第十話 魔導師
まぁ。
組合の名はどうでも良い。
ただ……――
魔力温存のため、ギルドの建物だけを修復するはずが破壊しつくされた町まで、修復してしまった……。
あぁ。
ゼグロにやらせように考えていたというのに……。
「すごい……」
「さすが、ギルド長」
「あぁ。あんたが居れば、もう安心だな」
辺りを見回し、笑みをこぼす三人。
そんな三名を見。
しくじった感があったが、まぁ良いかと妥協し、三人に別れを告げて国境へ向かった。
……案の定。
私が作り、設置していた結界は消えていた……。
…………三十八の術式を組み上げて、七年か……。
嗚呼。
あの時。
強制的に眠りにつかねば、後何年持ったであろうか…………。
「過ぎたことは仕方がない……な……」
すっと片腕を振り、簡単な術式の陣を組み上げ、その上に一つ一つ重ねる。
難易度は様々。
とりあえずは防御、制御、修復、再生、吸収。
それらの術すべて、それぞれが三つ重複するように……。
こうして重ねた陣はまるで柱のように隙間なく、光る。
様々な色を放つソレ広げ、国土を覆ったほどで、ドームのように国を覆った。
術式の陣は念を入れて五十。
これでしばらくは安心できよう……。
ふっと息を吐き。
戦闘中と聞いた山奥に向かった。
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――――グルゥアァアアアァアア
人の二倍はある、牛のような魔獣三体。
それは地を揺らし、空気を振動させる咆哮と、巨大な紅紫の光線を放つ。
避けるには大きすぎ。
逃げることもかなわない。
転移した私の前に居た魔導師たちは絶望の表情で迫りくるそれを見つめていた。
このまま何もしなければ、大勢の被害と犠牲を出すであろうこと言うまでもない。
(だが、これ以上の犠牲はな気に食わん……)
恐怖におびえるギルド組員の間を抜け。
魔獣の足元に青黒い陣を展開し、発動。
刹那。
牛の魔獣は氷に覆われ。
甲高い音を立て、魔獣もろとも砕けた。
一つ息を吐き。
振り返る。
見えた魔導師たちの顔は変わらず呆けていた。
「……貴様ら。何故、術を展開しなかった?」
我知らず低くなる声音。
下がる気温。
呆けていた魔導師たちは顔を青ざめ、引き攣らせる。
「呆けている暇など……なかったであろう? 死にたいのか」
この問いに魔導師たちは無言で勢いよく、首を横に振った。
危機的状況にあったことを理解していたということで、苛立ちを納め。
問う。
「…………まぁ、良い。重傷者はどこだ」
「え……? あ、はい! こちらです」
一番近くに居た男がそう答え。
重傷者が居る場へと向かった。
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案内された開けた場所。
地面に横たわる大勢の人。
その大勢の上に覆いかぶさるように輝く白の陣。
構成からみて、止血をするための陣だ。
首を巡らせ、術者を探す。
「あれれ~? ランらぁ。おはぃよぁ~はははははっ!」
離れた場からこちらに来るのは、光を反射し金色にも見えた茶髪はごわついてくすみ。
顔色は悪くなり、頬はこけ。
目は血走り、下まぶたにクマをこさえ。
どこか痩せたように見えるゼグロ。
奴は両手を広げ、呂律が回っていない口で笑い出した。
……あぁ。
とうとう壊れたか……。
「ちょっと。あわれなものを見る目で見るのやめてくんない? だいたい、原因お前でもあるんからなっ!」
叫ぶ、魔力を消費し過ぎた強制終了間際の魔導師一人。
負傷者が大勢と言うのに強制終了されてはかなわない。
そう言う訳で奴の顔を片手で掴み。
「わっ! ちょっ?!」
暴れる奴の顔に力を入れ、魔力を分け与えつつ、問う。
「意味が分からんぞ」
「……お前が国境、ちゃんと修復しておかねぇから……!」
「しかたなかろう。私とて、ギリギリだったところを貴様に押し付けられた奴に喰われたのだからな」
「………………苦情は陛下! 俺じゃない!! さっ、手ぇ離せよ。仕事だ仕事っ!」
そう言ったゼグロの声に覇気が戻った様なので、魔力を与えるのをやめ、手を離した。




