第二話 対面
部屋にいざなわれ、対面したのは長く美しい漆黒の髪に、菫の瞳を持つ少女。
若干目が釣り目ではあるが、愛らしいと表現できるだろう。
「さて。ご用件は何かしら?」
こてんと小首を傾げ、少女は問うた。
一瞬何を考えここを訪れたのか忘れてしまっていたが、慌てて思い出す。
「人を、作れると聞いたが、誠か?」
問うと。
少女は左手の人差し指を唇に当て、俯き。
暫し考えるような仕草を見せた。
「……『人』というより、『生身の人形』が正しいと思うわ」
パッと顔を上げ、言う少女。
私はその少女の考えが上手くわからない。
「『人』とソレ、どう違う?」
「そうね……。……『動かない』、ということかしら?」
再び考えるような仕草ののち、少女はそう答えた。
が。
良くわからない。
「『動かない』?」
「えぇ。脈と呼吸はしますけど」
脈と呼吸をしていれば十分、人だろうて……。
「…………『人』ではないのか?」
「えぇ。『意思がない』のよ」
「つまり、魂が入っていないということか?」
「う~ん……。おそらく、そうかしら?」
「…………では、一体作ってもらいたい」
そのために、この館へ来る前。
館の主と話をつけた段階で大金をぼったくられたのだからな……。
今後のため、何も得ることなく帰るわけにはいかんのだ。
「もちろんよ」
少女はそう言って微笑み。
自身の隣に、黒くてまがまがしい。
背筋がゾッとし、胆が冷えるほどの魔力で作られた陣を展開。
その直後。
少女の指に一筋の小さな傷が出来、あふれてきた血を、陣が引きこんだ。
刹那。
黒くまがまがしい陣は、床にへたり込む、一糸まとわぬ女性へと変わっていた……。
「さぁ、どうぞ。貴方のための人形よ、さっさと持って帰って。言っておいた服は用意してあるのでしょう?」
『さようなら』
少女はそう言って執事と共に部屋を立ち去った。
部屋に残されたのは私と、コレ。
……そう言えば、女物の服を一着持ってくるようにと言われていたな。
まぁ。
それは馬車の中だがな……。
さて。
これを如何にして運べばよいのやら…………。
しばし考え、着ていたジャケットを脱ぎ、ソレの肩に掛けた。
すぅ、すぅ、と。
穏やかな寝息が聞こえた。
首に手をやると、とくり、とくりと、脈を感じる。
「本当は、眠っているのではあるまいな」
正直に言って。
持って帰りたくはないな……。
だが。
持って帰らねばならんのだろうなぁ…………。
嗚呼。
もう、このような仕事は受けんぞ。
今回はあのシスコンとこちらの二択だった故。
仕方なくだ。
二度は無い。
あぁ。
無いとも。
誰が好き好んでこのような、殺気しか感じぬ所なぞに来るものかっ……!
一歩でも間違えば、あのシスコンを相手にするのと同じではないかっ……!!
…………今回の件。
金銭ともに精神面でも交渉する余地はあるな。
陛下に詰め寄ろうではないか。
覚悟しておくがいいさ。
陛下……。
私は意気込み。
ジャケットを掛けた女を抱え。
馬車へと戻った。
その際。
御者役を買ってでた友。
ゼグロ・フォーズにギョッとした目で見られた……。
揚句。
『おいおい……それはないだろう』
と。
呆れ顔に、瞳に軽蔑の眼差しを浮かべて。
ゼグロよ。
勘違いするな。
私は女気は無いが、こんなものを相手にするほど落ちぶれてなどいないぞ。
分かっているだろう……?
お前と同様。
あのシスコン女のせいで仕事に忙殺されていることを……。
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