第2話 五助のお手伝いと晩ご飯
これは、第1回なろう文芸部@競作祭『キーワード:夏』投稿作品です。
寝る前には必ずトイレへ行くようにしましょうね。五助くんのように、妖怪が恐くてトイレに行かなかったらおねしょをしてしまうぞ~。
そろそろ、太陽が西に傾いてきたところです。そろそろ、晩ご飯を作らないといけない時間です。
「じいや、これから滝つぼに行って桶にお水を汲んでくるからね」
「五助どの、くれぐれもあの岩壁から飛び降りることは…」
五助は、岩壁の下にある滝つぼまで行ってお水を桶の中に汲みに行くことを甚兵衛に言いました。甚兵衛は、さっきみたいに岩壁から滝つぼに飛び込むことがないように言おうとしましたが、すでに五助は駆け足で岩壁のところへ向かって行きました。
「大名の後継ぎならば、あれだけの危険なことでもしなければならないことはよく分かるけど、わしとしてはあんな危険なことはさせたくないんだよなあ」
五助は、あれほど危険な岩壁から滝つぼへ飛び込もうとするので、本当はそんなことはやめさせたいのが甚兵衛の親心です。しかし、五助は大名の後継ぎであるのも事実で、大名になったら、それなりの危険なことであってもしなければなりません。そう考えると、五助が普段の生活の中でこれだけの冒険ができる大自然に感謝しなければならないと甚兵衛は思っているのです。
「よ~し! もう1回ここから飛び込むぞ! え~いっ!」
五助は、右手と左手に桶を1つずつ持ったままで再び岩壁から滝つぼに向かって飛び込みました。そして、滝つぼにパシャンと飛び込むことができた五助は、暑い中でのお相撲の稽古で体から汗がいっぱい出ていたので、体全体が水につかっているとかなり気持ちいいと感じているようです。
「さっき、滝の水を飲んだらとってもおいしかったから、もう1回飲んでみようかな」
五助は、大きな滝のところへ泳いでいくと、両手で滝の水をすくいました。そして、両手ですくった水は、そのまま五助が口の中に入れて飲み干しました。その後も、五助は滝の水を両手で10回もすくい続けると、その度に五助はおいしそうにゴクゴクと飲み続けました。
「そろそろ桶に水を汲んでから家へ帰ろうかな。じいやもぼくの帰りを待っているし」
滝の水をいっぱい飲み干した五助は、再び滝つぼまで泳ぐと、そのまま2つの桶の中に水をいっぱい汲み上げました。そして、滝つぼから地面に上がると、そのまま家へ向かって歩きながら戻っていきました。
「じいや、滝つぼの水を桶に汲んできたよ!」
「五助どの、いつも水汲みをしてくれてありがとうね」
五助は、滝つぼの水を汲んだ桶を右手と左手に1つずつ持ちながら、甚兵衛のいる小さい家へ戻ってきました。甚兵衛は、いつも水汲みをしてくれる五助に感謝しています。
「じいや、次はまさかりを使って薪割りをするよ」
「五助どのは、いつも家のお手伝いをきちんとしてくれるし、思いやりのある男の子として育っているなあ」
五助は、甚兵衛が近くの山林で切ってきた薪を1本ずつ平たい切り株の上へ置くと、まさかりを使って次々と割っています。薪割りは、甚兵衛が五助にまさかりでの割り方を教えたおかげで、今では五助が1人で楽々と薪割りをこなすことができます。
薪割りを全て終えた五助は、まさかりで割った薪を小さい家の土間のところへ運んでいます。その間、甚兵衛は晩ご飯の準備に取り掛かっているところです。
「じいや、薪を焚き口に入れてもいいかな?」
「五助どの、薪を少し入れたら、わしが火打ち石を使って火を付けるからね。火を付けたら、火吹き竹で火を大きくしてから少しずつ薪を入れて行くんだぞ」
五助が薪を焚き口に少し入れると、甚兵衛は火打ち石で火をおこしました。火をおこすと、すぐに焚き口にある薪に火を付けました。
「ふーっ! ふーっ! ふーっ!」
五助は、火吹き竹で吹いて火を大きくすると、薪を次々と焚き口に中へ入れていきました。おいしいご飯を炊くために、五助は火吹き竹で火加減を調節しています。
甚兵衛が丹精を込めて作った晩ご飯が出来上がったので、五助は2人分のご飯と味噌汁を木の器に盛り付けると、五助と甚兵衛がそれぞれ板の間の囲炉裏の周りまで持って行きました。
今日のご飯は、麦と雑穀が入っているご飯と、大根やニンジンといった野菜が入っている味噌汁です。ご飯といっても、麦と雑穀がメインであり、お米は約4割ほどしか入っていません。でも、五助はこの麦や雑穀がメインのご飯をいつも楽しみにしているのです。
「じいや、今日の晩ご飯もとってもおいしいよ!」
「五助どのは、こんな質素な晩ご飯であっても、好き嫌いをせずに何でも食べてくれるから、わしとしても本当にうれしいことじゃ」
五助たちが暮らしている山奥では、水に恵まれているにもかかわらず、田んぼに適した土地が少ないのでお米が取れる量はそんなに多くありません。そのため、五助たちが食べるご飯を炊くときも、お米よりも麦や雑穀の量が多くて質素なのが普通です。
でも、そんな質素なご飯であっても、五助はおいしそうに食べてくれるので、甚兵衛も五助の顔を見ながら満足している様子です。
「ぼくは大人になるまで、この青い腹掛け1枚だけで過ごしたいけど、いいかな? じいやが作ってくれるこの腹掛けのおかげで、山の中を駆け回ったり、滝つぼで泳いだりすることができるぞ!」
「わしとしては、そろそろ普通の着物を着てほしいところだが、五助どのがそういうのであれば、大人になるまで腹掛けだけで過ごしてもいいぞ」
「じいや、いつもありがとう! これからもこの腹掛けでずっと過ごすぞ!」
五助は、大人になるまで甚兵衛に作ってもらった青い腹掛け1枚で過ごしたいと言いました。すると、甚兵衛も五助がいつも元気に山の中を動き回っているのを見ているので、大人になるまで腹掛け1枚で過ごしてもいいと五助に言いました。これを聞いた五助は、足をピョンピョン跳ねながら大喜びしています。
甚兵衛の本心としては、五助が大名の後継ぎということもあり、できれば普通の武士の子供が着る着物を着せたいところです。しかし、五助が腹掛けだけのほうがいいと言っていることから、甚兵衛は五助の意思を尊重することにしました。
それと、甚兵衛は五助が着物を着たままでおねしょしたら、洗濯をするのに大変苦労するのは必至です。その点、今まで通り腹掛けだけなら、おねしょでぬらすのはお布団と腹掛けだけで済むので、甚兵衛にとっても大助かりです。
「じいや、こちそうさまでした! 今日の晩ご飯もとってもおいしかったぞ!」
「五助どの、もう日が暮れたことだし、そろそろ寝る準備をしないといけないなあ」
2人が晩ご飯を食べ終わると、お布団を敷いてから掛け布団を掛けて、寝る前の準備をしています。そして、寝る前に甚兵衛は五助に声を掛けました。
「五助どの、便所へ行かなくてもいいのかな?」
「じいや、大丈夫だよ。ぼくは、まだおしっこが出ないし」
甚兵衛は、五助に寝る前のおしっこをするために便所へ行くように促しました。しかし、五助はまだおしっこが出ないので大丈夫と甚兵衛に言いました。
「そうか、それじゃあお布団の中にはいろうかな」
「じいや、おやすみなさい」
「五助どの、ゆっくり休んでくださいな」
五助と甚兵衛は、お布団の中に入って掛け布団を掛けると、甚兵衛はそのまま眠りの中へ入って行きました。しかし、五助はなかなか眠ることができません。滝つぼに水汲みに行ったときに、五助は大きな滝のところで滝の水を何度も何度も飲み続けたので、おしっこがしたくなりました。