹介されたんだ」
「友達って?」
「エリス」
行く宛もない俺に今の生活を与えたのは、エリスだ。
何から何まであいつには感謝しきれない。
「エリスって誰?」
「もしかして、エリス・フォン・ドラグノート?」
「そう」
肯定したけど、エリスの本名ってなんだっけ?
多分、間違っていないはず。多分。
「嘘っ!?あ、でも、今年から教員になったんだよね」
「うん、昨日見た」
「へえー、じゃあ本当なんだ」
そう言えば、エリスって有名人だったっけ?
街中で一緒に歩いていても、別にちやほやされていないからな、あいつ。
「友達って、どこで会ったの?確か、研究で山に籠ってたっていう噂は聞いたけど」
「森の中で魔物に襲われてた所を助けられた。それから、一緒にこの都市に来た」
「運命的だね」
運命的。確かにそうなのかもしれない。
この世界に転生した事が運命なのならば、おそらくエリスとあの森で出会ったことも運命なのだろう。
「コウちゃんってエルフだよね。故郷から出てきたの?」
「俺、転生者だから。魔力がないのも多分そのせい」
「ああ、転生者!だから素手で戦うんだ。確か、チートだっけ?」
「そうそう」
「へえー、転生者か。会うのは初めてかも」
「私も」
そうか、マリスとミーシャは俺以外に転生者にあったことはないのか。
まあ、結構長生きしているエリスでも俺以外に三人しか会ったことが無いっていうし、そういうものなのかも知れない。
「マリスとミーシャは、なんで戦闘指導教員に?」
マリスはこの学院の卒業生って言ってたし、ミーシャはまだ子どもだ。
「私は、この学院に残りたかったからかな。本当は、教員になりたかったんだけど、試験落ちちゃって」
「引きこもってたら、にいに働けって引きずり出された」
「ああ、うん」
マリスはともかくも、ミーシャの理由。
引きこもりだったのか、ミーシャ。
異世界にも引きこもりっているんだな。
「お陰で、家でのにいの視線が痛くなくなった」
「ミーシャのお兄さんって、リオルス先生だよね」
「その通り」
兄貴が先生だから、紹介して貰ったのか。
「.....似てないよね」
「よく言われるのだ」
俺はミーシャの兄貴を見たことがないから、わからない。
マリスの釈然としない顔をみる限り、おそらく相当に似ていないのであろう。
なんか、頭がぼーっとしてきたな。
「ぶくぶくぶく」
「あ、のぼせてる」
「大丈夫!?」
ともかくも、もう一度マリスの胸の感触を堪能する事は出来た。




