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気付けば幼女、気付けば異世界  作者: パンセ
一章 学院都市イールギール編
20/27

第十四話 朝ごはんはしっかり食べよう

 さて、帰ってきましたよ、学院の寄宿舎。


 「よっこいせ」


 俺は背中に背負っていた星兎スターラビット八匹分と首チョンパされた雷電馬サンダーホースの死体を地面に置いた。

 血抜きは既に済ませている。異世界に来るまでに動物の死体なんて、車に跳ねられた猫ぐらいしか見たことが無かったので、血を抜いたり内蔵を取ったりするのはかなり気持ち悪いが、初日にでっかい熊さんを解体したので出来ない事はない。

 

 慣れた、というほどでもないが動物の死体に驚くよりももっと驚くことがいっぱいあったので、気にする暇もない。昨日なんて殺されかけたし。

 気持ち悪いが、俺の中では空腹を満たす方が優先度は確実に上だ。それに魔物の肉が元の世界の家畜の肉と比べて断然に上手いとなれば余計に、だ。

 

 昨日から肉ばっか食ってるけど、栄養的には大丈夫なんだろうか?

 魚も食いたいけど、昨日行った店には魚料理は無かったしな。異世界には魚はいないんだろうか。

 あとでエリスに聞いてみよう。


 「さて、包丁でも借りてくるか」


 魔物の血抜きはやったが内臓は取り除いていないのである。

 答えは簡単だ。魔物の腹をかっさばける刃物が無かったから。血を出すくらいは素手でどうにかなるんだけどね。

 

 確か寄宿舎の一階に食堂があったはずだ。食堂があるなら、厨房も存在するのは道理である。そこから、包丁でも一本借りてこよう。

 どう考えても、この裏庭は魔物の内臓まみれのスプラッタ劇場になるが.....我慢してもらうしかない。

 もし、怒られたらエリスのせいにしよう。


 「コウ」


 「ひゃいっ!」


 悪いことを考えていたら、後ろに当のご本人がいた。

 急に声をかけられて、しかも、そんなことを考えていたので吃驚して変な声が出てしまった。


 俺は後ろを振り返る。そこには寝起き全快の寝癖だらけのエリスがいた。

 寝足りないのか目を擦って、大あくびをしている。せめて口を手で覆えよ。


 「.....なんじゃ、猿みたいな声を出しおって」


 朝っぱらから失礼な奴だな。

 けど、これでわざわざ厨房に包丁を借りに行く必要が無くなった。エリスの魔法で魔物の腹をかっさばいて貰おう。

 速度も魔法の方が圧倒的に速いし。


 「魔物を狩りに行ってきた。血抜きは殺した後でやったんだけどさ、俺ナイフとか持ってねえから内臓は取り除けなかった。エリス、代わりにやってくれ。頼む」


 「.....別にいいがの」


 反応が遅いな。寝起きのエリスに頼んで大丈夫だろうか。昨日は顔を洗わせて、意識をはっきりさせておいたから心配は無かったが。

 

 「.....《風の刃(ウィンド・カッター)》」


 俺の心配はよそに、エリスは魔法を唱え、何もないのに魔物の死体の腹をすぱすぱと切り裂いていく。

 その光景は異様だ。知らない人間がこの光景を目にしたら、自然に魔物の腹が切り裂かれているように見えるだろう。

 確かそんな妖怪がいたな。なんという名前だったか.......ああ、かまいたちだ。


 「.....出来たぞ。それにしても、星兎スターラビットだけではなく雷電馬サンダーホースも捕まえたのじゃの。誰かに手伝ってもらったようじゃがの。それか、死体だけ貰ったのか?」


 「ん、ああ。俺が追いかけている途中で逃げられそうになって、へーレスっていう奴に手助けしてもらったんだ」


 あのターバン少年の事だ。そういえば、一緒に魔物狩りをする約束をしてたな。

 というか何で手伝って貰ったってわかったんだ?


 「.....お主は魔物の首を切り落とせんじゃろうが」


 俺が首を傾げていると、エリスがそう言った。

 確かにその通りだが.....ナチュラルに人の心を読んでんじゃねえ。


 ま、いいけどね。


 「.....そういえば、お主に渡すものがあった」


 エリスは手に持っていた巾着袋みたいのを俺に渡してきた。

 この袋を渡すためにわざわざ起きて、ここまで降りてきたのか。

 何に使うんだこれ....財布?俺、無一文だけど。


 手渡された袋をぴらぴら振っていると、エリスから補足が有する入った。


 「....それはただの袋ではなく、内部の空間を広げる闇魔法が付与されておる。いちいち、殺した魔物を担いで帰ってくるのは面倒じゃろう。それの中に入れておけば、楽に持ち運びが出来る」


 「....ありがとう」


 口ではそう言ったが、心の中ではこう思っていた。


 そういうのは早く渡せよ!門の兵隊さん達に変な目で見られたじゃねえか。

 

 まあ、いい。これで積み上げておいた死体がスライムっぽい何かに襲われる心配も無くなった。

 ありがたく受け取っておこう。


 「加えて、内部の時間の流れも遅くなっとるから、保存も可能じゃ」


 話している内に頭の回転が良くなってきたのか、エリスの口調が明瞭になってくる。

 それにしても、保存も可能なのか。内臓は取り除いて、どっかの茂みに不法投棄する予定だったが、まとめて入れておくか。


 「あ、いい忘れておったが、魔物の皮や内臓は組合ギルドで買い取って貰えるからの。食わないからといっても、棄ててはいかんぞ」


 おっと、ばりばり棄てる予定だったぜ。

 今日は組合ギルドに登録しに行く予定だったからな。その時に売ってしまおう。


 「よし、じゃあ火をつけてくれ。肉、焼くから」


 とりあえず、飯だ。飯。











 「がつがつがつがつがつがつ」


 「うむ、モモ肉がよく焼けておる」


 「君達は一体何をやっているんだ?」


 俺とエリスが星兎スターラビットを都合三匹分を焼いて食ってると、いつに間にか背後に学院長が立っていた。

 何しに来たんだろうか。俺は加えていた肉を口から放す。


 「おはようございます、学院長」


 「エルク、いるか?旨いぞ」


 エリスが焼いている星兎スターラビットの脚の片方を引きちぎり、きつね色にこんがり焼けたそれを学院長に差し出す。

 エリスはどうやら脚の部分の肉が好きらしい。つか、勝手にやるんじゃねえ。


 「ありがとう。いや、そうじゃないよ。どうして、君達は寄宿舎の裏庭で魔物の肉を焼いているんだい?」


 エリスから黙って肉を受け取り、一度かぶりついてから俺達に問いただす学院長。

 鋭い視線が俺達に向けられているが、手に持ったエリスに渡された肉がひたすらシュールだ。

 緊張感ないよな。怒ってるのか?


  「別にいいじゃろ。悪いことしとらんし」


 「そういう問題じゃない。先程、苦情が僕の所に直々にきたよ。寄宿舎の裏庭で大量の魔物の肉を焼いている幼女が二人いるってね。食事を摂るなら食堂でとりたまえ。どうして、学院内でサバイバルみたいな食事をしているんだ。......うむっ、はぐ、旨いな、これ」


 学院長、説得力ねえ。

 けど、言っている事は理解できる。確かに朝っぱらから、幼女が二人で焼肉パーティーしてたら迷惑だ。

 学院長の言う通り、食堂を使いたいのは山々だなんだが、いかんせん俺の食事量が多すぎる。だからこそ、わざわざ自分で魔物を狩ってきたのだから。


 説明してなかった俺が悪いか。


 「学院長、俺、このくらい食べないと身が持たないんです」


 俺は今も火に炙られている星兎スターラビットの肉塊二つを指し示す。最初は三つだったが一つは既に俺の胃の中に収まっている。後、エリス。

 流石にこの量を食堂で食えといわれても不可能だ。俺が不可能じゃなくて、食事を用意する方が不可能だ。

 どう考えても異常な食事量だが、仕方ない。食べたいものは食べたいのだ。俺じゃなく、この体が悪いのだ。


 「コウは大食いじゃからな。腹ペコエルフじゃ。ははははははは」


 じゃあお前は暴走ロリババアだ。笑うんじゃねえ。

 笑われた腹いせにエリスが持っていた骨付きモモ肉を奪い取ると、肉を骨ごと噛み砕いた。

 俺に肉を奪われたエリスは、学院長に渡した肉を奪おうとするが、学院長に頭を抑えられ、肉に手が届かない。リーチの差だ。


 「うぎぎぎぎぎぎ、わ、渡せ」


 「そうか、それほどの食事が必要なら、食堂ではまかないきれないか。しかし、毎朝肉を焼くのはいただけない。学生達が見て、真似でもされたら厄介だ。君達の外見ならなおさら.....こらっ、エリス、止めろ」


 「では、どうしろと?」


 学院長も中々強情だ。どうやっても、肉をエリスに渡す積もりはないらしい。

 

 「コウ君が食材を用意するなら、食堂の料理人に調理を任せよう。話は僕から通しておくから、昼からは食堂に食べる分の食材を持っていってくれ。だが、量が量だから調理は非常に大雑把となるが、焼くだけよりはましだろう。魔物の内臓等の処理も任せるといい」


 それは願ってもない提案だ。はっきりいって、肉を焼いて食うだけだからそろそろ飽きていた。

 それに魔物の処理もしてくれるのもありがたい。やはり、学院長は頼りになる。エリスのパンツをあげておいて良かった。


 「ありがとうございます。あ、そういえば、闘技場ぼろぼろにしてすみません」


 昨日の事だ。調子にのって、壁やら床やら天井やらすっごいぼろぼろにした記憶がある。エリスと戦っている最中は、気にしている余裕は無かったが、後から思い出して凄いことしたなあと思った。

 修理費請求されないといいけど。


 「ああ、その事なら構わないよ。来週の入学試験に間に合うようにアレンが主導となって急ピッチで闘技場の修理に入る予定だ。コウ君も壊したけれど、エリスが派手に天井をぶち破ってくれたからね」


 「うっ」


 エリスの体が停止する。暴走したことをよっぽど気にしているのだろうか。

 その一瞬を狙って、学院長は纏わりつくエリスを振り払った。


 「コウ君の実力を見たいと言ったのは僕だからね。まさか、あれほどとは思わなかったが、エリスの言ったことは間違い無かったということだ。だから、コウ君は気に病む必要はない。幸い、修理費は目処がついたしね。じゃあ、僕はやることがあるのでここで失礼するよ」


 そういって、学院長は肉を手に持ったまま去っていった。

 肉を奪えなかったエリスはうだなれている。


 「さて、食べるか」


 とにもかくにも、まずこの肉を片付けないと。何も始まらない。


 


 



 

 


 


 

 


 


 


 


 


 

 


 

 

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