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名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
ギルド長の閑話 
87/104

第五話 手紙

 ――親愛なるランへ。


 君が最後まで話を聞かずに居なくなったので、手紙にしたよ。

 陛下と話して、命は陛下預かり、体は君預かりになったよ。

 死なせちゃダメだよ。

 怒ってもダメだよ。

 もう、決定したことなんだよ。



 ―――――――――――


 ――――――――



 そこまで読んで思わずため息をついた。


 …………あのバカは手紙もまともに書けないのか……。


 ……まぁ、魔術の腕さえあれば良いのだろうな…………。



 ―――――――――――


 ――――――――



 それでね。

 人形の事だよ。

 持っている人にドゥヴィラスが聞いた話だと、耳元で『愛してる』とか、『好きだよ』とか、『君は美しいね』とか、『君の瞳が見たいんだ』とか。

 まぁ。

 毎日心を籠めて囁いたり、手や顔に触れあったりを続ければいいんだってっさ。

 単純に言えば。

 意識ないだけで人と変わらないってことだね。

 でも、めんどくさがって言わなかったり。

 触れ合わなくしたら、どんどん小さくなって消えちゃうってさ。

 だから。


 『毎日欠かさず歯の浮くセリフを心と愛をこめて囁け』ってことだね!


 上手くいけば意思を持つんだって。

 毎日欠かさず続ければ、早ければ一年。

 遅くても三年ぐらいで意思持つんだって!

 くくっ。

 精神異常者みてぇな絵図らがっ……。

 ぶっはっ!

 あ、ヤベェ。

 文字になった。

 ま、いいか。

 そう言う訳で頼むな。

 陛下の命令だから、拒否は出来ねぇから安心しろや。

 まぁ、意識持ったらソレ。

 お前の嫁だから。

 大事にしてやれよ。

 じゃあな。

 あ。

 ちゃんと仕事しろよ。

 あの化け物、俺なんかじゃ停まんねぇからな。

 頼んだぜ。


  お前の心の友・ゼグロより~。


  

 ―――――――――



 ――――――




 よし。

 アイツ、固めるだけでなく、沈めてやろうではないか。



「ぼ、坊ちゃん。落ち着いて、寒い……」



 言葉を封じていたはずのカロンからの苦情。 

 それが意味することは、【未熟者】と言うこと……。



「……すまない」

「さては、ルフィス候の事でも書いてあったのですかな?」

「………………いや。別件だ」



 私はそう言って手紙をカロンに手渡すと、彼はそれを受け取り。

 サッと目を通し、笑った……。  


 

「ふ、ふ…………。オッホン! ふむ、困ったものだ。若い娘っ子用のネグリジェがないんだよ」



 …………そうきたか……。

 この爺めが……。



「買ってくれば良かろう」

「はい。ではそうしましょう。マディスタ、マディスタや」



 笑みを浮かべて頷いた彼は、懐から取り出した通話機能付き懐中時計を開き、最愛の妻の名を呼んだ。


『なぁに? あなた』



 聞きなれた女性の声。

 それにカロンは慈しむような笑み浮かべた。



「おぉ、マディスタ。突然で悪いが、若い娘っ子用のネグリジェを買うて来てくれんか?」

『あら、どうして?』

「坊ちゃんの嫁御が出来たんだよ」

『まぁ! なんですって?!』

「だからな。坊ちゃんに嫁が出来たんだ。犯罪臭いが、とびっきり可愛らしい嫁がな」




 おい。

 『犯罪臭い』とはなんだ。

 『犯罪臭い』とは。

 そして、嫁ではない。

 預かり物だ……。




『まぁ……まぁまぁまぁまぁ! 一大事じゃない!! ……あら? でも、『犯罪臭い』ってどういうことなの?』

「うむ。後で説明するから、とりあえずネグリジェを買うて来てくれ」

『分かったわ。とびっきり可愛いのを選んでくるわ! 何着いるの?』

「マディスタに任せるよ。お前が可愛いと思った物を数着買ってきておくれ」

『直ぐに出るわ! もぅ、すぐなんですからね!』


「あぁ。頼んだよ」



 カロンはそう言って懐中時計を閉め。

 懐に戻した。



「マディスタがよろこんでおりましたよ」

「あぁ」



 知っている。

 聞こえていた……。



「いやぁ……安心しましたよ。坊ちゃんがやっと身を固める気になってくれて」

「…………なぜそこまで話が飛躍する?」

「陛下のご命令とあらば、拒否はできないでしょうて」

「………………チッ」

「ほら、舌打ち。嫁御に嫌われるからやめるように」

「………………」



 お前は本当にお袋のようだな……。


マディスタ

 カロンの嫁。

 ランの侍女兼料理人。

 年は48。

 赤髪碧眼。

 明るい人。

 カロンと通話時はランの昼飯を作り終えたので、茶を飲んで一息入れていた。

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