第十四話 『遺書』
「じゃぁ見逃す?」
ニッと笑う。
時と記憶に干渉することの出来る能力――もっともローダン伯は魔力の量が少なく、役に立たないと言っていた――を父親から受け継ぎ。
術者に面識があり、尚且つ良い感情を強く持つ者のみを思うがままに操る能力と、いかなる術すらも施行する大量の魔力を母親から継いだ。
それだけでなく、重要書物から抹消された紫の瞳も……。
紫の瞳は王の証。
国を背負う者の色。
支配者の瞳……。
……その事実全てを、フィルフィリア様がローダン伯を操り。
闇に葬った。
何故。
私がそれを知っているのか……。
以前、ミフェイアの教師を引き受けた際。
フィルフィリア様の遺書。
それに魔力で記されていた。
『【紫の瞳は王の証】【国を背負う者の瞳】【支配者の瞳】。私は紫の瞳を持ち生まれた愛しい娘の未来を自由にするべく、眠る愛する夫を操りその事実を消した。罪を犯した。だから、尊き彼の方の怒りをかった。でも、後悔はしていない。ただ、罪悪感はある。だから、これを読めたあなたしか知らない。誰も分からない。だって、この文は一度読めば消えるんですもの!』
……と、まぁ。
そんな感じのふざけた分だったと思う…………。
「はぁ……。私は『何も見ていない』、『この場には化け物二人と私しかいなかった』」
まったく。
……術者死亡で、解呪が完全に不可能となり。
その内容を口にも文字にも出来なくなるような、高度で強力なもの仕掛けるくらいならば、記さねば良いものを…………。
「うん。それで良し!」
と。
諦めの境地に居る私に対し、頷くミフェイア。
「お母様って、意地悪だよね」
「…………ミフェイア。私はなんと言ったか?」
「ふふ。大丈夫。ウチだって、そんな面倒なの請け負いたくない」
無邪気に笑い、ウインクをかますミフェイアに。
重い溜息が出た。
「まぁ、そんなどうでも良い事は置いといて。『姉さんは自分でも破れない結界をこの国に張って? ナルシはここの修復』」
そう言うとともに、セフィニエラはオリジナルの術式を展開、発動させ。
複雑な絵のような文字のような陣で国を覆い、その場に膝をついて倒れ込み。
『ナルシ』と呼ばれた隣国の第二王子は言われるままに修復を行い。
セフィニエラと同じく、地べたに臥した。
その際。
顔を盛大に強打していたが、見なかったことにしておこう。
「さて。氷も解けて、すべて。元通り……でも、時間はそのまま。ウチが言いたいこと、分かるよね?」
整った顔をにたりと歪ませ。
手を差し出してきた。
「…………少しは残せ」
「もちろん。貴方には仕事があるんだ」
そう言い晴れやかに笑い。
時間を戻し。
切り取り。
歪め。
時を止めたところに繋げた。
これにより。
『私が張った術式は複雑なもので、それを壊すべく。
セフィニエラと隣国の王子が張り合い、力をぶつけたため。
二人は魔力不足となり、眠りについた。
そして。
その二人が破壊しつくした場を、私が修復し、その二人を送り届けたため、魔力が底を尽きかけた状況で自宅に戻った』
と言うことになった。
当然、記憶を操作された人々は誰一人として、それを疑う者はいなかった。
私はそれが毎度釈然としない。
それから数日後のことだ。
ミフェイアがセフィニエラとローダン伯を和解させるべく、動き出したのは……。
「良い? ウチ――」
「ミフェイア。再教育が必要か……?」
「……私、は。姉さんを『化け物』、『悪女』と恐れている少女になるから、ゼグロさんはお父様の書状を持って、迎えに来る役。で、ランはゼグロさんが乗ってくる馬車の御者。後は私の方でなんとでも出来るから、そう言うことでお願いね」
指摘すると苦虫を噛み潰した様な顔をしたが、直ぐに言い換え。
そう、楽しげに語った。
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「んで、お前。嫁どおしたよ?」
「マディスタが着せ替え人形にしている」
「……お前の嫁だよな?」
「………………」
「陛下が書類書いてたから、正式にそうなってんだろ?」
「…………あぁ、そうだな。だが、私は認めていない」
「……おまえなぁ…………」
と。
まぁ、ゼグロに溜息をつかれた訳だが。
しばらく若い女に近づきたくないんだ。
……男も勘弁だがな。
まぁ。
もうしばらくしたら、話くらい聞いてやらんこともない。
【end】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございました。
この後に続くのが、セフィニエラが主人公で短編なんだけど、続編で②と③がある【私の天使はいずこ……?】になります。
でもって【私の天使はいずこ……?】が【名門貴族の変嬢】の基盤になっています。
ちなみにこの閑話は只の補足にかきました。
補足も終わったし、リスティナの話を続けようにもエンド迎えてるし、ごちゃごちゃし過ぎてムリー!
なので、終わりです!
ありがとうございました。




