第七話 人形
玄関を通らず直接自室に帰った私は、自室の明かりをつけた。
出て行ったときと変わらず、人形は寝台を占領しており。
重いため息が出た。
静まり返った室内にそれは響き、消え。
代わりに――
『意識を持たずに消えた方が圧倒的に多いらしい』
ゼグロの言葉が頭をかすめた……。
私は知らず知らずに、静かな呼吸音に耳を傾け。
人形の元まで歩み寄り。
その口元に手を翳し、呼吸を確認していた。
このことに思わず目を瞠った。
………………これでは、この人形の身を案じているようではないか……。
はぁ……。
『死なすな』、か……。
無茶を言う…………。
そう思いつつ。
眠っているような人形から目を離し、顔を上げた先の壁の向こう。
私室の隣。
書斎としている部屋に置いているデスクの上には、山積みとなった書類があるというのに……。
『人形の相手までしろ』と言うやつの気がしれん。
そんなことに使う気力と体力があれば、書類の処理に使うに決まっている……。
はぁ…………。
まぁ。
書類は、私の仕事だ。
だが。
だがな。
それを増やしているのはあの化け物だ。
……あの化け物の妹と付き合うゼグロの気がしれんな。
…………とりあえず、仕事をせねば……。
……………………。
………………。
……優先順位から言うと、まずはこの人形から、か…………。
まぁ……良い。
この人形が意思を持った事に共通して事として。
『恋人や妻のように接し、声を掛けてた』ということ。
人は。
『愛』や『憎悪』など。
それらをのせる言葉に無意識に魔力を込める。
真に思えばこそ、な……。
だが。
魔力を込めると言っても、微弱なモノだ。
しかし、積もりに積もれば…………おそらくだが、意思を持つと言ったような現象を引き起こす。
と、まぁ。
良くは分からんがそう言ったところか……?
…………では。
魔力のみ、注げば良いのではないか……?
幸い。
私は魔力を人に分けることが出来き。
他者の淀んだ魔力と比べ、魔力の純度が高い。
純度の高さと量が、魔導師の強さだ。
一応。
『最高峰の魔導師』とは呼ばれている。
『化け物には劣る』ともな……。
まぁ。
どうでも良いことだ。
さっさと試して次を終わらせねば……。
そう気持ちを切り替え。
立ち上がったまま、寝台に横たわるソレに触れるのは、凝り固まった背中と腰が痛い故。
寝台に腰掛け、上体を捻り。
魔力を手のひらに集め、それを吸収させるべく人形の頭を一度撫でた。
「っ……?!」
ただのそれだけのはずが、集めていた魔力はすべて喰われ。
手のひらに得体のしれぬ力を感じ。
その一瞬後には、体を支配された。
この事に思わず目を見張ったが、悪意は皆無。
不審に思い。
私はその力に抗わず、身を任せた。
すると、人形にふれていた私の手が、人形の頭をゆっくりと撫で始めた。
手が動くとともに奪われる魔力。
喰わせた覚えのない魔力にまで、ソレは喰いついてきた。
だが、不思議なことに、ソレは直ぐに魔力を喰うのを止め。
私の手を動かし、人形の頭を優しく撫でさせるだけとなった。
まったくもって意味が分からない。
先ほど感じた得体のしれぬ、酷く淀んだ恐ろしい力。
色で例えるのであれば、全てを飲み込む漆黒。
あれは、まるで……。
そこまで考え、今朝がたあったあの少女を思い出した。
……そうだ。
これはあの少女の魔力と同じ。
つまり、魔力が残っていても不思議ではない。
しかし。
他者までも、操れるものだろうか……?
…………力ある呪術師の存在は少ない。
文献もとうの昔に消失している。
……様子を見るしか方法は無い。か…………。
結局。
陛下の気まぐれの気まぐれに付き合うしかないのだな……。
私がそう結論を出したと同時に、人形は私の手を動かすのを止め。
私の中から消えた。
再び見下ろした、幼さの残る顔立ちをしている人形は。
少し。
幸せそうに見えた。
R18未満か緩い文のくせにR15以上な文、書いてるせいで編集メンドイ……。
しかも、R15がどの辺までセーフでアウトになるか解んないから、なお怖い。
『ここヤバイよ?!』な場所があったら教えてください。
ホント。切実にお願いします……。




