第十六話 鍛冶屋
組合で今日狩ったスターラビットの内臓を売ったあと、再びアイラさんの受付の前まで来ていた。
なんでかというと、売っている最中に組合の職員から、討伐証明は出されましたかと言われたのだ。
職員に聞いたところ、スターラビットの討伐依頼は一回につき、五匹らしい。今朝は俺はスターラビットを八匹程ぬっ殺していたので、一回分の依頼はこなしている事になる。
スターラビットの討伐証明は耳らしい。まだ死体は全て袋の中に入れておいたから、依頼分の討伐証明の耳は確保できた。
「どうしたんですか、コウちゃん」
「スターラビットの討伐依頼分の討伐証明を持っているので、討伐依頼の受注と同時に依頼達成の手続きは出来ますか?」
「はい、可能ですよー。では、さっき説明した通り、討伐証明はあちらの受付で提出してもらって、この紙に判子を押してもらってから、此方に受け付けに判子を押した紙を持ってきてください。報酬とギルドポイントをお渡しします」
にこにこ顔のアイラさんから、一枚の紙を受けとる。討伐証明はもう預かって貰っている。後は判子を押して貰うだけだ。
二つの受付を何度も行き来しないといけないので凄くめんどくさい。
俺は紙を持って、おっさんがいる受付に向かう。
「おう、持ってきたか。判子押してやるから、出せ」
「はい、お願いします」
おっさんにアイラさんから受け取った紙を提出すると、ポンと判子を押して貰う。
「あ、後、査定分の額が出たぞ。スターラビットの皮が八、スターラビットの胆が八で、6400リルだ。金は向こうの姉ちゃん達に貰ってくれ。これ、引換書な」
後、売った魔物の部位の金額と引き換えの紙も貰う。
口調は荒々しいし、外見も物騒なおっさんだが、良いおっさんだ。だって、わざわざ討伐依頼を受けたのかと俺に忠告してくれるぐらいなのだから。
名前はさっき教えて貰った気がするが、忘れた。まあ、おっさんの名前を覚える必要ないな。
俺は二枚の紙を持って、再びアイラさんの元に持っていく。
「はい。あ、引き換え書もあるんですね。ギルドポイントを加算するので、ギルドカードをお願いします」
俺は袋にしまっておいたカードをアイラさんに差し出す。
「スターラビットの討伐依頼のギルドポイントは50ポイントですね。後、報酬は3000リルなので、纏めて9400リルです」
カウンターに銀の硬貨が九枚と、大銅貨が四枚置かれる。
俺はそれを受け取って、袋の中に入れる。
「これは、ギルドカードですね。ポイントが入っているか確認してください」
アイラさんからギルドカードを受け取り、カードを確認した。
『ーーーー ーーーー ーー
ーーー 1 ーーー 0
ーーー 50/500 』
数字がゼロから変化している。Eランクから、Dランクに上がるまでに後、450ポイントか。
「はい、確認しました。じゃあ」
「さようならー」
報酬も貰ったし、組合には用が無くなった。
サーシャもまだ降りてきていないようだ。俺はアイラさんに手を振って組合を出ることにした。
「さて、どこにいこうか」
昼頃には学院に帰る積もりだが、それまでは自由時間だ。
その時間を使って街の散策をやろうと思っていた。俺はとりあえず、組合を出るとぶらぶらあてどもなく歩き始めた。
「なんか面白そうなのないかなー」
通りには沢山の人が行き交っていて、道の両脇には店らしき建物がずらーっと並んでいた。
食事処とか、雑貨店、やはり学生が多いせいだろうか、書店などもちらほらと見かける。字が読めないので、入っても意味は無いが。
昨日行った繁華街とは、また別の趣があり、眺めているだけでもそれなりに楽しい。
しばらく歩いていると、カンカンカンという硬質な金属音が聞こえてきた。
「鍛冶屋かな....」
異世界と言ったら、剣。剣といえば、鍛冶屋だろう。武器はエリスに籠手を頼んでいるので必要は無いが、そういうのは一度は見てみたい。
俺は異世界の武器が並ぶ鍛冶屋に興味を引かれて、音がする方向に向かった。
少し歩いて、通りを離れた所に音がする一軒の建物があった。
屋根には看板が取り付けられているが、字が読めないのでよくわからん。
窓があるので覗いてみると、中は予想通り剣や盾などの武器が無数に並べられていた。奥で作業をしているのか、姿は見えないが金属音がひっきりなしに鳴っている。
「営業中、だよな?」
入り口のドアには、何か札が下げられているが、わかんないので勇気を振り絞って、ドアを開けた。
「いらっしゃいませー」
「こ、こんにちは」
ドアを開けると、女の子が店のカウンターから、ひょっこり顔を覗かせた。
窓から覗いた時には誰もいなかったので、ちょっとキョドって返事をかえす。
なんだ、営業中か。俺はほっと胸を撫で下ろした。
「あら、初めての方ですか?何かお探しのものがありますか?魔法使い用の杖もありますよ」
「え、いや、ちょっと、見にきただけです」
「そうですか。ごゆっくりどうぞ」
なかなか接客慣れした店員である。
カウンターから、出てくると俺がエルフだからなのか、おそらく魔法使いが使う杖を大量においた棚に誘導してきた。
だが、俺は魔法は使えない。だから、杖を見たって意味ないので、ちょっと見るだけと伝えるとにっこり笑ってカウンターに戻った。
あいもかわらず金属音はなり続けている。
それにしても、店員の女の子はバイトだろうか。カウンターに隠れていたぐらいだから、俺よりも背が少し高い位で、茶色の髪を背中までに垂らしている。
見た目、中学生くらいだ。学院都市というぐらいだから、学生がバイトでもしているんだろう。
そういえば、さっきまで見ていた店にも若い店員が多かった気がする。
いやいや、そんな事考えてないで、武器をみよう。武器。
「あの、飾ってあるのって、手に取ってみてもいいですか?」
「良いですよ。でも、重たいのが多いので持つときは気をつけて下さいね」
とりあえず、目の前にあった刀身一メートルぐらいの剣を手に取ってみた。
軽っ!!
「おっと」
「気をつけて下さいね。重すぎたら、地面に落としても結構ですよ」
「いや、大丈夫です」
思ったよりも剣が軽すぎて、逆にバランスを崩してしまった。
重厚そうな肉厚な剣なのに、まるで木の枝のように軽い。いや、それ以下かもしれない。
片手で持った剣を、頭上まで振り上げて降り下ろす。
鋭い刀身が空気を切り裂き、ブンと音を立てた。
「うわあ、力持ちなんですねえ」
「どうも」
店員の女の子から誉められる。
それにしても、剣が軽すぎる。いや、自分の力が強いというのは知っていたが、ここまでとは。
武器は使う気が無かったが、ますます使う気が無くなったな。
こんなんじゃまるで、おもちゃの剣を振るようなもんだ。まあ、慣れれば便利かもしれないけど。
俺は手に持った剣を棚に戻した。
他の棚にも色々と武器が置いてあるので、今度は手に取らずに見て回る。
剣だけじゃない。斧や、槍、弓は無いけど弓矢だけが置いてあったりして、面白い。
ちょうど、日本刀にみたいな剣を観察していると、ずっと奥から鳴り響いていた金属音が止んだ。
「あら、あなた。お仕事、一息ついたの?」
「あー、きっちい。予想以上ってか、流石緋緋色金。簡単にはいかえねもんだな」
「久しぶりの大きいお仕事だものね。頑張ってあなた」
「おう」
奥から髭もじゃのおっさんが出てくる。
って、あなた!?今、あなたって言ったよな?
もしかして、店員の人、髭もじゃの奥さんなのかよ!
.....すごい、犯罪臭がする。いや、日本だったら犯罪そのものだろ。
怖ええ、異世界怖い。
「あ、客がいたのか?」
「ええ、可愛いお客様よ」
「こんにちは」
自然体、ごく自然体で接しよう。
俺は何も見てないぞ。
「エルフか。珍しい客だな。.....エルフ?」
なぜか髭もじゃのおっさんが自分の髭を撫でながら、何やら思案顔を始めた。
どうしたのだろうか。
「ちょっと、聞きてえんだがお前さん、名前は?」
「コウです」
「そうか....エリスのやつに言われて来たのか?」
俺の名前を聞くと、髭もじゃのおっさんがエリスの名前を出してきた。
なんでエリスの名前が出てきたんだ?
「あなた、どういうこと?」
「いや、今やってる仕事がこのエルフの嬢ちゃんの装備っつうわけだ」
ああ、察しがついたぞ。多分、エリスに頼んだ籠手の事だ。
エリスの奴、鍛冶屋に頼んでオーダーメイドで作って貰ってるのか。
「いえ、ここにはたまたま来ただけです」
本当だ。本当にたまたま立ち寄っただけ。
しかし、こんな偶然ってあるもんだな。
「そうか。俺はバンクード。こっちは女房のシリアだ」
「よろしくね、コウちゃん」
「よろしく」
やはり二人は夫婦か。
女房って言い方に違和感しか覚えないんだが。
でも、シリアさんって見た目よりも精神年齢高そうだよな。
エリスよりも落ち着いてそう。異世界だし、見た目と実年齢が違う可能性もあるな。
「そういえば、エリスから聞いたんだが、エルフの癖に魔力は無くて、身体能力が異常に高えんだって?俺も職人だからな。俺が作ってる作品の持ち主の力も確認しておきてえ」
「はあ」
バンクードさんがそんな事を言い出してきた。
力を見たいって...職人っぽいけどめんどくさいな。何をさせられるんだろ。
バンクードさんが人指し指を立てて、言った。
「ちょっくら、うちの女房と腕相撲でもやってくれねえか?」
「あら」
「はあ?」
どういうことだ、それは。




